VOL.1 星野リゾート 界 長門 総支配人 三保裕司さん

「赤間硯」を多くのお客様に知ってもらいたい!

Vol.1 三保裕司さん 1988年生まれ・31歳(星野リゾート 界 長門 総支配人)

2020年312日にオープンした山口県・長門(ながと)市の「星野リゾート 界 長門」。決して有名とはいえない温泉地の観光まちづくりの一環として生まれました。この宿の総支配人、三保裕司さんには日本の文化を強く意識する背景がありました。

----総支配人になられた経緯を教えてください。

三保:営業マンから転職し、2013年に入社しました。営業をしながら、嘘を交えた営業トークを言ってまでなぜモノを売らなきゃいけないのだろうと疑問に思っていました。いいものをいいと言える仕事がしたいと思ったのです。じつは私の母は韓国人ということもあり、私は強く「日本人」であることを意識していました。しかし日本の文化を知らない。そこで旅館という日本文化の発信地で働いてみたいと考えたのです。

「界 出雲」「界 加賀」を経て、総料理長が率いる料飲のプロチームのなかに飛び込み、そして「界 長門」の立ち上げに関わりたいと思い、支配人に立候補しました。新しいことに挑戦したい、身の丈以上のものに燃えるタイプなのです。201910月にプロジェクト担当者から業務を引き継ぎ、同年12月から長門に住んでいます。

----長門湯本温泉の再生は官民連携のプロジェクトとして注目を浴びました。

三保:じつはマスタープランの発表当日のぎりぎりまで公表せずにプロジェクトを進めていました。通常は進捗状況を市と共有しながら進めて記者会見となるものですが、そこは弊社代表、星野の作戦だったのでしょう。大胆な計画の発表と同時に反対意見も出ましたが、前大西市長の情熱、大寧寺の和尚、まちづくり協議会の方々が賛同を呼びかけてくれました。地域の団結力が強まったのです。

私の役目は今後のソフト面です。長門温泉まち株式会社の取締役も務めていますので、宿とまちの方を繋ぐ役割だと思っています。まちの清掃活動をしたり、飲み会に参加したり。まちの方たちのおもてなし感がすごいのです、皆さん温かい。東京育ちで小さい頃は隣には犯罪者が住んでいると思って暮らせと言われてきましたので、長門の方の地元愛に触れ、自分もこのまちに馴染み、その心地良さを楽しんでいます。

----日本文化の発信は思い通りにできるようになりましたか。

三保:入社から約8年経ち、だいぶアウトプットできるものが増えてきたと思います。今は地元の文化である県の伝統工芸「赤間硯」の良さを強く感じています。ご当地楽としてお客様に体験していただいていますが、私も自宅で硯で墨を擦り、映画のいいセリフがあると紙に書いたりしています。映画鑑賞が趣味なのですが、新しい映画の見方としてはまっています。

しかし山口県内の方でも赤間硯について知っている方が少ないのが寂しいですね。日本人として継承すべき素晴らしい文化、本質的な素晴らしさをお客様にどう体感してもらうかを考えたときに、まず私たちが赤間硯を愛することだとスタッフに伝えました。じつは宿の開業の日に大きな扇に自分たちの目標を書く書初めをしたのですが、私が効率を考えて墨汁を用意しましたら、スタッフ全員に白い目で見られました(苦笑)。皆、赤間硯を出して墨を擦り始めたのです。猛省しました。それと同時に、硯愛が伝わったと嬉しかったです。

----これからの目標を教えてください。

三保:お客様に温泉街のそぞろ歩きをぜひ楽しんでいただき、長門湯本温泉のファンになってもらいたいです。地元の祭りにも積極的に参加するなど、一番の新参者ですが「地元の文化にもっともコミットする宿」になりたいと思っています。その根底にあるのは、内面から出る長門湯本愛!です。

この温泉の魅力を発信し続け、長門湯本温泉は山口県のリーダーになるべきだと思っています。まず温泉地として選ばれることが第一ですので、最初は九州方面から攻めたいですね。福岡空港からですと大分の黒川温泉へ行くより近いのです。福岡から下関を通って長門湯本温泉へ。そして首都圏の方々にも来ていただくという、ビッグウェーブを起こしていきたいです。

関屋メモ

目をキラキラさせ、よどみなく適切な言葉を紡いでいく三保さん。自分のやるべきこと、やりたいことが明確なのでしょう、クレバーな方だなという印象でした。お酒はそれほど強くなく、宴席ではまちのつわものに鍛えられているそうです。還暦を迎えたら仕事を辞めて大学受験をしたいとのこと。推薦入学できちんと受験と向き合わなかったことが心に引っかかっているそうです。大学では考古学か哲学を学びたいと、だいぶ先の目標も教えてくれました。またこの宿を訪ね、一回りも二回りも大きくなった三保さんにお会いしたいです。

星野リゾート 界 長門 の滞在記はこちら 

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

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