哀悼 森本哲郎さん

 

今年も無事、明けました。皆様、本年もよろしゅうお願いいたします。で、昨年末から大瀧詠一さんが亡くなったりと、ちょっと驚くような訃報があり、年明けからしんみりした話題ですみません。知の巨人ともいえる森本哲郎さんが永眠されました。88歳でした。旅することで文明や歴史を深く掘り下げ、自分の足で、目で、耳で体験したことを鋭く追及した著書を数多く著わした大好きな方でした。


昨年8月にも、知の巨人が亡くなりました。谷川健一さん。少しだけ心の中に穴ができました。いったいどれほどの知識と教養と想像力を持ち合わせているのだろうという先生でした。谷川健一さん、S誌の巻頭のインタビューに備え、著書を読み、民俗学の奥深さに触れ、実際にお会いして、ひとつの地名から話がどんどん深まる世界に圧倒されつつ、ちょっとシャイでおちゃめな横顔と、浅田真央ちゃんが好きだと言った好好爺の姿が印象的でした。そして、森本先生。私はずっと著書を読み続けていて、いつかはお会いしたい憧れの人でした。実際にお会いする機会を得たときは、ウキウキして出かけたのですが、気難しそうなお顔と多くを語らぬ必要最低限の会話にちょっと戸惑ったりして。でも話が進むと、言葉と言葉の行間に訪れた土地への愛着や感慨を見て取ることができました。


じつは私がかつてヨーロッパの華として君臨したウィーンへの妄想を膨らませたのは、森本先生の著書『ウィーン』の一説からでした。「ウィーンを訪ねる人にぜひおすすめしたい。まず、リングシュトラーセを一巡してごらんなさい、と。市電はまるで観光列車のようである」


今は、リンク(環状道路)一周ができないシュトラーセンバーン(市電)ですが、私は森本先生の言葉通りに市電に乗り、街を一周しました。その時の感動と車窓の景色は今でも忘れません。そして、この本は今でも私の手元にある大好きな一冊です。ご冥福を心からお祈りいたします。


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