日本初公開作品46点。メトロポリタン美術館の珠玉の名画で西洋画史を辿る(東京都・六本木)

私が高校生の時、NYのメトロポリタン美術館を訪れたことがあります。まだ美術にそこまで興味がなく、だだっ広い上に次から次へと現れる作品の数々に疲れ果ててしまった記憶があります。なんとも勿体ない話です。あれから数十年、コロナ禍で困難な中、メトロポリタン美術館から珠玉の名画65点が来日してくれました。

六本木の国立新美術館にて『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』が2022年2月9日に開幕しました。

(※すべての写真はプレス内覧会にて許可を得て撮影)

会場を歩いて気がつくのは、時折視線が遮られてしまうこともある柱が、この会場にはないこと。広々とした空間にゆったりと作品が展示されており、とても見やすいのです。また、壁の色も、青、目の覚めそうなほどの赤、薄いピンクなどに分かれており、空間自体がアートのような海外の美術館に立っているかのような錯覚を感じます。順路も示されていないので、混雑していなければ、気になる作品の元へ戻ったりも出来そうです。

会場風景より。第一章「信仰とルネサンス」

会場は、「信仰とルネサンス」「絶対主義と啓蒙主義の時代」「革命と人々のための芸術」の3章で構成され、名画65点が一堂に展示されています。その内、日本初公開が46点! とても贅沢な展覧会です。

また、作品そのものや画家の関係性、作品に描かれている対象など、ポイントポイントでそれぞれの作品を比較できるように並べて展示されているのも興味深いです。

カラヴァッジョとラ・トゥール

例えば、カラヴァッジョ《音楽家たち》と、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《女占い師》もそのひとつです。16~17世紀のイタリアでバロック絵画の立役者となったカラヴァッジョは後世の画家たちに大きな影響を与えました。そのひとりが17世紀のロレーヌ公国(現フランス北東部)の画家ラ・トゥールです。時代も国も異なるので、実際に2人が会ったことはないはずですが、ラ・トゥールの作品に、明暗表現に長けたカラヴァッジョの影響を大いに感じます。

会場風景より。左:カラヴァッジョ(本名ミケランジェロ・メリージ))《音楽家たち》(1597年)
右:ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《女占い師》(おそらく1630年代)

フェルメールとメツー

また、ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》とハブリエル・メツー《音楽の集い》も並んでいます。数年前に開催された他館の美術展にて、メツーの作品が光の表現や構図、背景などがまるでフェルメール!?と大いに評判になったことも記憶に新しいところ。フェルメールも同時代の画家に影響を与えた一人ですので、今回の2作品もどこか似ているところがあるかも? ぜひ会場で見比べてみてください。

会場風景より。ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》(1670-72年頃)

会場風景より。ハブリエル・メツー《音楽の集い》(1659年)

クールベとレオン・ジローム

対照的な女性のヌードを描いた作品も並んでいます。

会場風景より。左:ギュスターヴ・クールベ《水浴する若い女性》(1866年)
右:ジャン=レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》(1890年頃)

おそらく若い女性を描いているクールベの作品ですが、女性としてはちょっと目をそらしてしまいたくなるようなボディライン。ぼこぼことしたセルライトもそのまま描かれておりとてもリアルです。一方、ジロームの作品のヌードは理想的な美しさで描かれています。これは生きている女性に失望し、一生関わらないことを決めたキプロス島の王が、自身のために女性の彫像を彫り、その彫像にキスをすると生命が吹き込まれたという姿が描かれています。現実的な絵画と、空想の美の絵画、別の意味でどちらも物悲しくなってしまいますが、比べてみるとおもしろい作品です。

 

他にも、ギルランダイオ、ラファエロ、エル・グレコ、ターナー、ゴヤ、マネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌ、シスレーなど、15世紀の初期ルネサンスから19世紀のポスト印象派まで、西洋絵画史500年を網羅する数々の作品が見られる今展。様々な感性が刺激されるはずですので、ぜひ会場へ足を運んでゆっくり名画にひたってください。

すみっコぐらしとコラボしたグッズや本展オリジナルグッズなどを購入できるミュージアムショップも必見です。

メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年

会期:開催中〜2022年5月30日 ※事前予約制(日時指定予約券を購入)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
開館時間:10:00~18:00(毎週金・土曜は20時まで/入場は閉館30分前まで)
休館日:火曜(5月3日は開館)
料金:一般 2,100円/大学1,400円/高校生1,000円/中学・小学生 無料
https://met.exhn.jp/

取材・文/塩見有紀子

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