トコトコ東北 by 川崎久子

開湯1300年!名湯・山代温泉ぶらぶら歩き(石川県・加賀市)

山代温泉の開湯は神亀2(725)年。行基によって発見されたと伝わる古湯です。
以来およそ1300年、多くの人々に愛されてきました。2020年の大河ドラマの主人公、
明智光秀も傷を癒しに山代温泉を訪れ、10日間ほど滞在したのだそう。長〜い歴史を
感じさせるエピソードです。

 

ラウンドアバウトの中心に立つ共同浴場へ
「湯の曲輪(ゆのがわ)」という北陸独特の言葉があります。町の中心に共同浴場があり、
その周りに温泉宿が立ち並ぶ、江戸時代に出来上がった町並みをさす呼び名です。
山代温泉には、この「湯の曲輪」がちゃんと残っています。


↑夜の古総湯。ライトアップされて、街のランドマークになっています。

町の中心に立つ共同浴場「古総湯」は、木造二階建ての風情あふれる建物で、明治時代に
この地にあった共同浴場「総湯」を復元したもの。地元の古瓦やこけらぶきの屋根に、赤
・青・黄色のステンドグラスと和モダンな外観です。古総湯を取り巻く通りは一方通行の
ラウンドアバウトになっています。通り沿いには、星野リゾート 界 加賀をはじめとした
温泉宿や土産物店、さらに総湯と呼ばれるもう一つの共同浴場がぐるり軒を連ねています

古総湯では、その日の一番風呂の方に「一番札」を配っているそう。これはぜひほしい!
朝6時のオープンに間に合うよう5時半に起きて宿から外を覗くと、古総湯の周りをすでに
数人がぶらぶら歩いているのが見えました。遅れをとったかと焦って準備をし、古総湯の
入り口に向かうと、並んでいる人はなく、私が一番乗り。実は、ぶらぶら歩いていたのは
地元の方々で、古総湯ではなく道を挟んですぐの総湯のオープンを待っている人たちでした。
そのなかの一人のお母さんいわく、「総湯には洗い場があるから地元の人はそっちを利用
するの。常連さんは洗い場の場所もだいたい決まっているのよ」とのこと。
そうこうして
いるうちに6時になったので、いざ、古総湯へ。天井の高い浴場内の中央に真四角の湯船が
鎮座し、脱衣スペースも同じ空間にあるという昔ながらのスタイル。浴場を飾るタイルは、
もちろん九谷焼で、地元の作家が手書きし、制作したものです。壁面は木目を生かす拭き漆
で仕上げられています。湯船の手前側に湯口があり、八角形にタイルを組んだ湯だまりから
湯が注がれています。つい手をいれたくなるような形ですが、これは源泉!熱いので手を
いれるのはご法度です!(番台のお母さんにも危ないからねと注意されました)


足元からかけ湯をしてから湯に浸かります。一番風呂はまだこなれていないので、ちょっと熱め。
慣れてくるとさらりとした肌触りでいい気持ちです。
古総湯の2階には休憩スペースがあります。
湯上がりは、街を眺めつつここで旅の相方と待ち合わせ、というのもよさそうです。

帰り際、番台のお母さんから「一番札」をゲット。一番風呂の上、温泉を貸し切り状態で利用でき、
大満足で古総湯を後にしたのでした。

 

山代温泉で魯山人に俄然興味がわく

「ぜひ、行った方がいいですよ」
と、山代温泉へ向かうタクシーのなかで運転手さんに勧められたのが、北大路魯山人の寓居跡
「いろは草庵」。魯山人といえば、当代きっての美食家で、作陶もしていた・・・という浅いミニ
知識しか持ち合わせていませんでしたが、地元の方が推すスポット、素通りできないですよね。
山代温泉にかつてあった吉野屋旅館(前述の総湯は吉野家旅館の跡地に立っています)。いろは
草庵は、この吉野家旅館の別荘として明治初期に建てられた木造二階建ての建物。宿の看板制作の
仕事を依頼された魯山人は、大正4(1915)年の秋に当地を訪れ、半年ほどこの草庵の1階で暮ら
しました。
からりと玄関の引き戸を開けると、正面に小さな囲炉裏の間が。その奥に仕事場と書斎
が続き、さらに水屋のある小さなお茶室まで完備しています。山代温泉の旦那衆がやってきては、
この囲炉裏を囲み書画や骨董、茶道、そして食について語り合う。魯山人は明治16(1883)年の
生まれですから、当時32歳。文化的情報を交換するサロンの役割を果たしたこの小さな囲炉裏の間
で、魯山人の世界がより一層広がったのではないでしょうか。

↑草庵に入ってすぐの囲炉裏の間。天井は2階までの吹き抜けになっています。
いろは草庵には展示室があり、魯山人の生涯について紹介しているほか、作品も展示しています。私が
気に入ったのは、寓居と展示室の間にあるロビー。窓際が一段低くなっており、腰掛けて庭を眺めること
ができます。苔むした庭園には、手前に樹齢百数十年といわれるヒバが、その奥にモミジの木が植えられ
ています。爽やかな初夏の日差しを受け、木の葉が瑞々しい。このロビーではお茶の振る舞いもあります。
一幅の絵のように庭園を鑑賞し、香ばしい加賀棒茶を味わう。ゆるゆると流れる時を楽しみましょう。

 

ご当地スイーツの決定版「加賀パフェ」をいただく
「食のブランド化」を推進している加賀市では、市内各所で「加賀パフェ」と銘打ち、ご当地の味覚を詰め
込んだパフェを楽しめます。
加賀パフェと名乗るためには、細かな決まりがあります。加賀九谷野菜・献上
加賀棒茶など加賀市産の食材を使用することを筆頭に、パフェの層を五層にし、その上にトッピングをのせる
という形状から、山中漆器のお盆や九谷焼きの皿を使用し、指定の位置に並べるというレイアウトに至るまで、
ルールは多岐にわたります。さらに、値段は全店共通で980円と決まっています。

スイーツなのに野菜?!と意外に思いますが、食べれば納得の豊かな味わい。私は山代温泉にあるギャラリー&
ビストロ「べんがらや」の加賀パフェもいただきましたが、生野菜だけでなく、クリームの中に漬物が潜んでいたり
するので、スプーンを口に運ぶたびに、これはなんだろうと考えながら食べるのも楽しいひと時でした。加賀パフェ
は結構なボリュームなので、ランチは控えめがおすすめですよ。

取材・文/川崎 久子

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