京都には深い井戸が幾つもある by 小林禎弘

第40回 これぞ昭和レトロ、京都の地の顔が覗ける、飲みや横丁・寛遊園(京都市)

前から気になっていた路地があります。そこは四条大宮から、大宮通を北へ100mちょっと上がった東側のいわゆる飲み屋横丁で、三方を細い路地に囲まれた島です。

大家さんの井上寛治さんにお話を聞きくことができました。近くにある井上さんのお宅は100年を超す旧家で、にらみを利かせた二体の仁王像が通りに面して立っています。井上家は、代々「植木清(うえきせ)」という造園業(植木職人)を営まれていましたが、お父様にあたる井上寛四郎さんが昭和30年に廃業され、資材置場になっていた「島」の場所に長屋を建て、奥に広がる路地一帯も合わせて寛遊園と名付け、飲食業への賃貸を始められました。

一軒また一軒と酒場が増え、最盛期には30軒もの店があったそうで、今も平屋が並ぶ昭和レトロの味わい深い風景があります。その中から三軒を紹介します。

「へそまがり」の店主・松村薫さんは、向いの居酒屋で雇われ店長をしていました。懇意にしていたご近所の井上さんに貸してもらい独立、9年たちます。席の目の前にあるのが、とろとろに煮込んだ牛テール煮込みや、すじ煮込みの鍋と味噌煮込みのおでん鍋です。こだわりの日本酒や焼酎は、珍しい銘柄がそろっています。

「へそまがり」席はカウンターのみ、入口は狭い路地に面しています。水曜日休み、17:30~23:00

牛テール煮込みは量によって1500円~2500円。
味噌煮込みおでんは150円~250円。清酒、焼酎など890円~980円(150ml)

「スナックきよみ」の店主は、21年目になる御年78歳の衛本喜代美さんです。どうしてもこの場所がよくて、前店主を口説き落として入らせてもらったそうです。三条通の仕出し屋の娘の衛本さんの美味しいおばんざいが食べられます。地方のビジネス客や二日に一度来店する地元客、若い女性客などお客さんの筋がとてもいいそうです。

「スナックきよみ」の店内と出されるおばんざい。
値段は、お酒2、食べ物1、カラオケ3、1時間で2500円。日曜と第3月曜が休み、18:00~24:00

長崎出身の店主・井出静香さんは「おふくろの味しず」を始められて17年たちます。長崎の調味料を使うのがこだわりで、長崎のじゃこ天が入った塩焼きそばやお造り、おばんざいも人気で、メニューにないものも出されます。安くて地元の女性客が多いです。

「おふくろの味しず」路地の一番奥。女性客が多く、毎日来る人や、寛遊園内ではしごする人も。
取材日も全員女性。17時に入って18時に帰る80代老人グループも常連客。
月木が休み、17:00~23:00ですが、1:00、2:00になることも

人気の塩焼きそば600円。お酒類550円~600円、カラオケ1曲200円など1人2000円~2500円

現在の寛遊園は歯抜けで10軒もないのですが、大家の井上さんは管理ができないという理由で、借りたい人を断っているそうです。消えてゆくのか、昭和のノスタルジックな風景……。

大宮通からの寛遊園入口と奥にある路地。
入院中で休業されていたり、空き家になっていたりと歯抜け状態。

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