ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第23回 かつての能はポップな舞台だった⁈ 能楽にまつわるエトセトラ 前編(東京・港区)

お能を体験したことがある方は、どのくらいいるでしょうか?

私はたまたま両親が好んだことから、何度か薪能(たきぎのう)などを鑑賞したことがあり、それらは実に艶っぽくて典雅ですが、派手でわかりやすいエンターテインメントと比べると、どうしても理解しにくかった記憶があります。そんな日本の伝統芸能に携わる「能楽師」という肩書きを持つ友人がいることは、とても誇らしいこと。今回はシテ方観世流の演能団体「銕仙会(てっせんかい)」に所属される女性の能楽師、友人でもある鵜澤光さんにフォーカス、直接お話を伺うために東京南青山の能舞台へ赴きました。

それにしても空の能舞台というのは、独特な静けさとスケールで迫るものがあって、実にフォトジェニック!

 能舞台の経年美にグッとくる

「能楽師」と呼ばれる人達は全国で1100名ほど(2020年現在)。その中でも女性の能楽師が少数なのは、かつては男性が演じるものとされてきたからだそうです。雅楽と同様に伝統芸能に関わる能楽師は国の職員かと思っていたのですが、それぞれ自営だと聞いてびっくり。

お母様の鵜澤久さんも能楽師としてご活躍されている光さんはその道を継ぎ、東京藝術大学の邦楽科を卒業、現在は数々の舞台に出演する一方で、講師として能楽の指導にもあたっています。

能楽は「シテ方」と「ワキ方」「狂言方」、そして「囃子方」で成り立つ完全分業の演劇で、光さんはシテ方。話を伺えばシテ方は役を演じるだけではなくて、舞台の後座で装束の乱れをなおしたり、小道具を渡したり、江戸時代以降はそれぞれの装束、面や鬘(かずら)の管理から、大道具小道具の組み立てまで役割が広範囲に渡ると聞いてまずは驚きました。

「能は役者だけでできる」とも言われるほど。そんなシテ方が扱う能舞台に関わる謂わば「アイテム」、前編では装束についてご紹介していきます。

1.「能装束」

能の装束にはそれぞれにルールがあって、役柄の年齢や性別、位によって分けられます。

「紅(いろ)」と呼ばれる紅系の色は若い配役が身につけるもの、また強い柄物は男性役が着るもの...等、柄や模様で季節や位を表すのも日本ならではの風習でしょうか。

100年使い続けられる装束もあるとは言え、洗濯のできない消耗品、「多くの演者達の汗が沁み込んでいるんですよー(笑)」と光さん。管理も大変そうです。

また自分の配役に応じて選んだ装束を、本番前のリハーサルで全体のバランスを見て調整していくそう。能装束は、そのバリエーションで物語の季節や人物のイメージを創る重要なアイテムのひとつで、観客の想像力をより掻き立ててくれますね。

また装束の乱れを繕ったり、補正したりするのもシテ方のお仕事。これには2本の太白の絹糸を撚って(よって)極太の糸を作り、使用します。

右から「金地紅入(いろいり)唐織」「萌黄(もえぎ)地紅無(いろなし)縫箔」
「萌黄(もえぎ)地紅無(いろなし)厚板」 華やかな能装束

装束用裁縫セットはシテ方の必需品。

装束を実際に手にしてみると、縦糸と横糸の織り方が工夫されていて、動きやすく軽く作られているとはいえ、これらを実際に着用して演じることがいかに大変か...小さな体でパワフルに活動される光さんの能楽師としての苦労を改めて感慨見ました。

さて、前編はここまで。後編ではシテ方が扱うアイテム「扇」と「面」をご紹介します。

お楽しみに。

「銕仙会能楽研修所」
〒107-0062 東京都港区南青山4-21-29
03-3401-2285(平日10~17時)
http://www.tessen.org

能楽師 鵜澤光webサイト
https://www.hikaruuzawa.com

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