VOL.10 星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳 OTTO SETTE シニアソムリエ 長久保正邦さん

ワインとの一期一会、心に残るディナーを演出する!

VOL.10 長久保正邦さん 1966年生まれ、55歳 (星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳 OTTO SETTE シニアソムリエ)

日本のワイン文化を牽引してきた山梨県。2006年から「ワインリゾート」のコンセプトを打ち出している「星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳」で、シニアソムリエとして活躍する長久保正邦さん。ワインの楽しみやソムリエとしての矜持をたずねました。

―――入社の経緯を教えてください。

20142月に中途入社しました。それまで山梨県内のホテルやレストランでソムリエをしていましたが、よりワインに囲まれる環境で仕事がしたいと思い、「星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳」のダイニング「OTTO SETTE(オットセッテ)」を希望しました。ソムリエの資格は1997年に取り、2001年にシニアソムリエ。また日本酒や焼酎など酒類全体も学ばなければと、日本ソムリエ協会が認定する日本酒の資格、SAKE DEPLOMA(酒ディプロマ)を2018年に取得しました。

以前はあまり飲む機会がなかった日本酒ですが、今はワイン醸造家と同様に日本酒の造り手もそれぞれ個性があり、スタイルがあることを知り、日本酒の奥深さも感じています。

 

―――どうしてソムリエになろうと思ったのですか。

子どものころから料理が好きで、飲食店で働き、前職のレストランでの研修時にお会いしたソムリエの立ち振る舞いやサーブしている姿がかっこいいなあと。その方を目当てに来店されるお客様もいらっしゃって、自分もそうなりたいと思い、ソムリエを目指しました。また、日本ソムリエ協会の会長である田崎真也さんの影響も大きかったですね。1995年に第8回世界最優秀ソムリエコンクールに、日本人として初の優勝という快挙を遂げられ、ソムリエの露出が増えました。私も田崎さんの存在に憧れたひとりで、自身をもっとブラッシュアップするためにソムリエに。

OTTO SETTE」に来る前は、おもにフランスワインを扱うことが多く、山梨にいるにもかかわらず、山梨や長野などの日本ワインに接していませんでした。ですので、最初は戸惑いました。なにせ自分が飲んだことがないワインがありすぎて…。 接客マニュアルの習得に加え、ワインリストのワインを熟知しなければならないと、すべてチェックして味わいをイメージし、扱うワインを把握することから始めました。

またそれまではワイナリーへ行く機会も少なかったのですが、施設スタッフと一緒に近隣のワイナリーを訪ね、生産者の方と話をしたり、畑を見たりすることで、日本ワインの素晴らしさを深く実感しています。お客様にワインを注ぎ、味を紹介するだけではなく、造り手の気持ちや畑の様子などをお伝えすることで、ワインのストーリーを感じていただけるのではないかと思っています。

ソムリエの商売道具の数々

―――料理とワインのマリアージュはどうやってうまれるのでしょうか。

料理に合わせる形でワインを選びます。メニューは年4回変わりますので、その試食会の際に料理のポイントを確認して合うワインを探します。まず、料理とワインの共通点として、香りを意識します。柑橘の香りが際立つ料理には柑橘の香りや酸を。しっかりした味わいには奥行きのある樽発酵の香りのワインを。色も大切で、例えばトマト系のソースには赤やロゼワインを合わせます。料理とワインを合わせたときに甘く感じるときが、旨みがマッチする、ぴったりのマリアージュだと思います。

ワインをお選びするときに、「おまかせで」とおっしゃるお客様がいらっしゃるのですが、ソムリエにとっては一番困るケースです。ですので、いろいろお話をして好みを探ります。例えばいつもはどのようなワインを飲まれるのか、どのような香りや味が好みか、今日はどういうワインを飲みたい気分かなど。ワインに精通されている方、初心者の方、それぞれに寄り添って提案するワインを気に入っていただけるとほんとうに嬉しいですね。たまに「果実味の少ないワインがいい」といわれることがあるのですが、お客様の感じ方や表現をくみ取ることは難しいですね。

―――「OTTO SETTE」は年齢制限のないダイニングと聞きました。

ここはファミリーリゾートということで、お子様連れのお客様も多いので、年齢制限を設けていません。赤ちゃんもご一緒に食事を楽しんでいただけるようにしています。0歳児用の椅子を用意したり、ファミリー席と大人だけの席を分けたり、また食事の時間に飽きてしまったお子さんのためにDVDプレーヤーやお絵かきセットなどを用意しています。料理の提供時間を短くするという、工夫もしています。ファミリーのリピーターの方で、お子さんが描いた絵をプレゼントしてくださったり、帰宅後にお手紙を頂戴したり。嬉しいですし、励みになりますね。

今は、ソムリエは私ひとりなのですが、ワインを知りたいというスタッフもいるので定期的に勉強会を開いています。お客様により満足していただけるように一丸となっています。

子ども用の食器なども揃う

―――ソムリエとして一番大切なことはなんですか。

ソムリエとして、サービスをする立場として、大事なことは第一印象です。あたりまえですが、身だしなみから。私は家を出るときに服装や髪のセットなどをすべて整えてきます。家を出るときから気合を入れます(笑)。また挨拶も大切です。同僚はもちろん業者の方にもきちんと挨拶をしてくださる方がいました。ほんとうに尊敬する方で、今も見習いたいと思っています。

OTTO SETTE」で、ワインの美味しさや楽しさを知っていただき、食事を楽しんでいただく。そのために心を込めてワインを選び、サーブし、心に残る一杯を感じていただきたいと思っています。

 

関屋メモ

若いころの失敗は多々あったという長久保さん。そのすべてが糧となっているのでしょう。笑顔が優しく、柔らかい口調と物腰、ソムリエはやっぱりジェントルマンでなければ務まりません。今は若いスタッフに憧れられる存在のはずです。花や観葉植物を育てるのが好きとのことで、育てやすく料理にも使えるハーブの世話をしているそうです。私はすぐに花を枯らしてしまうほうなので、その繊細さにうっとり。

豚バラ肉を3日かけてつくる燻製ベーコンの話やら、きっとご自宅で奥様とワイングラスを傾けているのかと思いきや、奥様はワインに興味がないとのこと。夫婦の縁は異なもの乙なものです。ワインの知識はもちろん足元にも及びませんが、日本酒や焼酎ならば対抗できそう。今度はボトルを並べて日本の酒の未来を語りましょう。

 

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

 

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