ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第51回 神輿を担いで見えた風景〜築地・波除神社「獅子祭」にて(東京中央区・築地)

6月半ば、東京・築地で三年に一度の本祭「獅子祭」が開催されました。
今年は波除神社の神輿が創建100周年を迎える記念の年。まち全体が熱気に包まれ、いつにも増して興奮に満ちた祭りとなりました。

当日は、梅雨らしく雨が降ったり止んだりと空模様の読めない天候でしたが、そのぶん神輿を担ぐ人々の熱と、沿道で見守る人々の視線は一層強く感じられました。濡れた舗道に揺れる提灯の光もまた、どこか神秘的で印象に残っています。

私はこれまで築地六丁目のご依頼で、お祭りの撮影を担当してきました。
もともと18年ほど前から、場内市場や場外市場を個人的に撮ってきたことから築地とは長くご縁があり、昨年はついに個展を開かせていただきました。そんな築地で迎える記念の年に、今回ばかりは「撮る」だけでなく「担ぐ」ことで関わりたいと思ったのです。

2024年yOU個展「築地フィルム」より

宵宮の撮影は担当したものの、本祭の撮影は信頼する若手に託し、私は半纏を羽織って担ぎ手の列に加わりました。
担がせていただいたのは、女性だけで担ぐ「雌獅子神輿」と、築地六丁目の神輿。朝の宮出しと夜の宮入り、そして町内の神輿を担ぎきったその一日は、言葉では言い表せないような熱と一体感に満ちていました。

波除神社前に並ぶ、雄雌一対の巨大獅子頭

雌獅子神輿は赤い顔をした獅子頭が特徴です。雄獅子よりやや小ぶりとはいえ、その重さは想像以上。肩に食い込む担ぎ棒、揺れる神輿、周囲との呼吸を合わせながら進む道中は、まさに身体全体で味わう神事そのものでした。

神輿担ぎが初体験だった私にとって、その一歩一歩はまるで“洗礼”。
全身にのしかかる重さ、前後左右から押し寄せる熱気と掛け声、そして肩の痛みに耐えながらも、なぜか心はずっと高揚して、時々涙が込み上げるような瞬間もありました。

雌獅子神輿の宮入り。後ろで担いだので獅子の背面が見える

祭りとは、神様を迎え、敬い、そして送り出す神聖な営み。
その意味を、私はこの日初めて身体の芯から理解したように思いました。写真におさめるだけでは感じ取れなかった感覚が、身体を通して染み渡るような気がしたのです。

14日の夕暮れには、築地場外のメイン通りに各町会の神輿がずらりと並びました。揃いの提灯の下で整列する神輿たちは壮観で、まるでまち全体が神様を迎える舞台のような、美しく誇らしい光景でした。(トップ画像参照)

宵宮の宮入り、境内に入る瞬間の神輿。

波除神社は、江戸時代に荒れる波を鎮める祈りとともに築かれた神社です。その名のとおり、「災難を除け、波を除ける」願いを今も守り続けるこの神社の祭りは、まちの人たちの祈りと絆に満ちていました。

時代を超える風景。宮司が乗る人力車やターレが行き交う築地の路地

翌日、真っ赤に腫れた肩や筋肉痛の体に笑ってしまいながらも、どこか満ち足りた気持ちでいっぱいでした。神輿を担いだ感覚はまだ体の奥に響いています。

築地は「食」のまちとして広く知られていますが、こうした地域の祭りや神事に触れることで、また違った表情が見えてきます。夏が過ぎて、秋に渡り、旅先でこんな風に地元のお祭りに出会えたら、ふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
神輿が通りを練り歩くときの熱気や、沿道で声援を送る人々のまなざし、そしてその土地で大切にされてきた“祈りのかたち”が、きっと心に残る風景となるはずです。

旅は、風景や味だけでなく、そこに息づく暮らしや文化に触れることでもあります。そんな出会いを重ねていくことこそ、「ニホンノカタチ」を見つめる旅なのだと思います。

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