マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

世界遺産への旅Vol.13 ハバナの旧市街と要塞群(キューバ)

昨年、アメリカとの劇的な国交回復で一躍注目を浴びたキューバ。

植民地時代の面影を残すスペイン・バロック建築の街並みに、クラッシックカーが走り抜けるキューバらしい景観がいつ失われてしまうのかとの思いからか、今、世界中からツーリストが押し寄せているようです。

かくいう私も昨年末、プライベートで訪ねてきましたので、今回はキューバの首都にある世界遺産「ハバナの旧市街と要塞群」をご紹介したいと思います。 

20160404cuba01.JPGハバナの旧市街にある「ガルシア・ロルカ劇場」の前の道路を多くのクラシックカーが走る。
劇場は1836年に建てられたスペイン・バロック様式

 

キューバの歴史を簡単に紐解きながら、街の様子をご紹介します。

1492年、スペインを出航したコロンブスがキューバに到達し、"発見"されました。黄金の国ジパングを求めて旅立ったコロンブス一行は当初、ここを中国だと思ったそうです。
1511年、王の命を受けたディエゴ・デ・ベラスケスによってキューバは征服されます。

1519年になると現在のハバナの地にスペイン人の入植者たちの居住区が築かれました。

キューバは砂糖やタバコ、またそれらを栽培するための奴隷貿易の中心として栄え、大きな富を生み出しました。ハバナは新世界貿易の拠点として繁栄を極め、街には聖堂や商人の邸宅、広場などが建設されます。バロック様式にイスラムの要素を取り入れたスペイン・バロック様式が特徴となっており、今も多くの建物が残っています。

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観光客に賑わう旧市街の「サン・フランシスコ広場」。広場に面して建つ
「サン・フランシスコ・デ・アシス修道院」も18世紀建造のバロック様式の建物

 

また、砂糖やタバコを積んだ船が行き交うカリブ海には海賊が横行していました。もともとこれらの海賊は、新世界の利権を獲得したスペインやポルトガルに対抗するため、イギリスやフランスなどが認めた私掠船でした。

海賊に備え、積み出し港であるハバナには多くの要塞が築かれました。16世紀後半に建造された最古のフエルサ要塞や、高さ20mもの城壁を備えるモロ要塞など堅牢な要塞を築くことで、ハバナを海賊の襲撃から守ったのです。こうしてキューバは、1819世紀にかけてカリブ海における貿易都市として最盛期を迎えました。

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ハバナで最も古い「フエルサ要塞」。要塞の周りには
堀が巡らされており、内部には橋を渡っていく

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ハバナ旧市街から海底トンネルを通った対岸にある「カバーニャ要塞」。
ハバナ湾越しに旧市街を眺めることができる

19世紀半ばになるとスペインからの独立の気運が高まります。1868年、第1次独立戦争が勃発。1895年からはホセ・マルティを中心に第2次独立戦争が起こると、アメリカの介入を招き、米西戦争へと発展します。アメリカの勝利により、1902年、キューバは共和国として独立を果たしますが、アメリカの影響下に置かれることになります。

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大きなドームがひときわ目を引くのは、1929年に建てられた旧国会議事堂(カピトリオ)。
アメリカのホワイトハウスをモデルに建てられたもので、現在は改装中

アメリカに富を搾取され、キューバ国民の不満が高まった1953年、カストロらが親米政権の打倒を企てて蜂起しました。しかし、これは失敗に終わります。メキシコに亡命したカストロはここでチェ・ゲバラと合流し、ゲリラ戦を展開。1959年、革命軍が勝利し、カストロによる革命政権が樹立されました。今日まで社会主義国として独自の道を歩んできました。

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革命前までは大統領官邸として使用されていた建物を活用している「革命博物館」。
館内に資料や写真、武器などを展示し、革命について紹介している

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 カストロやゲバラを模した人形で、ゲリラ戦の様子を再現

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建物の裏には革命の時に使われた戦車や戦闘機、車などを展示。ゲバラやカストロを乗せ、
亡命先のメキシコからキューバに密航した時のヨット「グランマ号」もガラス越しに見学できる

 

革命家ゲバラの人気は今も衰えることがなく、街中のお土産物屋さんではたくさんのチェ・ゲバラグッズが溢れていました。

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新市街にある「革命広場」では、内務省の壁に描かれた
ゲバラの肖像が見られ、夜にはライトアップも

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革命広場のゲバラの隣には、情報通信省の壁を使ったカミーロ・シエンフエゴスの肖像(左)も。
彼はカストロやゲバラとともに戦った人物。また、革命広場を見下ろすように建つのは
「ホセ・マルティ記念博物館」(右)。ホセ・マルティはスペインとの独立戦争を指導したキューバの英雄

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カバーニャ要塞の南には「第1ゲバラ邸宅」がある。
ゲバラの写真や遺品が展示され、寝室が公開されている

今後、アメリカとの国交回復を経て、経済活動がどのように進んでいくのかわかりませんが、少しずつ動き始めたのは事実です。古き良きキューバの面影を見ておくには早めに訪ねた方がよさそうです。

そして最後に市内を駆け巡るクラシックカーの数々。これらも経済の自由化が進むと次第に姿を消してしまうかもしれませんね。
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 クラシックカー・コレクション♪ いろとりどりの車が街に溢れている

 

 

 

■キューバ・1982年登録・文化遺産
■ハバナの旧市街と要塞群
Old Havana and its Fortifications


(文・山本 厚子)



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