ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第13回 標高700m、劇場のステージのような美しき山葵田へ(静岡県・西伊豆町)

静岡県西伊豆町。標高700m。

美しい新緑の頃、ひっそりと静かな山間に足を踏み入れると、見えてきたのは急斜面にダイナミックにそびえる石積みの棚田。そこを流れ落ちる何本もの糸水。木漏れ日を浴びた棚田は、まるで由緒ある劇場のステージのような佇まいでした。

伊豆半島は元々火山灰が溜まった島が、本州につながってできたと言います。火山灰の地層は湧水が豊富で、更に屋久島に次いで雨量も多いこの地は、昔から水環境に恵まれていました。

この環境下での畳石式山葵栽培、この美しい棚田では山葵が作られていたのです。湧水を利用することで、水温を一定に保てること、また土ではなく石や砂で育てることで根にも空気が行き渡り、山葵作りには最適の環境だそう。この畳石式の山葵栽培を開発した伊豆地域は、2018年にユネスコの世界農業遺産に指定されています。

 NONAKA FARM 野中徹さん

 私達が案内された山間の山葵田は規模こそ大きくはありませんでしたが、この場所でたった一人で山葵栽培を行っているのは、「無農薬わさびNONAKA FARM」の野中徹さん。

神奈川県の茅ヶ崎で育ち、お父様の影響で幼い頃から海に関わるライフスタイルを送ってきた野中さんは、ワーキングホリデーで訪れたオーストラリアで農業の手伝いとサーフィンの生活を経験して、土や海に触れる生活にすっかり魅了されたそうです。帰国後に東日本大震災を経験して、さらにオーガニックにこだわるようになり、西伊豆に移住。

そして朽ちかけた山葵田の再生に名乗りを上げました。

山葵は秋口に畑で種をまき、苗が育つと山に上がって、棚田で植え付け作業を行います。その後は毎日山まで上がって、山葵の様子をチェックしながら、然るべきサイズの山葵を収穫して、一つ一つ丁寧に水で洗い、余計な部分を取って綺麗にして、初めて消費者の手に渡る姿になります。種まきから市場に並ぶまでの期間はなんと1年半から2年。

山葵と真摯に向き合う作業の一部を直近で拝見して、それはそれは気が遠くなるような手間と時間がかかることを知りました。

野中さん曰く「これはもう瞑想に近い時間ですね(笑)」とのこと。

美しく力強い山葵の葉

また野中さんが作る山葵は、全て無農薬で育てられています。アブラナ科の山葵は虫がつきやすのですが、農薬を使わずについた虫を一つ一つ手で取る(!)ことで、それを実現させているそう。全てが手作業....脱帽です。

山間の宝物

山葵は下の方がえぐみと辛味をもち、上の方に甘みと風味、香りがあるというお話も初めて伺いました。またコブが多い方が年輪が深いもので、それが綺麗に整列している山葵が良質だとか。あれもこれも初めてづくしの山葵のお話、とても興味深く伺いました。

大切に育てられた山葵だからこそのお値段も納得。

美しい佇まいの山間の棚田のステージ、主役は山の宝物である「山葵」そのものでした。

 野中わさび園 〒410-3625 静岡県賀茂郡松崎町櫻田487-2 電話:(080)4347-9645 

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