エシカルトラベルオキナワ~地域とすごす旅~ No.1

地球環境や地域の暮らしに配慮した考えをあらわす「エシカル」という言葉。最近、よく耳にしませんか? 今、沖縄県では、「エシカルトラベルオキナワ」という新しい旅の楽しみ方がスタートしています。沖縄の自然、暮らし、人々の思いに触れながら地域の一員のように過ごす――こうした旅のスタイルが、旅行者と地元の人々の間に思いやりの心を育んでいます。

旅恋でもさっそく体験してきたので、3編に分けてご紹介します。第1回となる今回は、沖縄の象徴である「海」にスポットをあててお届けします。

 

「エシカルトラベル」とは?

マリンブルーの海に白砂のビーチ、紅型(びんがた)をはじめとした伝統工芸、琉球グルメほか、沖縄の魅力は尽きませんよね。「エシカルトラベルオキナワ」は、この沖縄の自然、伝統、産業を守り、未来につなげていこうとする取り組み。旅行者に沖縄を身近に感じてほしいと、ネイチャーツアーや郷土料理教室、エコ活動など地域の営みや思いを肌で感じられる様々な情報を発信しています。

美しい海や伝統料理など、沖縄の宝を未来に伝えていくために

サンゴ養殖で沖縄の海に豊かな未来を

「さんご畑」

さんご畑」は沖縄県中部の読谷村(よみたんそん)にある陸上のサンゴ養殖施設。サンゴ養殖の第一人者である金城浩二(きんじょう・こうじ)さんが代表を務め、サンゴを苗から育てて海に還す活動をしています。施設内では100種類約1000株のサンゴに加え、サンゴ礁に棲む多彩な生き物を見学できます。また、ガイド付きのツアーも行っています。今回は、金城さんに養殖の様子や人間とサンゴの関わりについてレクチャーしていただきました。

代表の金城浩二さん。世界ではじめて養殖サンゴの海中での産卵に成功

この施設では冷却装置や濾過装置を使わず、バクテリアなど自然の働きを利用したエコシステムを用いて海の生態系を再現しています。施設内には植物が生い茂る大小の水槽がいくつもあり、色も形もとりどりのサンゴが植えられています。生き生きと泳ぎ回る魚も華やかで、まさに“陸のサンゴ礁(※)”です。

左)サンゴ質の岩を冷却装置に。気化熱の作用で水温は真夏でも海水より4度ほど低い 右)サンゴも魚もカラフル!

一方、金城さんが取り出したのは先程のものとはガラリと違う純白のサンゴ。それはサンゴが死んで色が抜けてしまった亡骸です。残念なことに、今、世界の海では、温暖化による水温の上昇や水質汚染などが原因でサンゴ礁の白化現象が進んでいます。世界のサンゴの半数以上が集まっているといわれる沖縄の海も例外ではなく、40年ほど前に比べると、10分の1程度にまで数が減ってしまっているそうです。幼い頃から美しいサンゴ礁が広がる沖縄の海を遊び場にして育った金城さんは、みるみる変化していく海の様子に愕然とし、サンゴの保護活動を始めることを決意したといいます。

※サンゴ礁とは、サンゴ1個体ずつが群れ成して地形をつくっている状態。

サンゴの亡骸

金城さんは、「サンゴ礁を守ることは、たくさんの命を育てることと同じことなんですよ」と話します。地球表面の約7割を覆う海のうち、サンゴ礁が占める割合はたったの0.10.2%。しかし、そのわずかなスペースに、世界中の海洋生物の約25%が依存して生きているといいます。「サンゴは自分が取り込んだ余分な養分を海中に放出します。それを求めてプランクトンが集まり、そのプランクトンをエサにする魚もやってきます。いわば、サンゴ礁は海中のジャングルのような存在となって、生き物たちの命を支えているんです。だからサンゴの白化が進めば、海の生態系のバランスはどんどん崩れていってしまいます」

さまざまな生き物を呼び寄せ、海を豊かにしてくれるサンゴ。実は、私たち人間にとっても欠かせない存在のようです。「サンゴ礁が発達した海が1㎢あるだけで、4080世帯分の食料を半永久的に賄えるといわれています。ほかにも防波堤の役目を果たしたり、天然の濾過装置になって真水を蓄えたりと、サンゴの役割は大きい。そもそも沖縄はサンゴ礁が隆起してできた島なので、サンゴがなかったら沖縄もできていなかったんですよ」

左)サンゴ礁は命のゆりかご 右)無数の穴があいたサンゴの岩が水を濾過する

サンゴの大切さを唱え、30年近く前から養殖活動を続けている金城さん。試行錯誤の末にたどり着いた方法が、サンゴに適度なストレスを与えながら育てるスパルタ式の養殖法だといいます。

「活動をはじめた頃は、サンゴを天敵のいない環境で過保護に育てていましたが、そうすると環境の変化に対する耐性が弱くなってしまいます。脆くなって、魚にも食べられやすくなります。ところが天敵となる魚に何度もかじられながら育つと、太くてごついサンゴに成長して捕食されにくくなるんです」

何と、まるで人間の子育てのようですね。また、そうして逞しく育てたサンゴのなかには、30度以上の高水温や強い紫外線に晒され続けてもダメージを受けないものも現れ、「ミラクルコーラル」として世界から注目を集めているそうです。「従来、養殖サンゴは高水温化では死滅するものと考えられていましたが、高水温などの環境ストレスに適応していくことを当施設が世界ではじめて確認しました」

品種の特性に合わせて水深を変え、太陽光があたる量を調節

見学後には、サンゴの苗づくりにもチャレンジ。「金城さんの活動を応援したい」と思った方には特におすすめです。つくった苗はさんご畑で大きく育てられた後、施設の前に広がる海に移植されます。そのサンゴは2度目の春を迎える頃に産卵をして仲間を増やし、長い年月をかけてサンゴ礁を形成していくといいます。自分が手がけた小さなひと株がそんなふうに成長し、豊かな海をつくりあげていくなんてロマンがありますよね。なかには、記念日や誕生日にあわせて苗づくり体験をする人もいるとのこと。自分の成長に照らし合わせながら、サンゴの成長に思いを馳せてみるのも素敵ですね。

左)スタッフの上江洲隆(うえず・たかし)さんが指導 右)サンゴの枝をカットして土台に固定。元気に育ちますように!

金城さんのガイドは聴き聴きごたえ十分で、魅力たっぷり。今回、すべては書ききれませんでしたが、陰に並々ならぬ努力があってこそ成り立っている施設です。でも、金城さんはそれを感じさせない穏やかな口調で、ユーモアを交えながらわかりやすくお話ししてくださるのが魅力的。環境の問題は、まず聞くこと、知ることが大切です。興味をもたれた方は、ぜひ直接お話を聴きにいってみてくださいね。

手ぶら&ワンコインで! 地域と旅行者をつなぐクリーンナップ活動

「プロジェクトマナティ」

プロジェクトマナティ」は、ワンコインで気軽に参加できるビーチクリーンプログラム。準備なし、片づけなしのため、旅行者でもアクティビティ感覚で体験する人が増えています。

このプロジェクトの考案者は、株式会社マナティでCEOを務める金城由希乃(きんじょう・ゆきの)さん。金城さんは、プロジェクトを立ち上げた理由についてこう語ります。

「ありがたいことに沖縄に旅行に来て、海岸のゴミを拾ってくださる方が年々増えています。ただ、集めたゴミを処分してほしいと地元の商店に頼んだり、海岸の隅に置き去りにして帰ってしまったりする方がとても多いんです。持ち込まれた側にしてみれば、見ず知らずの人が勝手に集めてきたゴミ。それを渡されても戸惑いますし、処分するにはお金もかかります。また、ビーチに置き去りにされたゴミは満潮になれば波にさらわれ、再びゴミになってしまいます。せっかくの善意が無駄にならないよう旅行者と地域の人々がゴミ拾いを通じて交流し、優しさの輪が広がっていくような仕組みを考えようと思いました」

左)株式会社マナティのCEO、金城由希乃さん 右)地域の協力者を得られずに放置されたゴミはトラブルの原因に

このプロジェクトに参加する際は、まずパートナーに加盟している施設で500円支払い、ゴミを入れるバッグや軍手をレンタルします。そしてパートナーにその地域のゴミの分別ルールを確認したら、クリーンアップを開始。作業後は同じパートナーのところに戻り、ゴミと一緒にレンタル品を返却すれば終了です。あずけたゴミはパートナーが各地域のルールに沿って分別し、適切な方法で処理してくれます。なお、参加費の500円はこうしたシステムを運用するために最低限必要な経費として利用されています。

清掃グッズも借りられるので手ぶらで参加できる

パートナー施設は沖縄県内に約80ヵ所あり、飲食店や商店、ダイビングショップなど多岐にわたります。今回は那覇空港から約10kmの場所、浦添市の海辺にある「隠れ家カフェ清ちゃん」へ。シーグラスアーティストの黒島春奈(くろしま・はるな)さんがオーナーを務めており、店内では彼女の作品も鑑賞できます。この店ではビーチクリーンの受け付けが15時からなので、ランチ後に食後の運動をかねて参加するのもおすすめですよ。

黒島春奈さん。ビーチクリーン活動で拾ったシーグラスを作品に

海岸沿いに立つお店なのでビーチへはすぐ。意気込んでビーチに出てみると、そこにはペットボトルをはじめ、発泡スチロールやビニール袋の切れ端、本来は海の道標になっているはずのブイ、何だか怪しい色の液体が入ったポリタンクまで、大小さまざまな漂流ゴミが打ち上げられていました。見渡す限りゴミが散乱し、何とも拾い甲斐がありそうな状態です。それでも、黒島さんによれば3日前に清掃したばかり。たった数日でこんな状態になるとは、ちょっと驚きです。

左)大きなゴミ袋もすぐに満杯に 右)清掃の途中に小さなヤドカリを発見。癒されました~

作業中、「海外製品のゴミが多いなあ」と思っていると、ちょうど黒島さんから「外国からの漂流ゴミは、風向きのせいでたまたまここに流れ着いただけなんです。人のせいにするのではなく、自分のできること、やるべきことを見つけましょう。みずからアクションを起こしていくことが大切です」との声かけが。確かに! 無意識のうちにこうした問題を一歩引いて見てしまっていた自分に気づき、ハッとしました。自分ごととして問題に向き合うことが、解決への第一歩になるんですね。

「ビーチクリーンのいらない海が理想」と黒島さん

ゴミのなかでも特に問題になるのがプラスチックゴミです。微細なマイクロプラスチックに分解されると回収がしづらくなるうえ、魚などの誤飲を招いたり、サンゴの生育に悪影響を及ぼしたりすることも。そのため黒島さんのお店では、デリバリーは使い捨て容器から何度も使える保温容器に切り替え、年間15000個もの削減を実現しています。

「プラスチックは医療現場のように必要な場もありますが、人間が便利さだけを優先して使えば環境を壊す要因になり得ます。利用者一人ひとりが使い方を選択しながら、日常のゴミを減らす努力を続けていくことが必要です」(黒島さん)

小さなプラスチック破片も

ゴミ拾いといえど、知らず知らずのうちに熱中してしまうもの。あっという間に1時間が経ち、作業を終えました。大きなゴミはなくなり、気分もスッキリ。達成感もひとしおで、短い時間ながら共同作業を経て参加者同士の距離も縮まった気がします。

左)清掃後のビーチ 右)袋の入りきらないほどのゴミ

「海をキレイにしたい」「地球環境を良くしたい」「地域に貢献したい」、そんな気持ちがつながる場がプロジェクト マナティです。参加後は自分の気持ちまでリフレッシュできるうえ、旅の恩返しができたような心地よさや充足感も味わえます。また、発起人の金城さんやパートナーの黒島さんも親しみやすく、地域がグッと身近になりました。参加される際は、クリーンナップ活動はもちろんのこと、ぜひ各地にいる個性豊かなパートナーとの出会いも楽しんでくださいね。

“地域とともに過ごす旅”をテーマにした「エシカルトラベルオキナワ」。今回は、海の環境づくりにひたむきに取り組む方々の活動をご紹介しました。次回はヤンバルクイナでもおなじみの「やんばるの森」のツアーや郷土料理教室などの体験プログラムをご紹介します。

取材協力:沖縄県/(一財)沖縄観光コンベンションビューロー

取材・文:田喜知 久美

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