マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

世界遺産への旅Vol.5 ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石群(トルコ共和国)

 

海外に出かけると日本ではお目にかかれないような不思議な景観に出会うことがあります。

今回ご紹介するトルコの世界遺産もそのひとつです。

カッパドキア1

長い年月と自然が生み出した奇岩群

アジアとヨーロッパの間に位置するトルコは、親日家の国として有名ですが、今年は日本とトルコの今日の友好関係の原点になった、軍艦エルトゥールル号の遭難から120年ということで、「2010年トルコにおける日本年」となっています。

そのトルコの中央、アナトリア高原にあるカッパドキアは数々の奇岩が林立した光景が広がっています。キノコや尖塔のような形の岩があちこちで見られるのです。はるか大昔(約300万年前だとか)に火山の大噴火があり、溶岩や火山灰などが降り積もり、凝灰岩(ぎょうかいがん)や玄武岩(げんぶがん)の層となって堆積したそうです。長い年月をかけて風雨がやわらかい凝灰岩を浸食し、現在のような不思議な光景を造り上げました。自然による芸術といえそうですね。

カッパドキア2
(左)キノコのような形をした岩が並ぶ

(右)色の異なる地層が何層にも重なる

キリスト教徒が隠れ住んだ洞窟住居
カッパドキアの不思議はそれだけではありません。約4000年前から凝灰岩を削り、岩をくりぬいた洞窟内に人が住んでいたというのです。3世紀半ばにはローマ帝国によるキリスト教の弾圧(※1)があり、信仰を守るためにキリスト教徒が隠れ住むようになりました。その後もビザンツ帝国による偶像崇拝を否定する動き(イコノクラスム)やトルコのイスラム化で、ここに隠れるキリスト教徒は増え続けたといいます。

カッパドキア3

洞窟は地上だけでなく地下にも深く掘られ、まるで蟻の巣のように何層にもなっていて、場所によっては地下8階なんてところもあります。この地下都市にあるのは住居ばかりではありません。聖堂や修道院がたくさんあり、天井や壁にはフレスコ画が残されています。

厨房として使われていた部屋を見ると、天井に黒いススが付いていて、何百年も前に人々が本当に暮らしていたのだと実感できます。信仰を守るために閉鎖的な空間で暮らし続けるというのは、特定の宗教をもたない日本人である私たちの想像をはるかにこえるものがあります。

※1:ローマ帝国がキリスト教を公認したのは4世紀初めです(コンスタンティヌス帝によるミラノ勅令は313年)。

カッパドキアを観光するには、岩の麓に洞窟住居が造られている人気の観光都市ユルギュップをはじめ、大規模な地下都市の残るカイマクルやデリンクユ、カッパドキアらしい風景が楽しめるギョレメなどいくつもの町があるので、ツアーに参加した方が効率的に回れるでしょう。

■トルコ共和国・1985年登録・複合遺産
■ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石群
(Goreme
National Park and the Rock Sites of Cappadocia)

(取材・執筆 山本 厚子)

 

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