約130点の作品で知るピカソの創造力と革新性。パナソニック汐留美術館で開催中(東京都・汐留)

20世紀最大の画家の一人と誰もが認めるパブロ·ピカソ(1881-1973)による版画作品を中心にした「イスラエル博物館所蔵 ピカソ-ひらめきの原点-」展がパナソニック汐留美術館で始まりました。(※会場の写真はプレス内覧会にて許可を得て撮影)

イスラエルで最大の文化施設であるイスラエル博物館は、ドローイングや版画などを含む800点以上のピカソのグラフィック作品を有します。今回展では、20世紀初頭から1970年にかけて制作された同館所蔵の約100点の版画を中心とした作品が、各時代に分けられ全5章で紹介されています。

会場風景より。第3章「ヴォラール連作」

第1章の「1900-1906年 初期-青の時代とバラ色の時代」は、スペイン南部の町マラガに生まれたピカソが初めてフランスに移った当時の作品が紹介されています。親友の死がきっかけとなったと言われる、社会の底辺であえぐ人々を描いた「青の時代」から、他の芸術家や恋人との出会いにより「バラ色の時代」へと作風が変遷していきます。

会場風景より。第1章

この頃ピカソは、パリのモンマルトルの一角にあった「洗濯船」と呼ばれる集合アトリエ兼安アパートに居を構えました。ここにはジョルジュ・ブラックやモディリアーニなど、若く情熱的ですが、貧乏な芸術家や詩人たちが集まっていました。そして、この時代に生まれたのが、ピカソの代名詞となった「キュビスム(立体主義)」です。

白亜の寺院サクレクールが建つモンマルトル。
キュビスムが誕生した地をいつか訪れたいものです
(写真:Pixabay)

第4章「1937-1953年 戦時期―ドラ・マール、フランソワーズ・ジロー」では、ピカソの代表作《ゲルニカ》を予告するような銅版画《フランコの夢と嘘Ⅰ、Ⅱ》(1937)を見られます。《ゲルニカ》は、反乱軍率いるフランコの要請で介入したナチスドイツやイタリア軍がスペイン・バスク地方にある小村ゲルニカへ行った無差別爆撃を描いた反戦絵画です。

オリジナルの《ゲルニカ》を見られるスペイン・マドリードの「国立ソフィア王妃芸術センター」。
ピカソやサルバドール・ダリ、ジョアン・ミロなどスペイン出身の画家の作品を多く所蔵する

今回展の会場に展示されている《フランコの夢と嘘Ⅰ、Ⅱ》で、グロテスクな怪物として描かれたフランコが風刺されていますが、今のこの時代に重ねあわせると、軍事力で抑え込まれる悲劇と絶望が胸に迫ります。


現地ゲルニカ・イ・ルノ(基礎自治体)では
実物大のセラミック製壁画のレプリカを見られる

(写真:Pixabay)

第5章「1952-1970年 晩年―ジャクリーヌ・ロック、闘牛、バッカナリア、画家とモデル、<347シリーズ>」で圧倒されるのは、ピカソの旺盛な創作意欲です。2人の妻のほかに恋人・愛人が複数いたピカソですが、ここではリノカット(版画技法のひとつ)で膨大に生み出された、ピカソ73歳にして最後のミューズとなった28歳のジャクリーヌ・ロックを主題とする作品が並びます。

また、86歳のピカソが、わずか7か月にも満たない間に制作した347点ものエッチング<347シリーズ>も展示されています。かなり官能的で大胆な作品もあり、とどまることを知らないピカソの情熱を感じさせます。

会場風景より。第5章

会場のところどころでは、「リトグラフ」「リノカット」「エッチング」など、版画技法の解説もあり、ピカソが多様な技法を試していたことがわかります。展示作品の多くが白と黒のシンプルな版画作品である今回の企画展。だからこそ、ピカソの旺盛な創作意欲が、一本一本の線に息づいていることが力強く、そして強烈に伝わってきます。

イスラエル博物館所蔵 ピカソ― ひらめきの原点 ―

会期:開催中~6月19日(日)
開館時間:10:00~18:00 ※5月6日と6月3日は20:00まで ※入館は閉館の30分前まで
休館日:水曜日 ※5月4、18日は開館
観覧料金:日時指定予約制 一般1,200円/65歳以上1,100円/大学生700円/高校生500円/中学生以下無料
https://panasonic.co.jp/ew/museum/

取材・文/塩見有紀子

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