世界のファインダイニング by 江藤詩文

第3回 日本をもっと好きになる「日本料理 傳」(東京都・神宮前)–前編-

シグネチャーディッシュのひとつDENサラダ。自粛期間中、野菜の生産者を救うためにレシピを惜しげもなく無料で公開しました

「僕、料理がうまくないんですよ〜」

「日本料理 傳」主人・長谷川在佑さんと初めて会った時。何の気負いも衒いもないまっすぐな眼差しでそう言われて、心底驚きました。そんなことを言う日本の料理人に、それまで会ったことがなかったのです。

「モナカ」という日本語を世界に広めたシグネチャーディッシュのひとつ。こちらは2019年6月にシンガポールで開催したコラボディナーで作られたもの

傳は「ミシュランガイド東京2020」二ツ星、2020年版「アジアのベストレストラン」3位。押しも押されもせぬ一流の日本料理店。わたしの感覚では「すきやばし次郎」に匹敵する、世界でもっとも知られた日本料理店だと思います。そんな傳は世界一有名であると共に、世界一やさしい日本料理店でもあるのです。

シンガポールの日本料理店「ESORA(エソラ)」店主の小泉茂さん(左)と。本物の日本料理を伝えたいという小泉さんに、コラボディナーを開きエールをおくりました

日本料理に限らず、日本文化って敷居が高くて難しい。そう感じることはありませんか。料亭、懐石料理、茶道、華道、能、雅楽…。たまには日本文化を楽しもうと、うっかり街で着物なんて着た日には、あちゃ〜ということも。

若いコとちょっといいご飯に行くことになっても、フレンチやイタリアンなら星つき店でも怖気付かないのに、居酒屋以上の日本料理店は避けたくなります。

こちらもシグネチャーのひとつDENタッキー(フライドチキン)。日本の味覚を押し付け過ぎず、多数派である現地のゲストにも食べやすく仕上げています

そんな日本料理のファン層を広げたのが、傳の登場でした。しきたりや伝統は、興味を持ってからゆっくり学べばいい。まずは日本料理のおいしさ、楽しさに触れ、日本料理と仲良くなってもらいたい。長谷川さんの思いから生まれた、前例のないユニークな料理は、特に初期の頃には奇抜な面だけがフォーカスされたこともありました。

コラボディナーのひと品として登場した徳島産ハモのスープ仕立て。ハモを見たことがない現地ゲストのために、日本では行わないプレゼンテーションをしています

それでもまったくぶれることなく、「日本文化へのエントランス」として、若い世代から外国人まで誰にでも門戸を開き、温かくもてなし続けてきた傳。

「日本には世界に誇るべき日本料理店がたくさんあるし、尊敬すべき先輩の料理人さんがたくさんいます。日本料理に関心を持ったら、そんなお店を体験してみてほしい。僕より料理が上手な方ばかりですから。ほら、僕、料理がそんなにうまくないんで(笑)」

今年5月にはモスクワの有名レストラン「White Rabbit(ホワイトラビット)」(2019年版「世界のベストレストラン」13位)の依頼でバーチャルコラボディナーを開催。ロシアの富裕層に日本の食文化を紹介しました

日本料理の文脈をわかりやすく再構築してファンのすそ野を広げた傳は、いまもうひとつの大切な役割を担っています。そちらは後編で。

「日本料理 傳」https://www.jimbochoden.com

予約は平日12時〜17時に2ヶ月先の同日分まで電話で受け付けています。詳しくは公式ウェブサイトのRESERVATIONに記載された案内を参照してください。

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