韓国カルチャーの勢いがなんだかすごい。日本人がそう気づいたのは今から20年ほど前、韓流ドラマが大ブームになったころでしょうか。音楽やドラマ、映画といったエンターテインメント、ファッションやコスメ、家電など瞬く間に世界を魅了していきました。
そんな韓国がここ10年ほど力を入れて発信に取り組んできたひとつがガストロノミー。日本人が街場でカジュアルフードを楽しんでいる間に、モダンコリアンを中心としたファインダイニングは世界において確固たる地位を築き上げました。 ▲チョ・ウンヒさん(右)とパク・ソンベさん
ソウルには素晴らしいレストランがたくさんありますが、なかでも「料理人の師」としてプロのシェフたちからとりわけ尊敬され、学びを得る場所として敬われている特別なレストランがいくつかあります。今回紹介する「Onjium(オンジウム) Restaurant」は代表的な一軒。朝鮮王朝宮中料理を研究するチョ・ウンヒさんとソウルきっての名門ホテル「新羅ホテル」などで研鑽を積んだパク・ソンベさんがツートップ態勢で率いるレストラン…というより調査研究機関で、朝鮮半島をルーツとする食材や調理法、器などの工芸品といった食文化にとどまらず服飾の歴史と文化も調査・研究して保存・継承しています。
▲大切なお客様をお迎えする時に用意された松の実のソースで味わう海鮮盛り合わせ
▲韓国料理=辛いという先入観はいかに一部しか見えていなかったかに気づく豊かな味わい
毎月変わるメニューは、いわば調査研究の結果の集大成。訪れた日のメニューは、朝鮮王朝時代の両班(貴族のような高い身分)の冬の料理を、古書を紐解いて研究し、現代に合わせて再構築したもの。当時は鶏肉より重宝されていたというキジ肉の澄んだ出汁、宮廷の正月料理を再現した蒸しものなどパクさんの技術力の高さに目を見張りつつ、私が驚いたのはひと品ごとへの手数のかけ方でした。私がこれまで体験した中ではオスマン帝国時代のトルコの宮廷料理に勝るとも劣らないこの細部まで研ぎ澄まされた精巧な工芸品のような緻密さ。なんて優美な世界だろう。
そして情報量はとんでもなく多いのに味はあくまでも優しく淡く、食べ進むほどにゆっくりと五感が目覚めていく。手間暇を惜しまず食べ手の健康に思いを馳せた料理はそのまま「医食同源」という韓方の考え方にも繋がっていくようです。
韓国文化の奥深さと豊かさに惹き込まれる一方で、日本人としては日本の文化だってこんな風に世界に届けることができるのでは、なんて思ったりもして。東京にもこんなレストランが誕生することを密かに願っています。
Onjium Restaurant
https://www.catchtable.net/shop/onjiumrestaurant
*公式サイトはありませんが予約サイトから予約できます。
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。