世界のファインダイニング by 江藤詩文

第37回 大原野菜の個性と薪火の力。素直なおいしさのなかにきらめく創造性 「MALA マーラ」(京都)

一年ちょっと前、この連載でご紹介した料理人・宍倉宏生さん(※関連記事はこちら https://www.tabikoi.com/eto13/ )。世界的に名の通ったラグジュアリーホテルの料理長だったにも関わらず、仕入れを業者にお任せせず、生産者さんを訪ねて流通量の少ない野菜を育ててもらったり、食材に合わせてパスタまで手打ちしたりと、手数を惜しまずなんだかおもしろいことをやっていたわけです。

(薪で炙ったカツオとにんじんのソースで味わうたっぷりの季節野菜)

このシェフ、食の好みもさまざまな幅広い世代のゲストに向けてではなく、目の行き届く数のフーディーズのためだけに料理をつくったら、何をやり出すんだろう。そう思っていたら、出身地の京都に帰り、京都郊外・八瀬の高野川のほとりに今年3月末にオープンしたホテル「moksa モクサ」で新しい挑戦を始めたと言うではありませんか。しかもいまトレンドの薪火。

世界中が活動を止めた静寂の時を経て、世界のフードシーンも変化しました。最先端のマシンを駆使して高度な技術を披露するのではなく、より本質的で本来の姿に回帰しつつあります。プリミティブな薪火が見直されているのも、その流れの一環です。

(女性料理人も活躍しやすいチームMALA。右が宍倉さん)

moksaのダイニング「MALA」で、宍倉さんが主役に選んだのは地元が誇る大原野菜。大原の土は野菜の栽培に適しているうえ、伝統的な京野菜を復活させたり、めずらしい野菜を少しずつ多種類つくったりと、革新的な農家さんがいるそうです。彼らが育てた野菜は評判を呼び、京都中心の星つき店の有名料理人などが、こぞって野菜を求めてやって来るようになりました。

(京赤地鶏 時間をかけてとろとろに焼いた加茂なすとスパイシーなトマトソース)

自分の目指す料理に合った野菜を探して生産者さんを回り(やっぱり京都でも行くんだ…)、宍倉さんが出会ったのが「わっぱ堂」の細江聡さん。農家として野菜を出荷しつつ、自身も料理人としてファームtoテーブルの農家レストランを営んでいます。

(右が細江さん。タイミングがよければ野菜たっぷりのお弁当に出合えるかも)

「厨房の隣りに自分の畑があるファームtoテーブルは、料理人として理想で憧れでもあります。でも車で10分の距離に、細江さんをはじめ信頼できる農家さんたちがいて、自分がつくるよりずっと上手においしい野菜を育て、収穫したての新鮮な野菜をわけてくれる。MALAの料理は、地元の人に支えられて地域と一体化したファームtoテーブルなんです」

(締めの食事は薪で燻製した玄米のリゾット。そばの実で香りと食感をプラス)

美しい日本庭園に、地元の人から教わった食べられる草を植えてみたり、軒先にお手製の柚餅子を干したり、クリエイティビティをのびのびと広げている宍倉さん。温度のコントロールが難しい薪火を使いこなす技術があり、何よりスタッフが「ウチのシェフは天才です!」と信じているチームが、成長しないわけがない。

宍倉さんの料理を味わえるホテルmoksaの全貌は、別途ご紹介する予定です。

MALA マーラ/moksa Rebirth Hotel
https://moksa.jp

食事は宿泊者限定。宿泊は公式サイトから予約できます。

* 料理はすべて訪問時のもの。季節などにより変更されます

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ