私が近代化遺産に惚れる理由は、そこに先人たちが築いた100年の仕事の跡があるからです。ましてや過去の遺物ではなく、現役で働いている重要文化財となると、それはもう、萌えに萌えます。そのひとつが、長野県の妻籠宿の近くにある木曽川の水力発電所、読書発電所です。
一般に電気が普及し近代産業が成長し始める明治20年代。火力発電よりも発電能力の高い水力発電所に注目が集まります。水量が豊富で落差が大きな木曽川に目を付けたのが、福沢桃介。福沢諭吉の娘婿で、のちに電力王と呼ばれた人物です。明治末期から大正初期にかけて、高圧送電技術が確立し、遠い山間の川で発電しこれを消費地に送れば、電力として売ることができました。大正12年(1923)、建設工事2年の期間を経て完成。海外から最新の設備を取り寄せ、当時、わが国最大の発電出力(4万700kw)を誇り、今も関西電力の施設として稼働しています。
川に面する発電所本館はアールデコ調の装飾が特徴的で、周りの自然と調和する美しい佇まい。川沿いを車で走っていると、あ!と目につきます。さらに発電所だけではなく、建築資材の運搬路として建設された桃介橋、鉄筋コンクリート造の導水路・柿其(かきぞれ)水路橋が残り、これらの関連施設がすべて重要文化財なのです。
桃介橋は4連木造の吊り橋で、全長は247mで、木曽川の中州にコンクリートの支柱を立ててワイヤーを張って吊るしています。この吊り橋も本当に美しい。平成5年(1993)に復元整備され、周辺は公園になっており、町道としてはもちろん、町民の憩いの場でもあるのです。
柿其水路橋
桃介橋の近くには福沢桃介記念館があります。建物は桃介が公私ともにパートナーであった日本初の女優・川上貞奴とともに過ごした別荘で、発電所の資料やふたりの写真や遺品が残されています。ふたりのロマンスと壮大な100年の仕事、なんだかドラマになりそうですよね。