京都には深い井戸が幾つもある by 小林禎弘

第41回 昭和初期のノスタルジックな趣と薪で焚いたやわらかな湯「長者湯」(京都市)

日本の銭湯の数をご存じでしょうか?全国1865軒(2022年)ですが、ピークの1968年17999軒からすると十分の一です。京都市内は450軒が80軒になっています。この状況の中、地元に愛され、温泉感覚で訪れる旅行客などで繁盛しているお風呂屋さんがあります。西陣南端で水上勉作「五番町夕霧楼」の舞台にも近い「長者湯」です。現ご主人の間嶋正明氏にお話を聞きました。

経営されている間嶋正明、好美ご夫妻

京都大阪の銭湯経営者の多くは、石川県出身が多いのですが、正明さんは兵庫県西脇市出身。スキー場で知り合った2人に義父好一さんから出された結婚の条件は、「銭湯を継ぐこと」。京都本社で今や世界のハイテク企業、計りの(株)イシダの第一号体重計で貫目のメモリ。マッサージ器のコイン入れが壊れているので20円を番台に払い、使用。

明治からあった銭湯を大正6年に買い受け創業されたのが儀祖父の上出久一氏で、106年の歴史を刻みます。現在の建物は昭和11年に新築された時の物です。お湯の特徴は井戸水を、市内10軒しかやっていない薪で焚いた柔らかさと、15人しか入れない湯船を常にオーバーフローさせている新鮮さです。水道水とは全く違うまったりした肌触りで、温まりやすく湯冷めがしにくいです。また熱を閉じ込めてさわやかになるので、最後に水風呂に是非入って欲しいそうです。

薪の釜場と渇水状態の井戸。季節によって、溢れんばかりの水位に。
釜場と井戸は見せていただけます

スーパー銭湯が人気ですが、「必要十分な殺菌だけをした井戸水を使っているうちの方が絶対に水がきれい」と自信をのぞかせます。表構の銅葺きの破風と「長者湯」の文字が入った鬼瓦が出迎え、奥に昭和26年から白山の麓で採取されたものを使っていた名残の「ラヂウム温泉」の看板が見えます。脱衣場に入ると正面に釉薬で描いた見事なタイル絵があります。男湯は雪の金閣寺、女湯は桜の清水寺で、平安建都1200年記念(1994年)に制作されたタイル絵です。

簡素で現代的ながら、赤青のレトロな蛇口、水風呂にはライオンが!
奥右には3名入れる新築のサウナ、
左は薬湯で春から冬の手前まで隔週水曜は、緑色で香りが良いヨモギ湯

平安建都1200年の文字が入った1m✕6mのタイル絵。釉薬で描かれた焼物(陶板)なので色あせることがない

窓の外には小さな庭に不釣り合いな大きな燈籠と錦鯉が泳ぐ池があります。男湯は昭和2年に嵐山から牛車で運んできた雪見燈籠、女湯は猪の目が彫られた春日燈籠です。今や兵庫県豊岡市・出石の工房のみが製作している1個¥33,000もの柳行李は、傷むので年間3個は購入しなければなりません。

雪見灯篭は直径1.5mもあり、円山公園の池の燈籠と同型。
春日燈籠には猪の目(ハートマーク)が彫ってあるので探してみてください。
紅葉も美しいです

2006年に、映画「舞妓Haaaan!!!」の撮影に使われた場所。
柳行李は着物をたたんで入れる文化の名残で、着物の湿気を吸う役割。
男女の区切り壁の上にある見事で複雑な彫の欄間も一見の価値あり 

浴場は湯船3つ(1つは薬湯)、水風呂、そして奥に国産ヒノキ張りの今年新築したサウナという造りです。毎月、第1・3水曜日に無施肥無農薬栽培を手掛ける農家の友人が作物を売るのに場所を提供し、その日は採ってきてもらったヨモギを使った薬湯が大人気でした。

長者湯:〒602-8263京都市上京区上長者町通松屋町西入ル須浜東町450
     075-441-1223  火曜日(定休日) 15:1024:00(営業時間) 
     大人490円 小学生150円 ~5歳60円

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