ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

第25回 美術の楽しみ方 Part 3 ~画家の個性がサインに見え隠れする!?

美術展で絵画を見る時、どうしても気になって見てしまうポイントのひとつとして、1年前に海外の画家のサインについてご紹介しました。今回は日本の画家・絵師Ver.をご紹介。

日本美術史研究の第一人者である辻惟雄氏によって1970年に刊行された『奇想の系譜』により、 “再”発見され、再評価された江戸時代中期の絵師・曽我蕭白(そがしょうはく)。長く忘れ去られていた存在だったのですが、障壁画や屏風など多くの作品が伝わることから、江戸時代当時人気の絵師だったとされます。

有名な作品がいくつもあり、アメリカのボストン美術館が所蔵する全8面の襖絵の『雲竜図』や『風仙図屏風』もそうです。

 

上)Dragon and Clouds Un ryû zu 雲龍図(部分)1763 ボストン美術館蔵
下)Fusen zu byôbu 風仙図屏風(部分)1764  ボストン美術館蔵

凄まじい構図と描写、屏風や襖いっぱいに描かれた迫力。そしてダイナミックで奇抜! 今から7、8年前だったでしょうか? 名古屋ボストン美術館(2018年閉館)へ遠征した際、全体で10mを超す巨大な本物の『雲竜図』を目にした時の衝撃は今なお忘れられません。龍の顔だけで襖2面! 特異な世界を編み出す絵師ということは疑いようがありません。

そのサインがこちら。

風仙図屏風に書かれたサイン(左)と雲龍図に書かれたサイン(右)。
サインを書いたのは異なる人物??
Dragon and Clouds Un ryû zu 雲龍図(部分)1763
 Fusen zu byôbu 風仙図屏風(部分)1764  ボストン美術館蔵

ボストン美術館は、蕭白のみならず、10万点を超える日本美術の蒐集で知られる美術館です。明治時代、廃仏毀釈や武家の困窮などにより貴重な美術品が二束三文で売りに出され、多くが失われようとしていました。そんな時、明治37年(1904)にボストン美術館中国・日本美術部に迎えられた岡倉天心やアーネスト・フェノロサらによってかなりの数の日本の美術作品が入手されました。海外に流出したのは残念ですが、散逸せずに今まで大切にされてきたことに感謝ですね。

1876年にオープンしたボストン美術館(写真:写真AC)

ちなみに、曽我蕭白の作品は来日していませんが、現在、東京・上野の東京都美術館で「ボストン美術館 芸術×力展」が2022年10月2日(日)まで開催中です。日本にあれば国宝に指定されているのでは?という貴重な絵巻も見られますので、ぜひお出かけください。

次にご紹介するのが、明治から大正時代にかけて活躍した渡辺省亭(わたなべせいてい)です。四谷にある迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」を飾る30枚の七宝額の原画を手掛けた、花鳥画、美人画などで知られる日本画家です。

Birds and Flowers 1887年
Charles Stewart Smith Collection, Gift of Mrs. Charles Stewart Smith, Charles Stewart Smith Jr., and Howard Caswell Smith, in memory of Charles Stewart Smith, 1914 
メトロポリタン美術館蔵

右下にある省亭のサインに注目ください。なんとも優美で可憐ではありませんか! そして細い(笑)。今まで数十点以上、美術展で省亭の作品を見ていますが、ほぼこの形、もっと細いものもあります。省亭が描く作品同様に、繊細で高い美意識を感じさせるサインですよね。

 省亭のサイン

最後にもう一人。大正から昭和にかけて活躍した日本画家・川端龍子(かわばたりゅうし)。巨大で大胆な構図が特徴で、展覧会という会場で映える「会場芸術」を掲げた巨匠です。

池心(月)  昭和27年(1952) 絹本着色 軸装(三幅対の内)  
53.5×72.0cm 東京富士美術館蔵

右下のサイン、いったいなんと書いてあるのでしょう。

東京都大田区にある川端龍子記念館の目の前に、龍子自ら設計した旧宅とアトリエがあります。建物が“竜の落とし子”の形をしていたり、石畳が龍の鱗状に組み合わせてあったり、本人は画号にこだわりがあったのかもしれません。サインも龍の形にも見えてきませんか?

美術展で作品を見つつ、画家のサインを眺めていろいろ想像をしながら絵画を楽しむのもいいものですよ。

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