台湾/台南〜嘉義・東石「食い倒れツアー」 Vol.3

美食の王国・台湾。この台湾の南西部にある町・台南(タイナン)&嘉義(ジアイー)を訪れ、3日間朝から晩まで食べまくる「食い倒れツアー」なるものに参加してきました。台湾グルメの発祥地をはじめ、牡蠣料理の名店やマンゴーの里まで、あらゆる場所であらゆるメニューを味わい尽くす至福の旅。そんな満腹度120%の旅のなかで食べた品々を、4回にわたって紹介します。

 


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冬の代表的な味覚、牡蠣。みなさんは今シーズン、どんな牡蠣料理を味わいましたか? ミルキーな身をそのままに味わう生牡蠣? それとも、サクサクの衣を纏ったフライや味噌で炊いた土手鍋でしょうか。日本ではファンが多い食材だけにアレンジ法もさまざまですが、台湾人の牡蠣好きも相当なもの。何しろ、最近では料理だけに飽き足らず、かき氷のトッピングにまで使われているほどなのです。まあ、それは少々奇抜な例ですが、台湾の牡蠣料理のバリエーションは実に豊富。そこで今回は4月から旬を迎える台湾の牡蠣にスポットをあて、国内一の大産地・嘉義県東石(ドンシー)を中心に紹介します。


 


●台湾随一の牡蠣の里、東石へ


 


台湾西南部にある東石沿岸は、国内きっての牡蠣の里。この村の西岸には好漁場として知られる台湾海峡が走り、沖合には長さ20kmにもなる台湾最大の砂洲「外傘外頂洲(ワイサンディンヂョウ)」が横たわっています。実はこの巨大な砂洲の存在こそが、東石に良質の牡蠣が育つ秘密。牡蠣は波によるストレスを受けやすく、海水のあたり具合によって形や成長度合いが左右されてしまうのですが、ここでは砂洲が天然の暴風壁となっているため波が穏やかになり、牡蠣が伸び伸びと育つことができるのです。


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牡蠣は台湾で最もポピュラーな貝で、その生産量は国内で養殖される貝のなかでトップを誇る。
そのうち、東石漁港周辺の牡蠣の養殖面積は国内の約3割を占める

 


 


牡蠣の養殖場見学を楽しめる観光船

阿水船長 アーシュイチュアンチャン>


 


穏やかな海ですくすく育った東石産の牡蠣は、ぷっくりと豊潤な身を湛え、食べればコクのある濃厚な味わい。そんな上質の牡蠣が育つ様子を間近で見られるのが、観光船「阿水船長」で行く養殖場見学クルーズです。コースは東石漁港からスタートして養殖場へ向かいますが、これに干潟での海洋生物観察や台湾料理の食事が付いたものなど数プランが用意されています。所要時間は約3時間、基本的には予約制で団体(3545名)のみの受け付けですが、少人数でも週末などは団体客と一緒に乗船させてもらえる場合があるそう。クルーズを楽しみながら、牡蠣のことも学べるのは産地ならでは。申し込んでみる価値大ですよ!


 


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観光船は通年運航だが、ベストシーズンは気象条件がいい日が多い夏。
船内ではカラオケ設備やトロピカルフルーツのサービスもある。1450元(保険込み)〜


 


 

見学する養殖場では、筏上の養殖棚に牡蠣を付着させた長縄を結び、海中に吊るす方式とっています。ツアー客が到着すると、漁師のおじさんが「どやっ!」とばかりに縄を引き上げて見せてくれるのですが、長縄のまわりには牡蠣がびっしり。幾重にも重なり合って、まるで大きな松ぼっくりのような塊になっています。それが10個ほど数珠つなぎになっており、軽く見積もってもひと縄500個ほどはありそうです。さらに、おじさんは乗船客も養殖棚の上に招いてくれたりして、サービス精神たっぷり。ついでに「ほれ、ひとつ食べてみな」とはいきませんが(笑)、きっと殻の中にはプリップリの身が詰まっていることでしょう。

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台湾の牡蠣の生育期間は一般的に612ヵ月で一年中採取できるが、
最盛期は4月から台風シーズン直前の9月まで。なかには、45月が旬の2年物もある


 


 


●採れたての新鮮な牡蠣を味わい尽くそう


 

クルーズ後に楽しみたいのが、牡蠣三昧のお食事タイム。たわわな牡蠣縄を見た後なら食欲もピーク、料理への期待も高まるというものです。なお、台湾産の牡蠣は日本で冬によく食べられる真牡蠣の仲間。真牡蠣より少々小粒ですが、東石産のものは栄養豊富な台湾海流の中で育っているため、比較的大粒なのが特徴だそう。では、いよいよ実食〜!

 


牡蠣料理のバリエーションが豊富!

修 呉氏蚵捲 シウ ウーシーオーアーチェン


 



修 呉氏蚵捲」は、伝統的な小吃(シアオツー)から店オリジナルの創作メニューまでバラエティに富んだ牡蠣料理を味わえると評判の店。使用しているのは、もちろん当日採れたばかりの新鮮な素材です。加えて、料理はどれもひと皿100元(1元=約3.4元)前後の産地価格。「思う存分牡蠣を満喫したい!」という人には、特におすすめしたい一店です。


 


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東石の伝統小吃。「蚵仔煎(牡蠣オムレツ)」(50元)はどこを食べても牡蠣にあたる。
ケチャップや腐乳がベースの甘酢ダレで。スープの「蚵仔仁湯」(60元)の牡蠣も贅沢な使いっぷり


 


この店の初代店主は、店を開きながら辧桌(バンドー)を請け負う現役の總舗師(ゾンポーサイ)としても活躍した人。辧桌とは台湾の伝統的な慣習のひとつで、冠婚葬祭や宗教行事などの際に開く野外宴会のことをいいますが、その規模は大きなものでは数100人、数1000人もの来賓があるほど盛大です。また、このとき料理長の役割を担うのが總舗師。店主はその大役を務めたほどの腕利きでしたが、残念ながら既に亡くなってしまったそう。でも、奥様がしっかりその技術を受け継いで店を守っており、今もスタッフを率いて辧桌で腕を振るうことがあるそうです。

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創業は1980年代。店内で剥きたてのフレッシュな牡蠣を提供。
箸やソースなどの用意はセルフサービスという庶民的なスタイルの店


 


 


そのため、この店では辧桌で提供するメニューを味わえます。多くの人々に東石の地名や特産の牡蠣のおいしさを伝えたいと、本来は地元の宴会でしか味わえないような大皿料理を少人数向けのポーションにしたり、庶民的な料理にアレンジしたりして提供しているのです。例えば「油條蚵(牡蠣と油條の煮物)」もそのひとつですが、これはサツマイモ粉をまぶしてボイルした牡蠣をニンニク風味の自家製ソースで煮絡めたもの。ツルンとした舌触りや口の中で弾けるように広がる牡蠣の旨みは癖になりそうなおいしさで、仕上げにのせた油條(台湾風の揚げパン)や干しエビ、オニオンチップといった歯触りのいいトッピングとの相性も格別です。


 


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油條蚵(120元、写真は2人前)をはじめ、看板メニューの牡蠣の包み揚げ「蚵捲」(460元)は辧桌の定番


 


 


舌に馴染んだ伝統料理もさることながら、辧桌では招待客に喜びや驚きを与える華のある料理も必要。そのためこの店では郷土料理を研究する一方、時代の流れを取り入れた現代感覚のメニューも積極的に取り込んでいるそう。なかでも牡蠣フライや野菜をサンドした「蠔飽(牡蠣バーガー)」(60元)は、食の欧米化を意識した洋風テイストのひと品です。ネーミングにも遊び心があり、中国語で「お腹いっぱい!」意味する「好飽(ハオバオ)」と同じ発音。むっちりと大ぶりの牡蠣を5つも使っており、まさしくボリューム満点の満腹メニューです。


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蠔飽は、仕上げに花椒や辣椒をブレンドした特製ピーナッツソースや甘めの台湾マヨネーズがかけてある。
コクのあるソースは、サクサク&濃厚な味わいの牡蠣にピッタリ!


 


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台湾では珍しい「蚵仔褒(飯)牡蠣の炊き込みごはん」。ごはんを覆うほどの牡蠣も、
底にできたおこげも美味。
2人前〜(1人前100元、写真は5人前で木桶入りの「鮮蚵木桶飯」)


 


 

ところで、せっかくならシンプルに牡蠣のおいしさを楽しめる生牡蠣も食べたいという人も多いのでは? 実は、台湾では牡蠣は基本的に加熱調理をして食べるのです。でも、安心してください、選りすぐりの牡蠣だけを扱うこの店にはちゃんと生牡蠣もありますよ! ただし、たっぷりの薬味と味わうのが台湾流。シャキッとしたタマネギのスライスや刻みネギ、おろしたショウガやニンニクのほか、トウガラシまで添えてあり、好みでワサビをプラスする人もいるそうです。個性の強い薬味が勢揃いといったところですが、牡蠣のエキスがこれを上手にコート。ふくよかに育った大粒の身も口中を満たすミルキーな味わいも申し分なく、牡蠣の醍醐味が凝縮しています。同じくシンプルに塩味を付けただけの焼き牡蠣とともに、ぜひ味わってほしいメニューです。

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「鮮味生蚵(生牡蠣)」(120元)のほか、「鹽烤蚵(牡蠣の塩焼き)」(130元)も必食のひと品。
焼き牡蠣には砂糖や酒、カツオだしなどを加えた醤油ベースのタレをかけても


 


●東石観光の拠点・嘉義のご当地グルメ「鶏肉飯」もおすすめ


東石観光の拠点となるのは、東へ40km足らずの場所にある嘉義という町。嘉義県の中心都市であり、台湾新幹線の駅や阿里山森林鉄道の始発駅が置かれているほか、2015年の年末には台北観光の目玉「國立故宮博物院」という博物館の分院「南部院区」もプレオープンしています。今後、ますます注目度がアップすること必至の町ですが、ここで有名なのが「鶏肉飯(ジーロウファン)」という丼飯。東石の牡蠣と同様、この地方の代表グルメとなっています。

 


嘉義名物「鶏肉飯」の元祖


<噴水鶏肉飯 ペンシュイジーロウファン>


 



鶏肉飯は、茹で鶏に醤油ダレをかけた丼飯。嘉義では鶏肉といっても火鶏(=七面鳥)の肉を使っているため、「火鶏肉飯(フオジーロウファン)」と呼ぶこともあります。このメニューを考案したのは、開業70年あまりとなる「噴水鶏肉飯」。もともとは魯肉飯(ルーロウファン)という豚肉のそぼろ丼を提供していたものの、太平洋戦争中に豚肉の入手が困難になり、配給された七面鳥のスライス肉で代用したのがはじまりだそう。当時、高価だった鶏肉に比べ、七面鳥は庶民でも手が届く価格だったことから、たちまち市民の間で広まったといいます。


 


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庶民的な店構えの本店(写真左)のほか、市内に全6店舗を展開。
嘉義駅から3kmほどの場所にある忠孝店は200以上の席がある大型店(写真右)


 


 



戦後間もなく、町の中心にある噴水のそばに専門店を構えた噴水鶏肉飯。あまりの評判の高さから近隣には鶏肉飯の店が続々と増え、鶏肉飯は嘉義の名物になっていったそう。そんななか同店では開業時から変わらず、幅2cmほどの厚切り肉をのせた「鶏片飯(ジーピエンファン)」(55元)を提供しています。


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七面鳥の濃厚な旨みを楽しめる鶏片飯。鶏肉を細かく裂いた「鶏絲飯(ヂースーファン)」(45元)もあり、
こちらは味わい深いモモ肉しっとりと柔らかな胸肉を混ぜて使用


 


 


一方、他店では肉を細かく手でほぐしたタイプが主流。でも、七面鳥の肉は鶏肉に比べて身が引き締まり、噛むほどに味わいが増す肉質のため、鶏片飯の方が七面鳥ならではの滋味をしっかりと堪能できるのです。しかも、この店では鶏肉飯にして最もおいしいといわれるモモ肉のみを使っているため、旨みがたっぷり。また、仕上げにかける鶏ガラベースの醤油ダレは店主が「うちでしか出せない味」と豪語する秘伝の味です。あっさりした風味ながら、タレともに一昼夜かけて煮込んだタマネギがほんのりした甘さを醸し、肉の味わいを引き立ててくれます。


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忠孝店では、鶏片飯を含む料理10品にフルーツが付いたコース(2500元〜、8名分程度)も用意。
煮込み豆腐や紅麹漬けの豚肉炒めなど台湾のお袋の味が盛りだくさん


 


 


今回は東石を中心に紹介しましたが、ひと言に牡蠣料理と言っても国が違えば味わい方もそれぞれですね。とりわけ、今回紹介した店では、同じ台湾のなかでも味わえないような独特のメニューにも出合うことができます。また、東石は、今年注目の國立故宮博物院の分院がプレオープンした嘉義の近くというのもポイントです。ぜひ、嘉義の観光や名物の鶏肉飯とともに味わってみてくださいね。


 


次回は、再び台南へ。マンゴーの里を紹介します。


 



Information


<台北から嘉義&東石漁港へのアクセス>


嘉義:高鉄「台北」駅から台湾高速鉄道(台湾新幹線)で約1時間2545分、高鉄「嘉義」駅へ


東石漁港:台鉄嘉義駅前にあるバス停「嘉義市先期交通轉運中心」から嘉義客運「台灣好行」7702鹽郷濱海線で高鉄嘉義駅を経由し約5060分、バス停「東石漁人碼頭」下車すぐ。123


 


<阿水船長>



 


<修
氏蚵捲


嘉義県東石郷東石村4-5


05373-2852


 


<噴水鶏肉飯>


本店:嘉義市中山路325


052222433


忠孝店:嘉義市忠孝路499


052719200


 


(取材・文/田喜知 久美、取材協力/GOURMET TAIWAN台湾美食、経済部商業司、財団法人中衛発展中心

 

 

 

 


 


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