あなたも「近代化遺産」萌え! by 関屋淳子

第48回 廃墟の女王に出会う「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」(兵庫県・神戸市)

新神戸駅からバスで15分ほど、住宅街のなかに突如現れるのが、標高702mの摩耶山。登山道もありますが、ケーブルカーとロープウェイで気軽に山頂まで登れる身近な山です。ロープウェイの終点駅には市街を見下ろすカフェやバーベキューテラスがあり、掬星(きくせい)台展望台は神戸の夜景を一望できるナイトスポットとしても知られています。

しかしそれだけではないのです。ここにはかつて摩耶観光ホテルというモダニズム建築のホテルがあったのです。通称「マヤカン」と呼ばれる建物は1930年、摩耶山の中腹に完成。第二次世界大戦ののち、1961年、全面改装され再オープン。内装は解体された豪華客船の装飾品などを使い、余興場やビアガーデンを備えた山上リゾートとして賑わいました。しかし台風被害で営業を休止、その後学生の合宿用の摩耶学生センターとして転用されますが、1993年に閉鎖となります。

阪神・淡路大震災で建物は大きく損傷し立ち入り禁止になりますが、不法侵入が後を絶たず、迷惑物件へ。しかしマヤカンを愛する人々によって摩耶山再生の会がつくられ、クラウドファンディングなどを実施し、国の登録文化財を目指しました。そして2021年、廃墟としては異例の国の登録文化財となり、今やドラマや映画のロケ地として大人気です。

 マヤカンはもちろん勝手に入ることはできません。見学は摩耶山再生の会が主催する「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」に参加するのみ。その機会を得て、ドキドキの体験です。まず驚いたのが、セキュリティ対策が施されていること。ヘルメットをかぶり、セキュリティを解除してから潜入です。

足を踏み入れたのは4階部分。足元には崩れた破片が散らばり、まさに廃墟。余興場だった大広間にはアーチ状の窓があり、外光が降り注ぎます。アールデコ調のデザインや丸窓など、気品を備える廃墟の女王と呼ばれる所以がわかります。

正面の舞台も今にも崩れそう。洒落た椅子が置かれているのは、撮影などで使った備品のようです。かつてはここで生バンドの演奏も行なわれていたといいます。またツアーでは見学できないのですが、『たとえあなたを忘れても』というドラマのシーンで使われたグランドピアノがそのまま残されている部屋もあるそうです。

マヤカン周辺は深い緑に覆われています。摩耶山原生林が広がっているのです。森が抱く人工物はやがて山と一体となるかもしれません。それが廃墟の宿命かもしれません。それでも摩耶山のシンボルに今、出会えたことは一生心に刻まれます。マヤカンの価値を知る方々が、この女王を護ってくださることに感謝したいと思います。

 

摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ