世界のファインダイニング by 江藤詩文

特別編 2022年版「アジアのベストレストラン50」総まとめ みんな大好き「傳」が「フロリ」が「ラ・シーム」が!

今年の「アジアのベストレストラン50」。もうご覧になりましたか?

「世界のファインダイニング」を愛読してくださっているみなさんは、“ガストロノミー界のアカデミー賞”といわれるドラマティックなアワードを、毎年楽しみにしているのではないでしょうか。今年は「アジアのベストレストラン50」がスタートして10周年。そんな記念すべき年に、旅恋でもおなじみ「傳」が1位に輝きました。日本のレストランがアジアの首位に立つのは、2013年の「NARISAWA」以来10年ぶりです。感慨深い…。

(アジア1位となった傳・長谷川在佑さんを祝福するFlorilege・川手寛康さん)

ランクインした50店のうち日本のレストランはなんと11店。ここで順位をおさらいしておきましょう。

1位 傳  *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto3/ https://www.tabikoi.com/eto4/

3位 Florilege(フロリレージュ) *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto1/           https://www.tabikoi.com/eto2/

6位 La Cime(ラ・シーム) *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto30/

(ランクインしたシェフたち。 左からvilla aida・小林寛司さん(14位)、La Maison de la Nature Goh・福山剛さん(36位)、Florilege・川手寛康さん(3位)、傳・長谷川在佑さん(1位)、cenci・坂本健さん(43位)、La Cime・高田裕介さん(6位)、ete・庄司夏子さん(42位)、SEZANNE・ダニエル カルヴァートさん(17位)、Ode・生井祐介さん (13位)(c) The World's 50 Best Restaurants)

11位 茶禅華 *coming soon!

13位 Ode(オード)*coming soon!

14位 villa aida *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto16/

15位 NARISAWA(ナリサワ)*coming soon!

17位 SEZANNE(セザン) *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto19/

 (Ode・生井祐介さんとLa Maison de la Nature Goh・福山剛さん)

36位 La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ) *coming soon!

42位 ete(エテ)

43位 cenci(チェンチ) *関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto14/

*1位、3位、6位、13位、14位、36位が集合したスペシャルディナーはこちら
https://www.tabikoi.com/7chefs01/ https://www.tabikoi.com/7chefs02/

さらに数々の特別賞も日本にもたらされました。

ハイエストクライマー賞(昨年からもっとも順位を上げた店))=Ode
ハイエストニューエントリー賞(初ランクインでもっとも順位が高い店)=villa aida
アジアの最優秀女性シェフ賞=ete

(特別賞とのダブル受賞に輝いた(左から)ハイエストクライマー賞のOde・生井祐介さん、
アジアの最優秀女性シェフ賞のete・庄司夏子さん、
ハイエストニューエントリー賞のvilla aida・小林有巳さん、寛司さん夫妻)

さて。ガストロノミーを愛するみなさまは、このアワードの仕組みをもうよくご存じかと思いますが、今年は世界的なパンデミックによる特別ルールが適用されたので、ここであらためて説明させてください。

* * *「知ってるよ」という方はここから読み飛ばしてください* * *

「アジアのベストレストラン50」の生みの親は、2002年に英国でスタートした「世界のベストレストラン50(通称フィフティー)」。それまでのレストランガイドや格付けは、国や都市といった地域や料理ジャンルによって区分され、その範囲で評価するのが定石でした。ところがフィフティーはまったくノージャンル。国も地域も料理の種類も価格も一切関係なし。ヨーロッパの超高級三つ星のエリートとアジアのストリート上がりのどっちが上位になるかわからないなど、とにかく“いま!”の時代の気分を体感できるレストランがカオスの様相で並び、世界のフーディーズが熱狂しました。

2013年には地域限定版として「アジアのベストレストラン50」と「南米のベストレストラン50」がスタート。今年は新たに「中東&北アフリカのベストレストラン50」も生まれています。

このユニークなランキングの立役者が、「ボーター」といわれる投票者。順位は毎年行われる投票の集計で決まります。投票者は、料理人やレストラン関係者、メディア、フーディーズがそれぞれ3分の1ずつ。男女比は半々。今年の「アジアのベストレストラン50」の場合、アジア全域では合計318人、日本では53人がボーターになりました。

投票の対象となるのは、ボーターが1年半以内に実際に訪れたレストランで、パンデミック以前は最大10店(居住エリア内は最大8店)までというルールでしたが、海外に行きにくかった今年は最大8店(居住エリア内は6店)までに。居住エリア外の2店については、渡航できなかった人は棄権OKという特別ルールが適用されました。

* * *読み飛ばしここまで* * *

「アジアのベストレストラン50」の見どころは3つあります。

ひとつは、言うまでもありませんが、毎年アップデートされるランキングの発表。

ふたつめは、各国を代表するトップシェフたちが、これまでに得た知見や哲学を国を超えて交換し、アジアの食の未来について考え行動する公式イベント。

3つめは、国も人種も超えたシェフたちのお祭り騒ぎ。ここから、意気投合した料理人同士がお互いの国を訪れ、新しい食文化を発見したり、コラボイベントを開催したり、新しいムーブメントが生まれています。

今年のアワードは、東京・マカオ・バンコクの3都市分散開催というイレギュラーなかたちで開催されました。

(3都市のうちもっとも華やかにアワードを開催したバンコクより。
東南アジア北部評議委員長のLitti Kewkachaさん(右)とランクインしたシェフたち。
(c) Litti Kewkacha)

(バンコクでは、タイ国内だけでなくシンガポールからも協力を経て、
タイとシンガポールの7人のスターシェフによる14ハンズディナーを開催したそうですよ!うらやましい。
Thitid 'Ton' Tassanakajohnさん(左から3人め)やDej Kewkachaさん(中央)は
来日してイベントを共催したこともあり、日本でも人気 
(c) Litti Kewkacha)

東京会場となったのは、食に強いパレスホテル東京です。

ランキングの発表に先駆けて、日本のホスピタリティ業界をリードする料理人たちが、ステージ上で意見を交換する公式イベント「50ベストトーク」が実施されました。

「サステナビリティ」をテーマにした第一部にはFlorilege・川手寛康さんとvilla aida・小林寛司さん、「クリエイティビティ」をテーマにした第二部にはLa Cime・高田裕介さんと里山十帖・桑木野恵子さんが登壇。ここでは第一部の内容をダイジェストでご紹介します。

 (50ベストトークの登壇者。(左から)第二部モデレーターの中村孝則さん、
第一部モデレーターで公式アンバサダーを務める山田早輝子さん、
La Cime・高田裕介さん、里山十帖・桑木野恵子さん、
villa aida・小林寛司さん、Florilege・川手寛康さん)

東京の喧騒の中心でFlorilegeを営む川手寛康さんと、和歌山の何もない田舎町で畑を併設したレストランを営むvilla aida・小林寛司さん。みごとに対を成すふたりのトークのテーマとなったのは「都市型と地方型 それぞれのサステナビリティ」。

サステナビリティ先進地域のヨーロッパの一流シェフとも親しい川手さんによると、サステナビリティが普通の人々の日常生活に落とし込まれるには、利己的な考え方を利他的な考え方にスイッチする必要があるとか。

つまり、サステナブルな食材=安心安全に(自分が)食べられるという、わたしも含めて

大半の人が認識している考え方は利己的。ここから意識を少しだけチェンジして、食材がつくられるまでの労働環境や環境負荷へも思いを巡らせてみるのが利他的。

日本では、サステナビリティを日常的に取り入れて実行している意識の高い人も、サステナビリティにまったく興味がない人も少数で、「気になるけれど、具体的な行動はときどきしかできない」という人が大半のはず(わたしもそうです)。このボリュームゾーンに対して、サステナブルな食材をガストロノミーに昇華し、意識を変えてもらえるようにメッセージをのせた料理をクリエイトすることが、都市型シェフのアプローチと川手さんは言います。

(スターシェフたちは普段から頻繁に意見を交換し、ガストロノミーの未来を考えています。
写真はアワード前夜、あずきとこおりにて。
(c) La Cime・高田裕介)

(アワード当日、デンクシフロリにて。(c)デンクシフロリ・橋本恭子)

一方、息をするくらい当たり前に毎日がサステナブルであることで、サステナビリティがそのままクリエイティビティに繋がっているのが小林さんです。季節によって収穫できる野菜の種類が異なるのはもちろん、それぞれの野菜の状態も、天候などの影響で日々変化します。そんな自然環境を受け止めながら、新芽や若葉、つぼみ、根っこなども、ひとつずつを大切な食材として、余すところなく丸ごと使い切る。余剰野菜を使ったカラフルな野菜のパウダーなど、どこにも売っていない調味料も自分でつくる。そんなサステナブルな厨房で試行錯誤を繰り返すことで、畑の野菜たちは唯一無二のクリエイティブな料理へと昇華されていきます。

そんな小林さんが心がけているのが、地元の生産者とつながること。すべての食材を自分でつくり、自分のレストランだけで完結するのではなく、地元の人たちを巻き込んで、地域にサステナブルなコミュニティを形成することが、地方型シェフにできること、と考えているそうです。

(くつろいだ雰囲気で開かれたアフターパーティ。(c)傳・長谷川在佑)

見どころの3つめ、シェフたちのお祭り騒ぎ=アフターパーティの会場となったのは、丸の内テラスのルーフトップバー&レストラン「THE UPPER(ジ・アッパー)」です。ここをプロデュースしているのは、La Cimeの高田裕介さん。受賞したシェフたちまで全員が平等に会費制という、アジア各国から見ると「信じられない!」かたちで、セミプライベートなパーティが開かれました。

パーティのメインイベントとなったのは、villa aida・小林寛司さんプロデュースによる、スターシェフのライブクッキング。「そのときそこにあるものでおいしい料理をつくる」が日常になっている小林さんらしく、選んだ食材はブッフェ台に取り残されていたBBQスペアリブ。とてもおいしいのだけれど、おしゃべりが弾んで手が付かず、このままではロスフードになりかねないそれを丁寧に骨から外し、グァンチャーレに見立ててカルボナーラをつくろうというわけ。これなら再加熱してもパサつきが気にならず、スペアリブのおいしさをそのまま生かせます。

急きょ、14位villa aida 対 43位cenciのパスタ対決という演出をしたこともあって、ふたりがつくったパスタは飛ぶように消え、後には骨だけが残り、パーティはお開きとなりました。

 (villa aida・小林寛司さん(左)とLa Cime・高田裕介さん)
(無茶ぶり(?)でパスタ対決をすることになったcenci・坂本健さん)

それにしても。記事掲載予定のレストラン(取材済みですごめんなさい少々お待ちを)を含むと日本勢11店のうち10店をカバーしている「世界のファインダイニング」。自分で言うのもなんですが、時代をキャッチしたレストランガイドとして、なかなか優秀なコンテンツではないでしょうか。

そろそろ旅を再開できそうな雰囲気になってきて、旅心がうずうずしている人も多いですよね。「世界のファインダイニング」でも、年内には海外のレストランもご紹介したいと思います。これからも「旅恋」と「世界のファインダイニング」、そして日本と世界で輝くレストランの応援をどうぞよろしくお願いします!

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