次にくる美食デスティネーションはスペイン、韓国、そして…?「マドリード・フュージョン2024」からガストロノミーの未来が見えてきた!(スペイン・マドリード)

スペイン政府観光局提供

世界のスターシェフをはじめ、F&B業界、ホテル、ガストロノミーツーリズムを手がける旅行会社、そしてフーディーズまで、世界中の「食」にまつわる人々が毎年注目する世界最大級の料理学会が「Madrid Fusion(マドリード・フュージョン)」です。2024年は1月29〜31日に開催されました。

「マドリード・フュージョン2024」が開催された「IFEMA MADRID」

といっても「料理学会なんて知識と技術を持ったプロフェッショナルな人のためだけものものでは?」と思いますよね。けれども「マドリード・フュージョン」は別格。たとえば料理の世界に「分子ガストロノミー」という概念を持ち込み、日本も含めて世界中のレストランに革命を起こした「El Bulli」がブレイクしたのも、南米ペルーが料理業界のアワードで「世界で最も美食を楽しめる国」部門を何年にも渡って連続受賞しているのも、過去を振り返れば日本の刃物と職人の技術の広さが世界に広く認められたのも「マドリード・フュージョン」がきっかけ。

つまり「食べるために旅をする」食いしんぼのフーディーズにとっては、次に訪れたいガストロノミーデスティネーションを占うのに見逃せないトレンドが満載なのです。

エキシビジョン会場には国内外たくさんの食材が展示(試食できることも!)。入場はチケット制なので料理学校の学生がたくさん来場

「マドリード・フュージョン」は毎年テーマを設定していて、今年のテーマは「Where it all begins」。日本語に訳すと「すべてが始まる場所」のような感じでしょうか。ヨーロッパはもとよりアジア、南北アメリカなど世界各国から集まったスターシェフたちが、テーマに沿ったスピーチやデモンストレーションを行うプレゼンテーションがメインイベントです。

左:開催地マドリードで唯一の三つ星「Diver XO」のDavid Munozさん photo/Madrid Fusion 2024 右:地元のスター・David Munozさんが登壇したステージは凄まじい熱狂

 

「マドリード・フュージョン」に参加してみて、私が読者のみなさまにとりわけシェアしたい注目すべきガストロノミーデスティネーションは以下の3つです。

イチオシはやっぱりスペイン。開催地ということを差し引いても、スペインのトップシェフたちの思想や活動は革新的だと感じます。「マドリード・フュージョン」が始まって今年で22年。黎明期からスペインのガストロノミーの発展(モダン・スパニッシュですね)に寄与したシェフたちはもちろん、次の世代のシェフたちも、毎年開催される「マドリード・フュージョン」を日ごろから意識して、常に世界の最先端の風を浴び続けているのがその理由でしょうか。こういった、すぐに利益には結びつかないかもしれないけれど未来に繋がる学会を長い間開催し続けてきた意義が、ちょうど実を結んでいるように思います。

左:スペインが生んだ世界のカリスマ「El Bulli」のFerran Adriaさんは、なんとあの二つ星「Mugaritz」のAndoni Luis Adurizさんとチームを結成。右:国内外に門戸を開くカリナリースクール「MAC(Madrid Culinary Campus)」の創立を発表。会場は歓喜にわく  photo/Madrid Fusion2024

バルセロナの三つ星「Disfrutar」のOriol Castroさん(左)とEduard Xatruchさん。共に「El Bulli」出身  photo/Madrid Fusion 2024

「カタルーニャ人にとって食とは生きるための糧だけでも、娯楽や嗜好でもなく、文化のひとつ」と語ります photo/Madrid Fusion 2024

 

エキサイティングなプレゼンテーションが続いたスペイン勢の中でも特に興味深いテーマを提唱したジローナの三つ星「El Celler de Can RocaのJoan Rocaさん(左)と「Nordic Centre for Genetic Resources」のLise Lykke Steffensenさん photo/Madrid Fusion 2024

Lise Lykke Steffensenさんは、必ず来るとされる食糧難時代に備えて生物の多様性を守るため、遺伝子資源を保存する施設で研究を続けている  photo/Madrid Fusion 2024

失われつつある植物の種。こういったテーマで発信できる機会はなかなかないそうで、トップシェフと研究機関がタッグを組む意味をあらためて認識

「これまで食べてこなかった植物資源をどうおいしい料理に変化させるか。私たち料理人のこれまでの経験が役に立ちます」とJoan Rocaさん。もの静かな語り口ながら、人々を飢えさせない、おいしさの楽しみを奪われないという熱い思いが伝わる  photo/Madrid Fusion 2024

 

休憩を兼ねてふらっとエキシビジョンを回れば、そこは世界のワインとフードのパラダイス。スペイン各地域の食材はもちろん、世界各国の食材、調味料、ビバレッジなどが展示され、とてもすべてを回り切れませんでした。日本のブースでは、わさびを使った料理のデモンストレーションや日本酒のテイスティングなどが行われました。

左:スペインといえば生ハム!すぐ隣りにはワインのブースもあり。右:豚肉の生ハムの伝統的な製法を応用したマグロの生ハム。これを寿司にアレンジしたりと新しい味覚が次々に考案

 

その他の注目したいガストロノミーデスティネーションは韓国。韓国はここ10年ほど国としてガストロノミーに力を入れていて、2016年には「ミシュラン・ガイド」の誘致に成功。最近では「Asia’s 50 Best Restaurants 2024」(←またあらためてレポートします)の開催地となりました。「マドリード・フュージョン2024」でも大手企業のHyundaiがスポンサーとなり、ひと際目を引く大きなブースでさまざまなプレゼンテーションを行い、来場者は長い列をつくっていました。

そんな韓国から登壇して、大きな注目を集め話題をさらったのがソウルの名店中の名店「Mingles」のKang Mingooさんです。

二つ星「Mingles」のKang Mingooさん(中央)。欧米のボルテージ高めなテンションとは異なり、東洋人ならではのたおやかなプレゼンテーションで聴衆を魅了  photo/Madrid Fusion 2024

Kang Mingooさんのプレゼンテーションのテーマは「醤(ジャン)」。水・麹・大豆だけで奇跡のような”ウマミ”をつくり出すという魔法みたいなアプローチは訴求力抜群。韓国の伝統的な食文化である「五味五色(青・赤・黄・白・黒)」を効果的に使った映像美も印象的

美しい韓食。プレゼンテーション終了後は、特に欧米メディアからの取材依頼が相次ぎ、韓国メディアだけでは対応しきれず、「同じアジア人で隣りの国だからわかるだろう」という雑すぎる理由(笑)で、私にまで取材コーディネートのお願いが。日本についての取材依頼がひとつもなかったのが日本メディアとしては残念 photo/Madrid Fusion 2024

左:いまもっとも勢いがあり、国際的なスターシェフとして活躍するNYCの二つ星「Atomix」のJunghyun Parkさんもステージに photo/Madrid Fusion 2024 右:K-POPを思わせるリズミカルでセンスのいい映像を駆使した魅力的なプレゼンテーション  photo/Madrid Fusion 2024

 

日本人シェフも登壇!今回日本から唯一のシェフとしてプレゼンテーションを行った沖縄・宮古島「Etat d’esprit」の渡真利泰洋さん  photo/Madrid Fusion 2024

渡真利さんは「Okinawa」をテーマに真っ青なビジュアルがインパクトのある魚「イラブチャー」、沖縄のハーブ「月桃」、琉球の伝統酒「泡盛」の古酒などを紹介  photo/Madrid Fusion 2024

 

最後にご紹介したい注目の美食デスティネーション、というより美食ルートはこちら。米フロリダ州マイアミ市にストップオーバーするペルーへの旅、です。

日本人に大人気の世界遺産「マチュピチュ」を有するペルーは、冒頭でご紹介したように「世界で最も美食を楽しめる国」に輝く旅先。さらに日本人にとっては興味深い「ニッケイ」という、日本料理の影響を受けながらも独自に発展した料理ジャンルが確立した国でもあるのです。

ペルーの首都リマと古くから交流があったというマイアミには日系移民も多く、日本文化が比較的早くから取り入れられていたとか。「ニッケイ」料理も広く定着  photo/Madrid Fusion 2024

「ニッケイ」がテーマとあって、自身もマイアミにレストランを持ち、ペルーでは”大統領より有名で人気者”ともいわれるセレブリティシェフ、Gaston Acurioさんが若手料理人のサポーターしてステージに登場  photo/Madrid Fusion 2024

マイアミでペルー発・新「ニッケイ」料理を手がける「La Mar by Gaston Acurio」のDiego Okaさん(左)、「Itamae」のValerie(中央)、Nando Changさん夫妻  photo/Madrid Fusion 2024

 

いかがでしょうか。”死ぬまでに一度は行きたい旅先”ともいわれるペルーには、「ニッケイ」の先駆者であり世界的な名店「Maido」もあります。ペルーで本来の「ニッケイ」を味わい、かつての移民の気分に浸りながらマイアミへ。ここでアメリカナイズドされた日本人にはびっくりの”ジャパンフード”と出合って、いままさに変化を遂げている「シン・ニッケイ」料理を食べてみる。ちょっとマニアすぎるでしょうか。ていうか、私がやりたいよ。

マドリードに行ったら絶対に足を運びたいプラド美術館 。スペイン政府観光局提供

 

食い意地だけで生きている私がランチもトイレも時間を惜しむほどエキサイティングだった「マドリード・フュージョン 2024」。次回は2025年1月27〜29日にスペイン・マドリードで開催される予定です!

取材協力/スペイン政府観光局

*記事内の情報はすべて訪問時のものです

 

取材・文/Shifumy(江藤詩文)

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