マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

第5回 レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は、絵画なのに世界遺産に登録されたのはなぜ?(イタリア・ミラノ)

イタリア・ミラノを訪れる観光客の多くのお目当てが、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』であるのは間違いないでしょう。このルネサンス期を代表する巨人は紹介するまでもなく、『モナリザ』や『受胎告知』などの優れた絵画を残し、また科学者や発明家としての才も発揮しました。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作『最後の晩餐』(写真:Pixabay)

1980年には、少し長い名前ですが、「レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会とドメニコ会修道院(Church and Dominican Convent of Santa Maria delle Grazie with “The Last Supper” by Leonardo da Vinci)」として世界遺産に登録されています。

世界遺産に登録される条件のひとつに「不動産」であることがあります。そのため、どんなに優れた絵画であっても、通常は世界遺産に登録されることがありませんが、例外となるのが壁画です。『最後の晩餐』は、修道院の食堂の壁に描かれていることから、この建物と切っても切れない関係となり、世界遺産となったのです。 

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会

レオナルド・ダ・ヴィンチが1495年から1497年にかけて描いたこの作品は、キリストが「あなた方のうちの一人が私を裏切る」と語った、新約聖書(ヨハネによる福音書13章21節)の場面を描いたものです。キリストを中心に、遠近法の一種、一点透視図法を用いて空間に奥行をもたらし、また十二使徒を3人ずつ4グループに分けた構図もバランスよく工夫されています。さらに裏切り者がいると聞かされた十二使徒それぞれの驚きや困惑、動揺の表情が見事に描かれた傑作となっています。

ただレオナルド・ダ・ヴィンチはフレスコ画ではなく、テンペラ画で描いたことから、彼が生存中から絵は傷み始めたといいます。フレスコ画では、生乾きの状態の漆喰を塗り、それが乾かない間に顔料で描き、色を定着させますが、顔料を卵や膠(にかわ)などに溶いて描くテンペラ画では、壁の石膏に顔料が吸収せず、壁画には不向きでした。

傷みが激しかった壁画は1999年に修復作業を終え、現在も修道院で鑑賞することができます。見学の際は、決められた時間に決められた人数しか入場できません。直前だと予約できないこともありますので、イタリア旅行が決まったら早めのご予約がおすすめです。

『最後の晩餐』がある修道院の入口。入口横には世界遺産のロゴマークも!

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