あなたも「近代化遺産」萌え! by 関屋淳子

第39回 日本人棟梁の心意気で完成!将来は宿泊もできるかも「青森銀行記念館」 (青森県・弘前市)

弘前といえば弘前公園の桜ばかりが注目されますが、最近は生産量日本一を誇る林檎を使ったアップルパイ巡りも人気。アップルパイタクシーもあり、45店舗もある提供店から好みの店に連れて行ってくれるそうです。アップルパイは嫌いではないけれど、お店を巡る時間あるならば、私は洋館巡りにいそしみます。

弘前は江戸時代には津軽氏が治める弘前藩の城下町として栄えました。明治以降は学都・弘前を目指して、外国人教師を招き文明開化の先端を走る町として、独特の洋館が造られたのです。明治12年(1879)に県内最初の銀行として誕生したのが、第五十九国立銀行です。現在、青森銀行記念館として国の重要文化財に指定されています。

銀行の窓口などが残る1階

建物の設計と施工は、当時、洋風建築の第一人者であった堀江佐吉で、太宰治の生家として知られる斜陽館などを手掛けました。堀江佐吉は御用大工の家柄に生まれ、洋風の建物に興味を抱き、出稼ぎで開拓時代の北海道・函館で洋館を目にし、その研究に没頭したといわれています。私利私欲に囚われない面倒見のいい人柄で、職人たちを率い、堀江組の棟梁としてその才をいかんなく発揮。当時の岩淵惟一頭取から腕を見込まれ、建築の一切を任されました。

2階の小会議室

明治37年(1904)竣工のこの銀行は左右均等のルネッサンス風建築で、壁面は下地板の上に瓦を張り詰め、その上に漆喰を塗り重ねています。破格の予算を与えられ、堀江佐吉は自身の持っているすべての技法と精力をつぎ込み、柱材には青森県産の欅、建具は青森県産のヒバを用い、後世に残る銀行建築を表しました。なかでも会議室の天井壁紙には、金唐革紙(きんからかわかみ)という豪華な壁紙を用いるなど、随所に明治の粋を感じることができます。金唐革紙とは和紙に金箔や銀箔などをはり、版木に当てて凹凸文様を打ち出し、彩色したもの。現在の金唐革紙は専門家により復元制作されたものです。

建物は青森銀行弘前支店として稼働していましたが、昭和40年、現在の弘前支店の新築に伴いこの建物は壊される予定でした。しかし地元住民の保存活動により、今に至っています。弘前を代表する完成度の高い和洋折衷の見事な銀行、「こんな洋館、朝飯前でつくってやるぜ(私の心の言葉)」と取り組んだ、日本人棟梁の心意気を感じずにはいられません。

塔屋に行く階段も(右写真)

堀江佐吉はほかにも、ふたつの八角形三階建ての窓が特徴的な旧弘前市立図書館も設計しています。そして、なんとこれらの文化財を用いた分散型ホテルの構想が持ち上がっています! 活用してこその保存、歴史的資源が末永く残ってほしいものです。

旧弘前市立図書館

 

 

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ