第124回 「界 津軽」で大間のまぐろを味わい尽くし、津軽三味線に聞き惚れる (青森県・大鰐温泉)

八百年もの歴史を有し、津軽の奥座敷として古くから親しまれてきた大鰐温泉。城下町として発展した弘前からJR奥羽本線で二駅目、特急電車ならわずか10分の場所に大鰐温泉駅があります。界 津軽は、駅から送迎バス(無料/往路は要予約)で向かう静かな高台に佇みます。

ロビーで出迎えてくれるのは、昭和から平成初期に活躍した日本画の巨匠・加山又造の『春秋波濤』の原画を巨大な陶板壁画にした大作。津軽富士とも称される岩木山に咲く満開の桜と八甲田山を染める紅葉が描かれた山々、月よりも高くしぶきをあげる波が力強くうねる姿が描かれています。まさに津軽を代表する風景に迎えられ、この滞在への期待が高まります。

加山又造『春秋波濤』が彩るロビー

ふんだんにちりばめられた津軽文化

星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド「界」は、施設ごとにコンセプトが異なり、ここ界 津軽では津軽の地に根付いた文化と季節を存分に楽しめます。そのひとつが、館内のあちらこちらで見られる津軽をモチーフにした工芸品の数々です。水庭に置かれた津軽びいどろ、ねぷた絵師による勇壮な武者や美人画が描かれたねぷた絵やねぷた、5階の宿泊フロアの廊下の床には津軽のこぎん模様が映し出されます。なんとも心憎い演出です。

津軽の伝統工芸品があちらこちらに

廊下に映し出されるこぎん模様

積雪時には水庭にこぎん刺し模様のかまくらが登場
(写真:星野リゾート提供)

そして、津軽地方で始まった伝統的な刺し子技法である「津軽こぎん刺し」は、ご当地部屋「津軽こぎんの間」にもふんだんに取り入れられています。

全室が、ご当地部屋「津軽こぎんの間」

障子、掛け軸、行灯、ヘッドボード、アートワークなどいたるところに青森県出身のkoginデザイナー・山端家昌さんがプロデュースしたこぎん刺しがあしらわれています。スタイリッシュな空間ながら、畳が設えられており心がほっと安らぐ空気に満ちています。

肌にやさしい大鰐温泉で湯浴み

それでは早速温泉へ。の前に、「温泉いろは」(毎日16時半~/参加無料)に参加しましょう。大鰐温泉の歴史、泉質や効果的な入浴法などを解説してくれるので、より湯浴みを楽しめるはずです。

ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉の泉質を有する界 津軽の温泉は保温保湿効果が高く、体の芯からあたたまる肌にやさしい湯。季節の移ろいにあわせてりんご風呂が登場するのもうれしいところです。贅沢に青森ヒバを使った湯船に、真っ赤なりんごがプカプカ浮かぶ様子が可愛らしく、思わずテンションがあがります。

りんごの生産量が全国1位の青森県ならでは(女湯)

水庭に面した「かまくら露天風呂」には、桜、紅葉、雪をイメージした津軽こぎん刺しモチーフの灯篭が季節ごとに水庭に浮かび、特に夜は幻想的な風景を見せてくれます。

かまくら露天風呂(男湯)

舌が喜ぶ大間のまぐろ尽くしの夕食

さあ、お楽しみの夕食です! この日いただいたのは特別会席「大間のまぐろづくし会席」。津軽海峡で獲れる大間のまぐろは「黒いダイヤ」とも呼ばれ、まぐろの最高峰とも称されます。「大間のまぐろづくし会席」は、黒いダイヤをお造り、揚げ物、ねぎま鍋、まぐろ丼など多彩な調理法でいただける、まぐろ尽くしの内容です。

先付に続き、お造りと握り寿司が供されます。中トロの上品な脂の甘味がふわりと口の中で溶けていきます。「うっ、うまい!!」と思わずうなってしまう、大間のまぐろをまさにダイレクトに味わえる一品です。

赤身と中トロの違いも楽しめる

まぐろ節をまぶしたまぐろをミディアムレアに揚げた「鮪香煎揚げ」が続き、台の物は「鮪のねぎま鍋」です。まぐろにサッと火を通し、しゃぶしゃぶのようにいただきます。生のままでの保存技術が乏しかった時代に、鍋に仕立てて食べていたことから生まれたそう。そのまま食べてもおいしい大間のまぐろに火を通していただくという贅沢な食べ方に、箸を持つ手も口も止まりません。まぐろの脂が染み出した出汁もたまらない旨さです。温泉の地熱で育った地元名物の「大鰐温泉もやし」とともにしっかり味わいます。

さっと火を通していただく「鮪のねぎま鍋」

〆は漬け鮪と中落ち、とろろや温泉玉子、わさびなどを、土鍋で炊かれた白飯に乗せて自分で作るまぐろ丼。お好みで二膳目は鍋の出汁をかけてお茶漬け風にどうぞ。

「まぐろ丼」。最後の最後まで大間のまぐろ尽くし

それにしても、これほど「尽くし」という言葉が似合う会席料理はなかなかないのではないでしょうか。大間のまぐろの多彩さを存分に堪能した時間となりました。

「手業のひととき」で津軽三味線の奥深さを知る

夕食後はロビーで披露されるご当地楽「津軽三味線生演奏」へ。『春秋波濤』の前でプロの津軽三味線奏者と界 津軽のスタッフによる生演奏を鑑賞できます。

今か今かと待ちわびる宿泊客の皆さん

打楽器のように撥(バチ)を打ち鳴らす津軽三味線の力強い音色は圧巻です! 

終演後はちょっとした三味線教室が開かれ、三味線を実際に持って簡単な演奏も可能です。

実は今回、各地の界で行われている、地域の文化を継承する職人や作家、生産者の方々の協力で一緒に行うご当地文化体験「手業のひととき」(要予約・有料)で、「津軽三味線の達人技に触れる体験」に参加する機会をいただきました。

夕食後、数寄屋造りの離れでの11組限定の約1時間のレッスン。ご担当いただくのはご当地楽で演奏される津軽三味線のプロ奏者である佐藤晶(さとう・しょう)さんです。2025年の津軽三味線全日本金木大会にて最高賞の「仁太坊賞」を受賞された経歴をお持ちです。

佐藤晶さん(写真:星野リゾート提供)

三味線の歴史をはじめ、長唄などの三味線と津軽三味線との違い、撥と胴(ボディ部分)など楽器の説明を受けた後、いよいよ津軽三味線を実際に手にして奏法を習います。ギターすらさわったことがないので、貴重な津軽三味線を持つだけで胸が高鳴ります。

手業のひととき「津軽三味線の達人技に触れる体験」

3本の弦を撥ではじいた瞬間に響く迫力ある音色。自らが音を出したことに静かな感動が広がります。

続けて、初心者向けのオリジナル楽譜で練習をしていきます。左指で絃を押さえて音階を紡ぐのですが、指の位置を見ずに絃を押さえることさえ初心者には難しい。また、3本の絃を一本一本別々にはじくのも至難の業です。


絃を見ずに撥をたたくことさえ難しい 

だからこそ、佐藤さんから直接丁寧なレッスンを受け、ほんの少しのパートですが演奏できた時の感動はひとしおです。そして、津軽三味線を習って自ら演奏するからこそ、この後のご当地楽で耳にする津軽三味線の豊かな表現への理解が広がります。この道のプロを通じて学べる大変貴重な機会でした。(津軽三味線についてはこちらの記事もご覧ください)

津軽こぎん刺しを気軽に体験

界 津軽では、津軽三味線のほかにももうひとつ、こぎん刺しも体験できます。紙に糸を刺してしおりを作る「思い出こぎん」(無料)と、客室でこぎん模様のミニフレームが作れる「こぎん刺し 刺し放題」(有料)でチャレンジしてみては。一針一針ちくちくと無心で刺して仕上げる幸せとともに、自分へのお土産にして持ち帰れます。

「思い出こぎん」と「こぎん刺し 刺し放題」

翌朝は、津軽地方の郷土料理のひとつである「貝焼き味噌」や、焼き魚など滋味あふれる朝食を炊き立てご飯とともにたっぷりいただき、一日をスタート。せっかくなので朝風呂もいただき、チェックアウトです。

卵とじにする「貝焼き味噌」(右上) 

 

シンメトリー模様の美しいこぎん刺しに癒され、大間のまぐろに舌鼓を打ち、青森りんごが香る大鰐温泉の湯に身を任せ、迫力ある津軽三味線の強烈な音色に心が震える時間が、深く染み渡る滞在となりました。訪れた時期はまだ暑さが残っていましたが、真っ白な一面の雪景色の頃に、また訪れたくなりました。

界 津軽
青森県南津軽郡大鰐町大鰐字上牡丹森36-1
電話:050-3134-8092(界予約センター)
料金:1泊31000 円~ 21室利用時1名あたり、税込み、夕朝食付き)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaitsugaru/

取材・文:塩見有紀子

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