第122回 黒羽藍染にどっぷり染まる「界 鬼怒川」手業のひととき (栃木県・鬼怒川温泉)

 

鬼怒川温泉に佇む界 鬼怒川。高台にある宿へは、エントランスからスロープカーで向かいます。このひと行程が旅心を高揚、辿り着いた先は、まるで森を切り取ったかのような中庭が! 別天地にたどり着いたような開放感にあふれます。

 

 

館内には栃木の伝統工芸がちりばめられています。その代表が益子焼。益子の土を使い、独自の釉薬を用いる素朴で温かみのある器です。毎晩開催されるご当地楽も益子焼ナイトと称し、益子焼の魅力に迫り、大きな壺を巧みに操り楽器演奏を行なう楽しいひととき。その様子や、客室の設え、温泉の魅力は、113回 土・木・石・布の匠の技に触れて、使って、音を聞いてちぎ民藝のぬくもりあふれる「界 鬼怒川」

で動画を含めご紹介していますので、ご参考にしてください。

ということで今回フューチャーするのは、20256月からパワーアップした夕食の会席と、黒羽藍染です。黒羽藍染は、大田原市黒羽に伝わる藍染で、藍の色が濃く色褪せしにくいのが特徴。かつて5軒の染元があったのですが、現在は1804年創業の「黒羽藍染紺屋」のみとなっています。現在8代目を継ぐ小沼雄大さんは、界 鬼怒川の開業時から館内の設えを担当しています。

左上から時計回りに、大浴場へ向かう廊下、湯上がり処、ショップ、客室

 

客室はもちろん、湯上がり処には涼しげな団扇が飾られ、涼やかな藍染めの質感のクッションなどが並びます。

手業のひとときで知る奥深い藍染の世界

界のアクティビティ、手業のひとときでは、黒羽藍染紺屋の工房ツアーを実施しています。

黒羽藍染紺屋8代目の小沼雄大さん

 

工房では、まず小沼さんから200年に及ぶ黒羽藍染の歴史や伝統技法のプロセスなどの説明を受けます。藍染は殺菌・消臭に優れ、虫よけ効果があるため作業着などに使われてきました。黒羽藍染は特に材木商の袢纏を作ったのが最初だそうです。

藍とは蓼食う虫も好き好きのタデアイのこと。用いるのは葉の部分で、夏に刈り取り乾燥させ、約100日間発酵させます。これを「すくも」と呼び、塊にしたものが藍玉で、工房では徳島県で生産されたものを使用しているとのこと。

藍の葉

初代から使い続けた藍甕のなかに藍玉を入れ、染め液をつくり染色しますが、その前にも様々な工程や道具があります。道具のひとつが型紙。代々受け継がれてきた貴重な型紙が洒落た文様を描き出します。少しだけ型紙作りも体験しました。

 

 

また、手ぬぐい地に型紙を乗せ、均一に糊をのばす作業も見学。もちろん体験もしたのですが、これが難しい。

手ぬぐい地に型紙を乗せ、糊を塗り、型紙をはがす。位置を合わせて繰り返すと美しい手ぬぐいになる。当然ですが、プロの技はすごい

 

 

 

そして藍甕が並ぶ藍場へ。染め液に浸すことで藍色に変化する布。濃淡のつけ方も繊細な技のひとつです。

 

 

さて、最後は小沼さんが編み出した創作染めの「フリ」で手ぬぐいを作ります。「フリ」は型染めで使用する糊を液状にして筆や刷毛で自由に描く、まさにフリーハンドスタイル。これが楽しい! 心の赴くまま、しずくやかたまり、線を描いていきます。

糊を付けた筆で自由に楽しむ

 

後日、小沼さんが綺麗に染めた手ぬぐいが到着。我ながら見事な出来栄えで、喜び舞い上がり、リビングに飾ってみました!

 

左:完成した手ぬぐい、アートしてる? 右:手業のひとときでプレゼントされるバッグ

 

店舗には暖簾や手ぬぐい、コースター、団扇、巾着など様々な製品が並びます。なかでも小沼さん渾身の作がスニーカー。「フリ」で仕上げた染めの偶然性がもたらすデザインと色味は、ひとつとして同じものができないそうです。界 鬼怒川のショップにも見本品があるので、チェックしてみてくださいね。

ジャパニーズブルーが並ぶ店内

 

6月から刷新、会席コースのメイン・台の物

「界」ではこれまで複数あった夕食のコースを2025年6月から1本に絞り、より充実した内容で提供しています。界 鬼怒川の会席は「う鴨鍋会席」。先付は牛肉とらっきょうのタルタル とちおとめドレッシング。苺の酸味と牛肉の旨みがマッチし、らっきょうのたまり漬けのシャキシャキ感が爽やかに残り、意外な組み合わせに驚きます。

 

椀物の焼き穴子と牛蒡の信田巻きに続き、宝楽盛りは鹿沼組子を用いた器で登場。鹿沼組子は日光東照宮の造営の際に全国から集められた大工職人が伝えた、釘を使わず組み立てる木工技術のこと。八寸やお造り、酢の物が彩りよく盛られています。

 

揚げ物に続きメインの台の物はう鴨鍋。川の恵みの鰻と山の恵みの鴨肉をひとつの鍋で味わうというものです。那須連山を水源とする那珂川では、かつて鰻がよく獲れたそうです。まず白焼きの鰻が出汁で浸みたところに、鴨肉を入れて、さっと火を通します。個性あるふたつの食材を温泉玉子とともに味わうと、旨みの相乗効果で口福感が。旨みあふれる出汁に馴染む野菜も美味です。これは、赤ワインか大吟醸酒がぴったり。最後はうどんで締める、よく考えられた一品です。

 

デザートは豆乳羹ゆず風味。栃木名産の甘く煮たかんぴょうが入り、ナタデココのような食感も面白いです。

 

満腹になったところで、あとは温泉に入ってぐっすり。アルカリ性単純温泉のやさしい湯が、心身を癒してくれます。首都圏からほど近い鬼怒川温泉。知的好奇心と穏やかな時間を求めて訪ねてみてはいかがでしょう。

 

界 鬼怒川

栃木県日光市鬼怒川温泉滝308

1泊 3万5000円~(21室利用時1室あたり、税・サ込、朝夕食付)

手業のひとときは2026年2月までの第1・第3火曜(12月は除外)、111000円(税込、宿泊費別)

 

 

取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)

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