ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第29回 豊洲へ移転してから4年。懐かしの築地場内市場の記憶をたどって(東京都・築地)

世界中のどこへ赴いても、その土地らしさが感じられる場所である「市場」。そんな市場好きの私が、移転前の築地場内市場に通う料理家の友人にくっついて度々足を踏み入れ、隈無く歩いて撮影をしていたのはかれこれ10年前のこと。

移転から4年が経ち、現在は更地となった広大な土地はなんと東京ドーム5個分だとか。今回の「ニホンノカタチ」では撮影していた当時の記憶を辿ります。

場内は、入るとまずは左手に関連棟が並び、乾物や道具を扱う店や喫茶や行列のできる寿司屋が軒を連ねていました。その関連棟の道を挟んで右手には「やっちゃば」と呼ばれる青果を扱う店が並ぶ建物。そしてその先の目貫通りの中央のお立ち台には、24時間365日交通整理を担う巡視さんが立っていて、場内の一つの名物でもありました。大通りを渡ると、そこには競り場や大卸、仲卸が並ぶ大きな建物、大きな弧を描いていたことから「扇」とも呼ばれていました。

扇型の理由はかつて列車が走っていた名残。その形状は効率よく荷下ろしをするための工夫だったとか。

大通りに立つ巡視さんも場内の見どころだった

場内に最初に訪れた時にはそのスピード感にうまく乗れず、度々何かに轢かれそうになったり、うっかり邪魔をして怒鳴られたり。ところが回数を重ねるごとに流れにスムーズに乗れるようになると、得意になって軽やかに闊歩していました。

朝8時前後。料亭やお得意さんの買い付けが一通り済んで、観光客が押し寄せる前の時間を狙って訪れると、場内は人が減って少し落ち着きます。長年通い続ける友人が顔見知りの仲卸さんから声をかけられたり、冗談まじりに立ち話したりする姿を羨望の眼差しで眺めながら、興味に任せてひたすらシャッターを切っていました。

 朝8時を回ると少しだけ落ち着く扇の中

大卸から競った魚介類が入った発泡スチロールが積み上がり、裸電球がじんわりと光を放つ向こうには、アナログな秤(はかり)がぶらさがり、その奥の帳場ではそろばんを弾く音、仲卸業者がずらりと並ぶ建物の中では、五感がフル稼働。とにかく情報量が多くて興味津々、私にとってはまるでアミューズメントパークのようでした。

この中は狭い通りが碁盤の目のようになっていて、人が歩くだけでなく、荷物を運ぶための自転車や「ターレ」と呼ばれるターレットトラック、人力で引っ張る「小車」が所狭しと行き交い、正にカオス状態。

これらをひょいとかわせるようになるまでは、結構時間がかかりました。

左上と右下がターレ、右下が小車

それでも活気ある場内には毎回訪れる度にワクワク。帰りには決まって関連棟の喫茶「愛養」でミルクコーヒーを注文し、店主の竹内さんと会話もできるようになってからはますます場内が楽しくなっていったことを思い出します。

そうそう、とても印象深かったのは場内入口付近に立つ「拾得物掲示板」。毎回ここに記された拾得物が独特で、見るのが楽しみでした。

だって「スッポン」が忘れ物って市場ならではですよね(笑)

毎回見るのが楽しみな拾得物掲示板と独特な雰囲気を醸す氷販売場

今となってはすっかり懐かしい築地場内市場。現在の豊洲市場にはまだ足を踏み入れたことはありませんが、実は築地市場の「場外」は今も変わらずに、その姿のまま残っています。それでも建物は老朽化が進み、いつの日か再開発は避けられないのだとは思いますが、人と人が触れ合って暖かくコミュニケーションできる市場文化は長く受け継がれてほしいと切に願っています。

2022年12月。築地場外市場は再び海外からの観光客で賑わっている

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