VOL.7 界 別府  本岡允さん

宿の夕食は旅の一大イベント、仲間とともに心を込めて接客中!

Vol.7 本岡允(まこと)さん 1993年生まれ・28歳(界 別府)

温泉好きの聖地・別府に202178日に開業した「界 別府」。良質の温泉で湯浴み三昧のあとは、宿のご馳走が待っています。一日を締めくくる夕食の時間を楽しく過ごしてもらいたいと、心を尽くす本岡允さん。サービス向上のための取り組みや後輩への指導を覗かせていただきました。

 

―――お仕事の内容を教えてください。

 2015年に入社してからは静岡にある「界 遠州」で5年ほど働いていました。大学時代に茶道を習っていたので、そのこともあり、お茶の宿である「界 遠州」に配属されたのだと思います。料理のサービスや品質を管理する担当からトレーナーチームに移り、新入社員の研修などを担当していました。そして自分の次のステップとして、「界 別府」の開業メンバーとして立候補し、夕食サービスの立ち上げ、サービスのトレーニング、オペレーションづくり、備品や衛生面の管理などをしています。

具体例としては、お客様に料理を魅力的に伝えるための文言を作っています。そのために界ブランドの料飲部門を統括するチームとしっかり料理について話し合います。また仲間と一緒に大分の食材を知るために視察に出かけたりもしました。佐賀関へ行き、実際に関サバや関アジを食べたり、近くにある施設を知るために「界 阿蘇」に宿泊したり。個人的には温泉が好きなので周辺の温泉も回っています。実際に体験することでお客様に実感を込めてお伝えできると思いますし、別府という土地の歴史やいわれなどは、自分で調べて勉強しました。

 

―――トレーニングの様子を拝見しましたが、具体的な指導でしたね。

 別府は竹細工が有名で、この施設も隈研吾さんが設計されて、竹を多用したデザインになっています。何故、竹を用いるのかというデザインのコンセプトを伝えるときに、竹について歴史をひもといてみると、記紀に伝わるヤマトタケルの頃から良質な竹が知られ、竹製品が使われていたということがわかりました。それを理解してお客様にお伝えすることで、隈研吾さんのデザインの意図もわかっていただけるのではないかと思い、指導しています。

食事処へのアプローチも壁と天井から吊り下がる竹トンボがそれぞれ80個ずつあり、窓越しに季節の植物を眺めながら階段を降りて来ていただく設計になっています。エレベーターではなく階段で、という設計者の意図もしっかり案内することも、私たちスタッフの役割だと思っています。

そしてお料理の説明は生産者の方の情報やどう食べてほしいかも、しっかり伝えることが大切だと思っています。ただしお客様によっては説明を楽しんで聞いてくださる方もいれば、スピーディーに料理を出してほしい方もいます。私は冒頭の先付の案内のタイミングで、お客様の小さなサインを見極めるようにするのですが、これは難しいですし、この見極めを指導するのも難しいです。

料理の説明はもちろんですが、接客をしていると、器がお好きな方、建築に興味がある方など、お客様の興味も様々です。自分の中で料理以外のプラスアルファの情報という引き出しを多く持つことが大切だと思っています。

後輩スタッフに研修中

 

―――接客で印象に残っていることはありますか。

 記念日のお客様の場合、全国の「界」では食事の最後にお写真を撮ってアルバムにして差し上げているのですが、最初の乾杯の時にお写真を撮って、最後のデザートの際にいつもとは違う器で演出してアルバムとともにお渡ししたときは、とても喜ばれました。スピード感に驚いてくださいましたね。ただし、最初に記念日であることに触れていいお客様だけ、ということでスタッフと共有しました。記念日をサプライズにされているお客様もいらっしゃるので、先走ってはいけない場合もあります。それで失敗もしたこともあります。

また、最初の頃ですが、電話対応での印象が悪かったようでクレームを受けたことがありました。それ以来電話では声のトーンを上げて、お客様の疑問に何でも答えるというスタンスで臨むようにしています。

―――スタッフへのトレーニングで心掛けていることはありますか。

 理由を伝えることです。何故こうするのか、何故それが必要なのかという理由がわからずに、ただ教えられたことをお客様に伝えるというのは、一番よくないと思っています。また、教える相手によって、アドリブ派としっかり派がいます。予備知識を多く教えて自分でアドリブの肉付けをしたいという人と、とにかく文言をしっかり覚えたいという人がいるので、そこは最初にどちらがいいかを聞いてからトレーニングに入ります。私はアドリブ派なのですが、アドリブ派の怖いところは知識がないと嘘を言ってしまう可能性が高いこと。しっかり派は覚えるまでは時間がかかるのですが、そのあとは安定感があります。とにかく私が伝えやすく話すこと、誰に対しても同じ熱量で伝えることを目指しているので、毎回、トレーニング後は声が枯れてしまいます。親からは口から先に生まれた子と言われるほど、とにかくよくしゃべっています(笑)。

またお客様への会話のタイミング、見計らい方も大切です。例えばお客様によって、テーブルをはさんで対面で座られる方、並んで座られる方がいます。並んで座られている場合、こちらが気配を消して入室していきなりお声掛けすると、驚かせてしまいます。入室の気配を最小限伝えつつ、やんわりとお声掛けするという方法もスタッフに伝えています。人に教えるということは、自分の学び直しにつながるので、日々勉強です。私は対スタッフへの仕事が向いていると思っています。これからもチームで働くためのコミュニケーションを大切にして、より良い接客ができるように力を尽くしていきたいと思っています。

 

関屋メモ

 大学ではDNAの研究をしていたという理系の本岡さん。頭の中で組み立てた筋道に沿って伝えているという印象があり、わかりやすく聞きやすい。言葉の熱量が圧倒的なのですが、しっかり腑に落ちるところが素晴らしいです。チームを引っ張る頼もしい存在であり、いたずら好きのお茶目なところもあるそうで、愛されるキャラクターなのでしょう。サウナ好きで、サウナがある温泉を開拓しているそうです。今一番行きたいのは、豊後大野市にあるテントサウナがある稲積水中鍾乳洞。サウナでは自分の中でのルーティーンを作ってそれに従って過ごすのが好きとのこと。やはりなんでも一本筋が通っているようです。茶道を学び、サ道を楽しむ、自分のスイッチをフル回転させている作動の若造でした!

 

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ