世界のファインダイニング by 江藤詩文

第40回 レストランはここまで文化施設として機能する時代に!時間と空間を超えて食でペルーを旅する「MAZ マス」(東京・紀尾井町)

入国制限が緩和され、旅する日々がようやく戻ってきそうですね。

私はこの夏、ヨーロッパ6カ国でレストランめぐりをしてきました。

これまでの反動でパワーが爆発したかのように、熱気に満ちていたヨーロッパのフードシーンは改めてご報告するとして。私のホームタウン=東京だって負けていません。2022年にオープンしたもっとも注目していただきたい1軒をご紹介します。

  (Centralのヴィルヒリオさん/右とMAZヘッドシェフのサンティアゴさん)

2022年版「世界のベストレストラン50」2位、2021年版「南米のベストレストラン50」1位に輝くペルー・リマの「Central セントラル」(※ペルーにミシュランはありません)が日本にやってくるー。アジア中の期待と注目を受けて日本に初上陸した「MAZ マス」。“ペルーの気候風土と生態系の多様性を表現”するガストロノミーとして大きな話題になったので、このコラムの読者の方は、もういらした方も多いのではないでしょうか。

     (ペルーへの旅は水深2mから高度4200mまで9つの土地を料理でめぐる)

ご存じの方はおさらいです。

日本では“四季”という時間の流れと、主に“南北”という土地を水平に見た視点から自然(食材)の多様性を捉えています。けれども海の中から高度6000m級の山々まで高低差の大きいペルーでは、先住民たちは”高度”という視点から自然(食材)の多様性を捉えてきました。この”高度”という視点をガストロノミーの世界に取り入れ、インカ帝国時代(というかそれ以前かも?)から継承されるペルー原産の食材を分類・記録し、オートキュイジーヌとして世界に発信して南米のフードシーンをドラスティックに変えたのが「Central」です。

    (ペルー・アマゾン産カカオは研究を重ねてきた大切な食材のひとつ)

「MAZ」ではそれがさらに変化。「日本の食材でペルーの多彩な自然と文化・歴史を表現する」という壮大なプロジェクトになりました。料理の洗練されたプレゼンテーション、ペルーの若手アーティストが手がけたテーブルウェア、未知なる食材のディスプレイ、料理ひと皿ごとに手渡されるイメージカードなどが相まって、食べ慣れた日本の食材がメイン(8割が日本産)のはずなのに、心も身体もペルーに持っていかれたような異空間への浮遊感に包まれます。これが料理の力…。

(彼ら自身で蒸留したお酒やペルーの原種の食材など未知の味に出合える)

これだけ革新的で、まるでペルー文化の博物館や美術館のような社会的役割も果たしながら、しかもこんなにデザインコンシャスなビジュアルで遊びながらも実験的な味に傾かず、料理として高いレベルのおいしさが貫かれています。

(カカオとその仲間であるテオブロマ属の植物を使った圧巻のデザートバリエーション)

地球のほぼ反対側にある遠い国ペルー。ましてやインカ帝国。普段は関心をはらうことさえない土地や時代かもしれないけれど、食を通した体験は距離も時代も超越する、それこそがヴィルヒリオさんの魔術。いつの間にかペルーを身近に感じ、こんな料理が生まれた国を旅してみたくなるのです。

みなさんもペルーに行きたくなったのでは? 実は私、「MAZ」のオープンに先駆けて総本山である「Central」とインカ文明を伝えるクスコ郊外のレストラン「MIL ミル」に行って来ました。

そしてあぁ南米トップはやっぱりすごかった。詳しくは近々こちらでレポートします。

MAZ(マス)https://maztokyo.jp

※公式サイトから予約できます
※記事内はすべて訪問時のもの。季節などにより変更されます

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