第84回 アイヌ文化×温泉旅館 北海道ならではの宿泊体験はさらに進化中!「界 ポロト」 (北海道・白老温泉)

「王道なのに、あたらしい。」を目指す、星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」。その19番目の施設として、北海道で初、20221月に誕生したのが『界 ポロト』です。

場所は札幌市の南、苫小牧から登別へ向かう白老(しらおい)町にあります。白老町には100を超える泉源があり、温泉通にはよく知られた湯の里なのですが、一般的には何がある町なのだろう、という印象では。しかし2年前に『ウポポイ(民族共生象徴空間)』がオープン、記憶にも新しいかと思います。『界 ポロト』はウポポイに隣接、全室から美しいポロト湖が望めます。

モール温泉で癒され、ご当地部屋で寛ぐ

白樺が並ぶアプローチから館内へ。ロビーラウンジに現れるのは暖炉。これは施設全体をコタン(アイヌの集落)とし、その中心にあるものという位置づけです。アイヌ文化はまず火を囲み人が集まる文化であると、教えてくれます。そして窓の外にはポロト湖と三角屋根の湯小屋、△湯(さんかくのゆ)が見えます。

火の神が宿るロビーラウンジ

アイヌ民族の家屋の屋根の特徴である丸太組みの三脚構造(ケトゥンニ)を基本としています。そして温泉は世界的にも珍しいモール温泉。モール温泉は植物性の有機質を含む温泉のことで、太古の時代から、長い年月をかけて堆積した植物による亜炭層という地層を通って湧き出てきます。

独特の茶褐色で、美肌の湯ともいわれ、フミン酸とフルボ酸の効果で、とろりと肌に馴染みます。内湯から続く露天風呂はポロト湖に続くよう(女湯は目隠しがありますが)で、自然との一体感が存分に感じられます。

休憩処ではケトゥンニの構造がよくわかる

内湯を抜けると、湖と繋がるような露天風呂が

もうひとつ、〇湯(まるのゆ)というちょっと神秘的な造りの温泉もあり、こちらは立ち寄り湯の利用も可能。ドーム天井の丸い穴から入り込む光と外気に吸い込まれそう。

〇湯もぜひ

客室は□の間(しかくのま)と呼ばれるご当地部屋。伝統的なチセ(家屋)から着想を得たもので、4タイプ42室すべてにアイヌ文様を施した壁紙やクッション、アート作品が置かれています。テーブルはやはり「炉」をイメージ。すべての中心には火の「神様(カムイ)」がいるのです。

窓の外には清々しい湖の景色、穏やかな湖面は人の心も平和にしてくれるようです。それから、各階の部屋へ続く廊下は森の小径のように緩やかなカーブがあったり、部屋番号の表記も光の陰影を利用したりと、細部も楽しめますよ。

テラスと露天風呂が付いた特別室

旅の思い出、ご当地楽と大地の恵みをいただく夕食

「界」では、ご当地の文化を体験するご当地楽があります。ここでは「イケマと花香の魔除けづくり」を体験します。イケマはアイヌ語で大きな根の意味で、その根茎を儀式などに使い、魔除けとして日常的に身につけていたのこと。イケマとハーブを袋で包むお守りを作ります。相変わらずの不器用さなのですが、ポイントは欲張ってハーブを大量に入れないこと。完成したお守りは、旅の相棒であるキャリーバッグに。

木の化石のようなものがイケマ、ハーブはケース下段左からカレンデュラ、白樺、コーンフラワー

お楽しみの夕食。北海道の食材を駆使した会席料理をいただきます。先付の「馬鈴薯海宝盛り 山さわび」は、ヒグマが運んでくれます(笑)。一体一体表情もポーズも異なる山の神・ヒグマの置物と、愛らしい演出です。そしてアイヌ民族が使っていた丸太の舟を象った器に、八寸やお造りなどの「宝楽盛り」がどーんと。ぼたん海老やウニ、北寄貝、海鼠など海の幸がてんこ盛りです。

 創意工夫された夕食に大満足

脂がのったキンキや白老牛などを味わい、台の物は「毛蟹と帆立貝の醍醐鍋」。白味噌と昆布出汁がベースの濃厚なつゆを注いで、ブイヤベース風に。そしてもちろん、雑炊!チーズを添えれば、もう旨みの二乗三乗…これは反則だ~と思いながら醍醐味にひたりました。

思わずにんまりしてしまう美味しさ

あ、朝食もご覧の通りの充実ぶりです。

お米が美味で…もちろんおかわり

アイヌ文化を尊重し、北海道らしさを体現する宿は、イギリスで出版されている旅の雑誌「National Geographic Traveler」が選出する「The Hotel Awards: the world’s 42best hotels in 2022」で、ベストデザイン賞を受賞。特徴的な建築や豊かな宿泊体験が評価されました。

総支配人の遠藤美里さん

総支配人の遠藤美里さんは、界ブランドの温泉宿らしさと白老という場所の魅力、さらにアイヌ文化の発信拠点としての、『界 ポロト』の魅力を伝えたいと話します。白老に来たことがなかったという道内からのゲスト、そしてアイヌ文化に興味を持って訪れるゲストの両方を満足させる仕掛けを考えているようです。

四季折々の自然やポロト湖の楽しみ方も宿オリジナルのアクティビティとして登場するかもしれません。何度も訪ねたくなる北海道の「界」第1号として、存在感を増すことでしょう。

ウポポイが教えてくれること

伝統的な家屋(チセ)が並び、内部にはアイヌ民族の道具などを展示

『界 ポロト』の本当にすぐお隣にある『ウポポイ(民族共生象徴空間)』。その意味はおおぜいで歌うことだそうです。敷地には、重要無形民俗文化財指定のアイヌ古式舞踊や郷愁を帯びたムックリの演奏などを上演する体験交流ホール、国立アイヌ民族博物館、チセが再現されている伝統的コタンなどが点在しています。

国立アイヌ民族博物館内

レストランやカフェではアイヌ民族の伝統的な料理なども味わえます。博物館では6つのテーマによる展示で、アイヌ民族の儀式や暮らし、生活を通して、その死生観や世界観を知ることができます。自然とともに生きることの厳しさや尊さ、喜びを様々な視点から感じる貴重な機会といえます。

体験交流ホールでは平日4回、土日祝日は5回の伝統芸能上演がある(4月~10月)

ウポポイでは、これまで知らなかった世界を垣間見る漠然とした体験ではなく、今に通じるものとしてとらえるべきではと、思いました。知らない文化を排除しない、独自の歴史や生き方を尊重する……。

悲しいかな、昨日までは隣人・兄弟同然で接していた人々が敵になるという現実を、私たちは知っています。悲劇で終わらせるのではなく、共生の道を探る、そのためのヒントがここにあるのではと思いました。

国立アイヌ民族博物館のパノラミックロビーからは界 ポロトのとんがり屋根の△湯が見える

界ポロト

☏0570-073-011(界予約センター)

1泊2食付きひとり2万8000円~

  

ウポポイ

 

取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)

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