世界のファインダイニング by 江藤詩文

第53回 シチリアのライフスタイルを丸ごと味わえるコミュニティスペース 「I Banchi イバンキ」(イタリア・シチリア)

前回ご紹介したシチリアンガストロノミーの巨匠 Ciccio Sultano チッチョ スルターノさん。彼が町の中心であるDuomo di San Giorgio (ドゥオモ ディ サン ジョルジュ) の広場近くで手がけるのがオールデイダイニング 「I Banchi (イバンキ)」 です。

▲老若男女問わずイタリアの人ってほんとに朝食はスイーツなんですね…

朝からディナーまでやっていて、パンやグローサリーを扱うショップを併設。素材は「ドゥオモ」と一括して仕入れることでフードロスをできる限り削減し、シチリア風のトマトを使ったパンなど焼き立てのパンは、地元の人たちが日常食として毎日買えるようにリーズナブルな価格に設定。「シチリアの名物といえばマフィアだと思っていたでしょう(笑)」と冗談を言いながら、シチリアの家庭料理やスイーツを伝わりやすい昔ながらのスタイルで提供しています。

   ▲「イバンキ」は妻のGabriella ガブリエッラさんが中心となって運営しています

 もう何度もあちこちで書いていますが、私の持論として、町場の安い食堂がファインダイニングに味で勝ることは絶対にない。言うまでもなくストリートフード、屋台、町の食堂、高級レストランなどはそれぞれのおいしさがあります。食べ手の好みにもよりますが「ファインダイニングなんか全然ダメ。地元の人しか行かない、どことなく薄汚い店の方がおいしい」という一部の旅人が主張する声にはまったく同意できません。なぜならこれらは比較するべきものではないから。

  ▲誰にでもわかりやすくシンプルでおいしい「イバンキ」の料理。名物カンノーリもあります

信頼できる高品質の食材を、きちんと修業を重ねて技術を身につけた料理人が、町の食堂の料理に落とし込む。リーズナブルで入りやすいから、典型的なシチリア料理を食べたい旅行者も、外食を楽しみたい地元の人も集まり、そこからコミュニケーションが生まれる。それが地方都市ならではのレストランのありかただと思います。

     ▲ラグサーノチーズをつくる家族経営の小さなチーズ農家

外国人が「ドゥオモ」に来た時には、できるだけ地元の生産者を紹介して、点から線へと繋がるようにしていると言うチッチョさん。私が訪れた時は、ちょうど長いおつき合いのチーズ農家が地元の子どもたちにチーズのつくり方を教えるイベントが開催されていて、そこにまぜてもらいました。

また、環境に負荷をかけないサステナブルな水耕栽培を手がける若者を支援するなど、次世代にも積極的に投資しています。

 ▲チッチョさんが買ってくれるから珍しい植物を栽培するなど新しい挑戦ができるそう

「お金や名声には興味がないなんてポーズを取っているゆとりはありません。生産者さんたちのモチベーションになるので、日本のフーディーズにもどんどん来てほしい」とチッチョさん。地域のワイン生産者の協力を得て3店舗目となるバー&ダイニングをオープンするなど、活躍の場をさらに広げています。

I Banchi イバンキ
https://ibanchiragusa.it

*公式サイトから予約できます
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます

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