ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第25回 存続の危機を救いたった二人で切り盛りする醤油蔵、地元住民と連携プレイで今も秘伝の味を守る(島根県・津和野)

島根県鹿足郡津和野町は「小京都」とも呼ばれる小さな町。天然鮎が漁れることで有名な高津川が流れ、石畳の目抜き通りでは老舗の酒蔵や呉服屋が立ち並ぶ美しい風景を楽しむことができます。そんな町の中心から少し離れた青原というエリアに、230年以上もの間伝統の味を守り、地元に愛されている醤油屋「大仲屋本店」があります。

津和野町のお仕事に関わらせていただいて3年目、私も大仲屋のお醤油を使わせていただいたのですが、塩分が低めで合成保存料や合成甘味料が一切使われていないことが何よりの魅力。今回はこちらの醤油蔵を訪れる機会をいただきました。

大仲屋本店の入口周辺

津和野から車で30分。

古い木造建物の中に入ると一気に甘い醤油の香りに包まれました。この香りでなんとなくお腹が空く感じ、きっと日本人のDNAには組み込まれているはず(笑)。現在代表を務めるのは永嶺里志さん。この近くで生まれ育ち、子供の頃から醤油の甘い香りのするこの醸造所を覗きに来ていたとか。

寛政元年(1789年)創業。長年に渡り、代々伝わる混合割合や火入れ作業を続け、材料を変えることなく伝統の味を守り、今年で233年目。ところが6年ほど前、後継者不在という事態から存続の危機となり、当時は病院に勤務していた永嶺さんにお声がかかり、事業継承をすることに。

永嶺さんはそれまでと全く畑違いの初めての事業に戸惑いつつも「子供の頃から慣れ親しんだ味を途絶えさせてはいけん!」と一戦奮起、大仲屋で40年近く職人として働いてきた山本さんと力を合わせてなんとか6年目を迎えたといいます。

醸造所の中には樽がずらりと並ぶ

醤油の甘い香りが漂う中ですが、訪れた8月はかなりの熱気。醸造所の中は数台の業務用扇風機がフル稼働。見上げると立派な梁があるものの、木造の建物はところどころが隙間を作っていて、夏は暑く、冬は寒いのだとか。また青原は水害も多く、創業当時の建物はその被害にあって、今の建物になったといいます。それでもそろそろ修理の時期だと永嶺さん。

木造の高い天井にはところどころ隙間が。

現在造られているお醤油は、うすくち、こいくち、さしみ醤油に新たに加わったにんにく醤油の4種類。「きあげ醤油」に代々受け継がれている秘伝のレシピに従って味を調整して火入れ、種類別に樽に寝かせて3ヶ月。こうして出荷準備が整います。季節によって出荷数も異なるので、繁忙期はパートで働いてくれる方にお願いもするそうですが、基本は永嶺さんと山本さん、たった二人でボトリング、ラベリング、発送や配達を行っています。

それでも最近では、近くの「わさびの里(障がい者事業所)」の方々がボトリングなどを手伝ってくれる機会があり、彼らの丁寧な作業に本当に助かっていると話してくださいました。

味付け火入れの釜とボトリング風景

また、毎年地元の小学生が授業の一環として醸造所を訪問するそうで、醤油造りを見学した後で、お手紙をいただいたり、オリジナルキャラクターを作って届けてくれたり……。大仲屋本店は町のさまざまな人たちとの連携で伝統の味が守られているのかもしれません。

地元小学生が作ってくれた大仲屋のオリジナルキャラクターはポスターにも使われている

ところで大仲屋さんのロゴにもなっている「大一」。永嶺さん曰く昔は濃口醤油のことをそのように呼んだとも言われているようですが、文献が残っておらず、今はその真相は不明だそう。

「大さじ一杯?」の醤油が料理の味を引き立てる....なんてそんな謂れもあるのかも⁈

地元に根付いた老舗の醤油屋さんの味が、これからも長きに渡って愛され続けることを願います。

お話を伺った永嶺里志さん。ありがとうございました!

「大仲屋本店」
〒699-5216 島根県鹿足郡津和野町青原765 0856-75-0003
営業時間 8:00~17:00 定休日 土日祝
https://www.oonakaya.com

 

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