スペシャル 「星野佳路をまる裸にする!」

 

星野リゾート代表 星野佳路(よしはる)さん 62歳 

1960年長野県生まれ。1983年慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院にて修士課程を修了。1991年星野リゾートの代表取締役社長に就任。

 

星野佳路さんを丸裸にする10問の〇✕質問に答えていただきました!

その様子は→Instagram旅恋公式チャンネル

 

①生活の中心は仕事よりスキーである  ✕

私は年間60日スキーをするという目標を毎年掲げています。生活の中心がスキーと言いたいところですが、60日では足りない!と思っています。スキーヤー仲間には年間100日という人がいるんです。202112月~20224月で65日滑りました、2月は28日間のうち21日滑りました(笑)。今年は7月・8月に南半球でスキーができると思いますので100日は不可能ではないと思っています。

毎年、5月~7月初めまでと、9月~11月は仕事中心の期間です。もちろんスキーシーズンもリモートで仕事をしているので雪山に長期滞在することが可能になります。スキーの魅力は、言葉にできない脳内快感物質が出ていることなのです。バックカントリースキーの快感。3時間雪山を登って降りてくるのが30分。その滑り降りる瞬間のために登るわけです。

写真:星野リゾート提供(2枚とも)

 

②毎日必ず行うルーティーンがある  ✕

歯磨き以外ありません。何も決めていません。仕事月とスキーシーズンでは全く生活が異なり、雪山では早起きしてすぐに出発です。普段も7時くらい、目覚まし時計が鳴る前に起きるときが多く、最短30分で出かけることができます。

③掃除より料理が好きだ  ✕

掃除は好きです。掃除は始めると徹底してやるタイプです。料理は作りますが、頻度は高くありません。以前は11食でしたが、今は12食。スキーシーズンの朝は、板を2本、ウエアを2着、ヘルメットなどなど綺麗にパッキングしますよ。

 

④星野リゾートの施設の中で一番好きな施設がある  ✕

私はひとつひとつの施設に深く関わってきました。施設の立ち上げに際しては予算があり、理想に対して、どこかで妥協しなければいけないことがあるわけです。ああしたかった、こうしたかったということがらが、施設に行くと思い出してしまう。それでリラックスできないのです。妥協がいちばん少ないのが「星のや 竹富島」です。ストレスが低いところですね。それから、「青森屋」はこだわりがないから、ストレスがない。ノリでサービスしていて、変なものが出てきても気にならない(笑)、ここはこれでいいと。

また、スタッフも気になってしまいますね。離島や北海道のトマムなどは若い世代が楽しむところもなく、それでもスタッフは働いてくれている。そのようなところで自分だけがリラックスしようという気持ちにはなりませんよね。

⑤GO TO トラベルキャンペーンはすぐに始めるべきだ 〇

これは、今すぐに始めるべきです。今しかありません。私は以前実施したGO TOの改善版ということは考えなくていいと提言しています。2020年当時の観光の課題と、今の課題では違います。

前回はここが良かった悪かったと、軌道修正をしがちですが、今の課題の解決に集中すべきであると考えています。現在は、大都市周辺の観光地や温泉地には人が戻ってきています。サポートの必要があるのは飛行機を伴う観光地です。まだ戻し切れていません。とくに北海道・沖縄・四国など。東京など都市部の人が飛行機での旅を促すGO TO、宿泊施設よりも航空事業や、飛行機利用者への補助・割引などですね。

そして、新しいGOTOの最大の効果は、飛行機に乗っていいですよ、国内を旅していいですよ、というメッセージ効果であると思っています。堂々と旅をするメッセージを。

 

⑥新型コロナウイルスは旅を変えたと思う  ✕

長い目で見ると旅のカタチは変わらないと思います。インバウンドも戻ってくるでしょうし、元のように旅をしたいという気持ちは変わらないと思います。コロナ禍で気づいた、ワーケーションという旅は続いてほしいですね。じつはワーケーションには観光地の閑散期を埋める効果があります。ワーケーションが定着すると日本の旅行は劇的に変わると思います。

ただし、ワーケーションを新しい旅として定着させるためには、積極的に環境を整える必要があります。筆頭は、就労時間の問題です。今は労働時間を会社が管理することで残業や過労死の問題などの責任を負っているわけですが、これを働く側がある程度の責任を担う、それを社会全体が容認することが必要です。たとえばワーケーションで過重労働状態になった場合、だれの責任になるのか、非常にシビアな問題をはらんでいます。

 

 

⑦今、気になる競争相手がいる  ✕

競争相手というよりも、脅威はインターネットの進化です。過去20年で予約の取り方やお客様の施設の評価方法などは劇的に変化してきました。1991年に私が家業を継いだ時に、予約ボードがあり、キャンセルが出ると消しゴムで消していました。そのような時代からHPでの予約、そして一休・じゃらん・楽天、エクスペディア、トリップアドバイザー、グーグル…。

弊社の予約は約70%が自社サイトからで、そのうちの8割がスマホで予約しています。この変化のスピードが止まりません。先が見えないほど変化し続けています。10年後のお客様の予約方法は今我々が想像できない姿になっているかもしれません。それがいちばんの脅威です。

たとえば、コロナ禍でレストランの営業時間が変更になりわからないときがありました。そのようなときにミレニアル世代はインスタグラムを見て、「今、この店営業しています」と確認する傾向がある。この変化ですね。弊社では情報システムに関わっているスタッフが56人、それでもやるべきことが多く4年先の事案まで決まっているという、星野リゾートの変革の一つを担う仕事になっています。

 

⑧日本の観光はだいぶヤバくなったと思う  ✕

「日本の観光をヤバくする」という言葉は、星野リゾートの内部向けのミッションステートメントです。日本の観光全体ではまだまだ課題は山積みです。なんといっても休日分散ができず、繁閑の差があるということです。真の観光立国を目指すのであれば、需要側の変革をすることは必須です。

私は2004年から、ゴールデンウイークのような大型連休を地域別に分散化することを提言し続けています。観光産業全体をみてみると、正規社員は25%、非正規社員がほとんどなのです。何故かというと、繁閑の差が激しいために正社員を雇うことができないからなのです。年間を通して需要があれば正社員を増やすことができる、この問題を解決するのが何より重要です。

さらにインバウンドについても地方の新しい経済基盤となることが目標の一つでしたが、東京・大阪・京都に集中し、当初の観光立国の目標とは少し離れてしまっています。

また、観光には、文化面と自然面があるのですが、日本は文化観光が強く自然観光が弱いという傾向があります。アメリカは自然観光も強く世界中から人を惹きつけます。スイスもそうですね、鉄道旅やスキー旅でアルプスの山々を存分に楽しみ、買い物はチョコレートと時計。観光には自然と文化の両輪が必要で、日本には国立公園が34もあるのに、まだその魅力が伝わらず自然観光の分野で遅れています。地方の豊かな自然がアピールされればそれに伴う地方の独自の文化も目立ってくるはずです。

 

 

⑨自分の後継者を考えている   〇

考え始めています。弊社は108年続いたファミリービジネスで、私が継いだ時よりも今は規模が大きくなっています。4000人近い社員がいますので、誰かひとりが会社全体を引き継いでいくというのはむずかしいでしょう。非上場であることのメリットも大きいので、それは維持しながら新しい時代のファミリービジネスのガバナンスを整えていく計画です。

⑩生まれ変わってもまた経営者になりたい  ✕

迷いなく、プロスキーヤーになりたい! 経営には終わりがないですから、もう十分な感じです(笑)。

 

関屋メモ

某雑誌のインタビュー連載を機に、何度もお話を伺う機会を得ている星野佳路さん。ブレない、そして常にアップデートしているというのが私の印象です。観光業に一石を投じ、独自のスタイルで観光業を塗り替えていく。「星野リゾート」の存在に誰もが注目させられるのは、星野さんの信念ある発言や行動の裏側に、膨大な市場調査によるデータの裏付けがあるからだと思います。フラットな組織、活気あるスタッフによる魅力的な施設づくりを生み出す経営の在り方に、私も社員になりたい!と。非正規社員が多い観光業界において、今年、670人の新卒を採用ということにも驚くばかりです。

インタビューでは星野さんのスキー愛が駄々洩れで、スキーの話題だけで終わってしまいそうと、ちょっと心配になりつつ。私はスキーは苦手なのですが、「星野グルメスキークラブ」という何やら楽しそうな会があるようで、雪山・温泉・グルメという取り合わせは魅力的すぎて、スキーにふたたび挑戦してみようかと(笑)。今度は雪山でお会いできることを楽しみにしております。

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

 

 

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