ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

第11回 奇才・ダリの世界へと誘う、冬眠する美術館「諸橋近代美術館」(福島県・磐梯高原)

ぐにゃりと溶けたような時計、細く長い脚を持つ像、そして画家本人のトレードマークであるカイゼル髭。一度はどこかで目にしている人も多いのではないでしょうか。サルバドール・ダリ(1904~1989)、シュルレアリスムの奇才と呼ばれるスペイン出身の画家です。

サルバドール・ダリイメージ(写真:Pixabay)

約350点の絵画や彫刻、版画などダリの作品を所蔵するアジア随一の常設のダリの美術館が福島県にあります。磐梯高原の美しい景観に囲まれた「諸橋近代美術館」です。雪深い場所にあるため、毎年11月中旬から翌年4月下旬までは冬期休館となる美術館です。

大自然に囲まれた美術館(画像提供:諸橋近代美術館 ※画像の転載・コピー禁止)

諸橋近代美術館は、郡山に本社を置くスポーツ・アパレル用品小売店『ゼビオ』の創立者である諸橋廷蔵氏(もろはしていぞう)が約10年に渡って蒐集したコレクションを基に、1999年に設立されました。西洋のお城を思わせる印象的な外観は、“中世の馬小屋”をイメージ。馬小屋にしては立派過ぎる・・・とは思いますが(笑)、国立公園内の建築物ということで建設の際にはさまざまな制約があったそうです。

館内に一歩足を踏み入れると、そこには不思議な空間が広がっています。高い天井のホールいっぱいに、サルバドール・ダリが創り出した奇抜な彫刻がずらりと並んでいるのです。自然光が降り注ぐ彫刻ホールの窓の外には壮大な磐梯山の噴火口が広がります。まさに、自然とアート両方の美を堪能することができます。

ホールにずらりと並ぶ彫刻(画像提供:諸橋近代美術館 ※画像の転載・コピー禁止)

お腹や額に引き出しのあるミロのヴィーナス像、管楽器やハサミが頭部になった闘牛士のブロンズ像などなど、解説を読みながらダリの作品を眺めていると、その奇怪で斬新な作品にいつの間にかのめり込んでいきます。芸術はあれこれ考えるよりも、ともかく感じることが大切だなと、ダリの作品を見るとしみじみ思います。しかし、こんなにも奇抜な作品を次々と生み出し、奇行じみたパフォーマンスで20世紀美術の世界で物議を醸したダリが、実はシャイな人だったというのも面白い話です。

そして、10歳年上の妻ガラは、ダリにとって母であり、プロデューサーであり、心の拠り所であり、崇拝する女神のような存在であったと言われ、しばしばダリはガラを聖母や聖女の姿で描きました。しかし、1930年代の渡米と第二次世界大戦中のアメリカへの亡命を経て、成功者として名声と富を得たダリと、浮気を繰り返すガラの二人の距離はいつしか離れていきます。ですが、1982年にガラが亡くなると、ガラのためにダリが購入して埋葬された城に、ダリは引きこもったというエピソードが残っています。ダリにとってガラは永遠のミューズのままだったのでしょう。

現在美術館では、サルバドール・ダリのほかシュルレアリスムの作品を中心に、英国出身の現代芸術家PJクルックの新収蔵作品も展示するコレクションテーマ展「ステッピング・アウト〜日常の足跡〜」を11月7日の今年度の冬期休館まで開催中です。

鑑賞後は磐梯山を臨むミュージアムカフェへどうぞ。

PJ クルック《メタモルフォーゼ》 2018年 諸橋近代美術館所蔵 ©️PJ Crook 2021
(画像提供:諸橋近代美術館 ※画像の転載・コピー禁止)

また、美術館からバスで約5分のところには、磐梯山の噴火によって生まれた美しい湖沼群「五色沼」があります。美しい景色を見られる散策道があるので(熊と蚊に注意!)、この周辺に宿泊して諸橋近代美術館と共にゆっくりと訪れるのもおすすめです。

宝石のような色合いを見せる五色沼(8月中旬

諸橋近代美術館 https://dali.jp/

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