「やさしい温泉」人、動物、地球にも! by 西村理恵

第23回 病気をきっかけにお湯に惚れ込み、湯治宿を経営。「叶屋旅館」の挑戦 前編(長野県・沓掛温泉)

北陸新幹線上田駅より西へ約15㎞。美しい田園風景を見下ろす高台に沓掛温泉は位置しています。現在、宿は2軒。うち共同湯と隣り合うようにして立つ「叶屋旅館」は江戸時代より続く老舗宿。2019年春、今井大佑さんご夫婦が、この宿を受け継ぎ、素泊まりの湯治宿として新たなスタートを切りました。

歴史のある小さな温泉集落。薬師堂のすぐ下に叶屋は立つ

今井さんは兵庫県の山里・丹波のご出身。東京や長野諏訪の電気メーカーで技術者として働いていましたが、30歳を過ぎた頃から首や肩に今までにない痛みを感じるようになります。何軒もの病院で診察を受けたものの診断がつかず、次第に痛みで起きられなくなり、仕事も続けられなくなってしまいます。痛む体をかかえて湯治をしながら病院通いをしていた時、長野県長和町の「国民健康保険依田窪病院」の院長先生と出会い、国指定の難病「頸椎後縦靱帯骨化症」と診断され、すぐに手術を受けることに。術後の経過は良好でしたが、その後の人生について考えざるを得なくなります。

お話を聞かせてくれた今井大佑さん。同郷の妻と二人三脚で宿を運営

元々、温泉が大好きだった今井さんは、大学時代、新潟赤倉温泉にあるペンションでアルバイトをしていました。「歳を取ったらこんな宿をやってみたい」と漠然と考えていたところ、思わぬ病気により、30年ほど早く宿の運営を決意。「叶屋旅館」に出会ったのはそんな時。不動産会社の紹介で沓掛温泉を訪れ、直感的に「病気があってもここなら長生きできるかも」と思ったと言います。そして沓掛のやわらかなぬる湯に包まれた時、「体のこわばりがほぐれていくようで、お湯に惚れ込んでしまった」のだそう。

沓掛のお湯は泉温35〜38度。アルカリ性ですべすべとしており、体への負担が少なくずっと入っていられる湯質。浴後は、肌がふんわりとしてくるような感覚。しばらくするとほど良い眠気が訪れます。ぬる湯の名湯として知る人ぞ知る温泉なのです。

叶屋の目の前にある共同湯「小倉乃湯」。湯温の異なる2浴槽があり、ぬる湯の名湯が注がれている

小倉乃湯と叶屋の間にある共同の「温泉炊事場」。温泉集落ならでは!

素泊まり宿を始めるにあたり、今井さんには「ここだけは」というポイントがいくつかあったのだそう。後編ではそんな宿運営のポイントについて紹介します。

叶屋旅館(かのうや)
電話:0268-49-2004(9時〜21時)
住所:長野県小県郡青木村沓掛428-3
https://www.kanouya-inn.com

*本年は3月上旬より営業開始予定

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