トコトコ東北 by 川崎久子

カワサキ的ツーリング情報 Vol.21 山形・山寺

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「山寺」の愛称で親しまれている山形の古刹・宝珠山 立石寺は、貞観2(860)年に慈覚大師が開いたと伝わる天台宗のお山です。「おくのほそ道」の旅で松尾芭蕉が訪れたことでも知られる山寺を訪ねてみました。

歩き始める前に...

山寺は、山形自動車道の山形北インターからおよそ20分の地にあります。道々果樹園が多数並び、フルーツ王国・山形ならではの風景が楽しめます。山寺へ分け入る登山道入口付近には土産物店や食堂がずらり。いずれも駐車場を併設しており、下山後その店を利用すれば駐車料金が無料になるサービスを行っています。

立谷川沿いに立つ食事処の駐車場を借りて、ほっとひと息。山寺歩きへ出発です。

比叡山延暦寺から運ばれた火が灯る

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土産物店が立ち並ぶ麓の通り沿いに、立石寺の登山口があります。まっすぐ延びる石段を上り切ると目の前に根本中堂が。山形城を築き、この地を政治の中心と定めた斯波兼頼(しばかねより)の命により、1356年に再建されたお堂です。ブナ材で造られた建築物としては日本最古といわれ、国の重要文化財にも指定されています。堂内には慈覚大師の作と伝わる薬師如来坐像が安置されているほか、伝教大師が中国から比叡山延暦寺に移した灯から分けられたという常灯明が灯されています。比叡山では、織田信長によって焼き討ちにあった際に常灯明が失われてしまいました。延暦寺が再建される折、1589年に立石寺の灯火が運ばれて、常灯明が復興したといわれています。灯火は中国から滋賀を経て山形へ、そして山形から滋賀へ。新幹線も飛行機もない時代に数百キロも旅をして運ばれたのかと思うと、ロマンを感じずにはいられません。

「おくのほそ道」の旅で

『閑さや 岩にしみ入る 蝉の声』

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松尾芭蕉が立石寺を訪れたのは元禄2(1689)年、新暦でいう7月13日のことでした。芭蕉は山形のさらに先、尾花沢まで歩みを進めていたのですが、山寺へ行った方がいいという人々の勧めにならい、とって返したのだと「おくのほそ道」に記しています。その距離7里。キロに換算するとおよそ27.5キロ!いや大変だったともなんとも言わず、さらりと書いていますが、山寺を見るためにかなりの距離を戻ったことが分かります。なんて健脚!根本中堂の隣には、嘉永6(1853)年に芭蕉の門人たちによって建てられた句碑がひっそりと佇んでいます。

山門から続く石段を上って

宝物殿や念仏堂などが立ち並ぶ麓の境内に、土産物店も建っています。売店のお母さんに、これから先はお店がないから飲物はここで買った方がいいよ、というアドバイスを受け、ミネラルウォーターを購入。いざ、山門へ向かいます。

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鎌倉時代建立と伝わる山門を抜けると、杉林の中に石段が続いています。頂上付近に建つ奥之院まで数えると800段以上、麓の石段も加えると1000段以上にのぼるそう。私が当地を訪れたのは4月下旬で、天気がよくやや暑いぐらいの日だったのですが、杉木立が日差しを遮ってくれ、森は涼しく快適でした。そんななか、一歩一歩石段を踏みしめて上ります。

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時おり通りすぎる観光客や、遠くに響く電車の音以外、深閑とした森。芭蕉が『閑さや...』の句をしたためた短冊を埋めたとされる「せみ塚」から、木立の間に切り立つ岩山が見えます。真夏のさかり、蝉の大合唱に包まれて佇む芭蕉翁が目にした景色は、これだったのでしょうか。

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山頂で待つ、胸がすくような大パノラマ

せみ塚を過ぎると杉木立が途切れ、仁王門が堂々とした姿を現します。嘉永元(1848)年に再建されたという門には、運慶の弟子の手によるものとされる仁王像が睨みをきかせています。ここまで来れば山頂はもうすぐそこ。

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とはいえ、直射日光が照りつけるなか歩くので、体力の消耗が激しくなります。岩の上に建つ開山堂にお参りをし、さらにその上にある五大堂へ。岩の上に造られた五大堂は、まるで清水の舞台の様。三方がオープンになっており、心地よい風が吹き抜けます。

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そこから見えるのは山寺の大パノラマ。なだらかな蔵王連山の山並み。緑に縁どられた平野を横切って立谷川がきらめきながら流れています。この風景は、いつまで眺めていても飽きることのないおだやかな美しさがあります。

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下山して...

頂上の五大堂までの往復に掛かる所要時間は1時間〜1時間半ほど。写真を撮りながらのんびり歩いても2時間かかりません。石段が続く整備された山道ですが、ハイヒールは×。歩きやすい靴がおすすめです。久しぶりに歩いたので、下山後は膝がちょっと笑っていました(運動不足を実感。翌日ふくらはぎが筋肉痛に...)。駐車場を借りていたお店・お休み処「対面石」は、下山口のすぐそばだったので、お店でひと休み。

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冷たいなめこそばをいただきました。プチ山登りで疲れた体に冷たいおそばが染みました。

次回は山寺とセットで訪れたい温泉をご紹介します。

(取材・文 川崎 久子)

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