世界のファインダイニング by 江藤詩文

第24回 日本の地方の未来のために。100年をかけて育む美食文化を宇都宮から 「オトワレストラン」(栃木県・宇都宮市)

長かった緊急事態宣言もようやく解除されました。そろそろ短い旅をゆっくりと再開してみよう。そんな人も多いのではないでしょうか。日帰りや1泊2日でも、ゆるやかな時の流れを楽しめるのが近場旅の魅力です。あくせくと観光を詰め込むのではなく、ゆとりのあるプランを立て、丁寧につくられた思いのこもった料理をじっくりと味わう。今月は、そんな穏やかな時間を味わえる、栃木県のデスティネーションレストランを2軒ご紹介します。

「山女魚」日光で獲れたヤマメのタルタル ハーブや柑橘が香ります

東京駅から新幹線で50分弱。日帰りでも行きやすい宇都宮に、日本を代表するグランメゾン「オトワレストラン」はあります。オーナーシェフの音羽和紀さんは現在74歳。リヨン郊外のミヨネ―村で、伝説のフランス料理人アラン・シャペル氏(故人)に日本人として初めて弟子入り。現地の伝統文化や技術をしっかりと習得し、まだ西洋料理がめずらしかった日本に、フランス料理を広めた最初の世代です。

「蝦夷アワビ」。パイ包みにしてソースで味わう古典料理の手法を用いた一品

 地方に伝統と格式を誇るグランメゾンがあり、村人に受け入れられ、美食文化が何世代にも渡って継承されている。日本ではまだローカルガストロノミーなどという概念もなく、東京に一極集中していた時代に、そんなフランスの食文化を肌で感じた音羽さんが目を向けたのが、故郷である宇都宮でした。

「和牛フィレ」栃木では肉類も上質なものが生産されているとか

「三世代100年かければ、宇都宮にもリヨンで見たような美食文化が定着するかもしれない、と大きな夢を描きました」

そこで宇都宮に、現在のレストランの前身である、小さいながらも本格的なフランス料理店を開いたのが40年前。以来宇都宮から動くことなく、すばらしい料理をつくり続けてきました。

左から、長男の元(はじめ)さん、和紀さん、次男の創(そう)さん

現在は、厨房を長男の元さんが、料理人としても有名な次男の創さんがサービスを、マネジメントは長女の香菜さんが中心となってファミリービジネスを展開しています。

「僕が生きているうちに、この夢は完成しないかもしれない。けれどもいま厨房でちょろちょろ遊んでいる孫たちが継承する頃には、この街に美食文化が根付いていることでしょう」と和紀さん。

アミューズなど小さなものにも手をかけた、美しく繊細な元さんの料理

でもね。帰りがけに立ち寄った観光客向けの餃子屋さんで「オトワレストランは宇都宮市民の自慢です」と店員さん。村人の誰もが知っていた「アラン・シャペル」のように、オトワレストランはもうすでに「我が街の誇り」になっているんだと思います。

(データ)

オトワレストラン https://otowa-artisan.co.jp

公式サイトから予約できます

料理はすべて訪問時のもの。季節などにより変更されます

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ