世界のファインダイニング by 江藤詩文

第55回 カフェだけじゃない。オーストリアの食文化と生産者の魅力を伝えてシェアするウィーンの誇り「Steirereck シュタイラーエック」(オーストリア・ウィーン)

市立公園の真ん中。周囲の豊かな緑や元気に遊ぶ子どもたちを映し出す鏡張りのパビリオンのような建物がオーストリアを代表する名店「Steirereck シュタイラーエック」です。「ミシュランガイド」で二つ星、「世界のベストレストラン50」で2023年はオーストリアから唯一18位にランクインしています。

▲シュタイラーエックオーナーシェフのHeinz Reitbauer ハインツ ライトバウアーさん

ウィーンの名物といえば思いつくのはウィンナーコーヒーやザッハートルテ。料理はウィンナーシュニッツェルでしょうか。ウィーンスイーツがおいしいカフェ文化の街として知られていますが、実はこれらはすべてハプスブルク家の繁栄とともに発展したもの。「それ以前のオーストリア料理は貧しいけれど自然と共にありました」とオーストリア料理の歴史を研究するオーナーシェフのHeinz Reitbauer ハインツ ライトバウアーさんは言います。

▲ビーワックスの保温性を生かして淡水魚をミキュイに仕上げるシグネチャーディッシュ

店名のシュタイラーエックとはウィーン南西の地方「シュタイアーマルク州の」という意味。ここで代々Pogusch ポグシュ農園を営んできた家族のルーツに立ち返り、基本的にはすべてオーガニックで栽培した野菜を中心に、オーストリアには海がないため海の魚は使わず、昔から食べられてきた食材をガストロノミーに昇華しています。

ウィーンとポグシュ農園は車で1時間半ほど。少ないフードマイレージで往路は新鮮な野菜やハーブを積み込み、復路はレストランではどうしてもゼロにできなかった生ごみを運び、それを家畜のエサにしたりコンポストして畑の肥料にしたり。さらに都会の中心ながらレストランの屋上には主にハーブを栽培するオーガニックガーデンもあります。

▲繊細に構成されつつも素材そのもののおいしさがくっきりと描き出された料理

メニューはコースとアラカルト。いま主流のおまかせではなくコースでも複数の料理から選べるうえアラカルトメニューのバリエーションも豊富。名物のトロリーサービスでは20種類以上のパンや数え切れないほどのチーズがずらり、と一見するとフードロスが多く出そうですが、これらはすべて考え抜いてのこと。「オーガニックの自家菜園で採れた最良の食材を食べていただきたいとなると、お客様の人数分だけ同じクオリティのものが用意できるとは限らないのです。私たちにとっては、たとえばトマトとなすがどちらも最高の状態だけれど、お客様全員分の量は収穫できないという時でも、どちらも使うことができてお客様に好みを選んでいただける今のスタイルがサステナブルな方法です」

▲「レストランは信頼できるつくり手の生産物をお伝えするショーケース」と
チーズも地元のものをコレクション

レストランの裏側にはカジュアルなダイニングMeierei マイエライを併設。食材を共有することでフードロスを削減するとともに、地域の家族や子どもたちに食の喜びを伝えています。


▲自然と一体化したような居心地のいいダイニング

Steirereck シュタイラーエック
https://www.steirereck.at/steirereck.en.html

*公式サイトから予約できます
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ