森と湖の国・フィンランドが生んだ建築家エリエル・サーリネンを紹介する展覧会を開催中(東京都・汐留)

「誰の模倣もしてはならない。自分自身のものでさえも」

フィンランドのモダニズムの原点を築いた建築家エリエル・サーリネン(1873~1950)が、建築家になった息子エーロ・サーリネン(1910~1961)に伝えた言葉です。

現在、東京・汐留のパナソニック汐留美術館にて、「サーリネンとフィンランドの美しい建築展」が9月20日まで開催中です。フィンランドといえば、ムーミンやマリメッコ、イッタラなど、洗練されたデザインで知られる国。今回の企画展は、後に国際的な建築家となったエリエル・サーリネンにスポットを当てた内容となっています。

サーリネンはヘルシンキ工科大学在学中に出会ったゲセリウスとリンドグレンと共同で建築設計事務所ゲセリウス・リンドグレン・サーリネン(GLS)を設立。そして1900年に大々的に開催されたパリ万国博覧会でフィンランド館の設計を担ったことで一躍注目されました。

1900年のパリ万博は、1809年から1917年までロシアの支配下にあった独立前のフィンランドにとって、とても重要なものでした。大規模なロシア館から独立してパヴィリオンを建てることはできましたが、さまざまな点でロシアの制約下にありました。しかし、GLSは個性を発揮しフィンランドの文化的ルーツを表現したモダンデザインを提示。パリ万博で多くの賞を獲得し、自国の人々を鼓舞するとともに、国内外に彼らの名を知らしめました。
展覧会会場では、フィンランド館の模型や設計案、「イーリスの間」に展示されたアクセリ・ガレン=カレラによる《イーリスチェア》などが展示されています。

会場風景より。アクセリ・ガレン=カレラ《イーリスチェア》1899

パリ万博以降は、奇妙な顔をした人面やクマ、妖精などさまざまな彫刻が施された「ポホヨラ保険会社ビルディング」や、高い塔が特徴の「フィンランド国立博物館」などを手がけます。

展示会場でひときわ目を引くのが、サーリネンによる美しいデザイン画の数々です。「エオル集合住宅・商業ビルディング」「スール=メリヨキ荘」のほか、GLSの共同生活の拠点であった「ヴィトレスク」など、彩色が施された立面図や断面図習作はその優美さに時間を忘れて見入ってしまいます。

会場風景より。エリエル・サーリネンスール=メリヨキ荘》ドローイング

1917年のフィンランド独立後、近代化が押し寄せていた国内では、教会や公共建築、地域計画にコンペティションが導入されていました。この頃すでに個人で活躍していたサーリネンはこれらのコンペティションで勝利をおさめ、大規模な公共プロジェクトに携わるようになっていきます。
例えば、竣工100年以上の今もその面影を残すヘルシンキ中央駅もそのひとつです。U字型の駅舎、天井や装飾、照明、駅のレストランのイスやテーブルにまで、サーリネンの美意識がいきわたっています。会場では、現在の中央駅の映像も見られます。また、彼は1909年版と1922年版発行の紙幣のデザインも手がけました。こんなにもマルチな活躍をしていたんだ!とびっくりです。

エリエル・サーリネン。奥は《レストランのアームチェア》1908~1909年、
手前は《ハートモチーフの椅子》1908年 
いずれもヘルシンキ中央駅で使われていたもの

フィンランド独立後の政情不安により、サーリネンは1923年に渡米。実現はしませんでしたが、「シカゴ・トリビューン本社ビル」の国際コンペティションにも応募。さらにはミシガン州デトロイト郊外に建てられた約120ヘクタールの広大な敷地を有する教育施設「クランブルック・エデュケーショナル・コミュニティ」にチーフ・アーキテクトとして招かれ、敷地全体のマスタープランを策定しました。1932年に初代校長に就任したサーリネンは、その豊富な人脈を生かし、フィンランドのデザイナーであるアルヴァ・アアルト(1898〜1976)や、世界遺産に登録されている上野の国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエ(1887~1965)などを講師として招きました。1950年代には、国内外で活躍する建築家・槇文彦もここで学んだそうです。

会場風景より。エリエル・サーリネン《サーリネン邸の寝室の椅子》1902~1903年頃。
《サーリネン邸のナイトテーブル》1903年

冒頭の「誰の模倣もしてはならない。自分自身のものでさえも」の言葉通り、常に新しいデザインを生み出し続けたサーリネン。自国への深い愛情を持ちながら、建築家としてだけでなく、都市計画家、家具デザイナー、プロダクトデザイナー、そして画家でもあったサーリネンの足跡を丁寧に見られます。

最後に、展覧会オリジナルグッズやフィンランドデザインに関する書籍が並ぶミュージアムショップもじっくりチェックしましょう。特におすすめは今回の展覧会の図録。ノド(中央の綴じ目)いっぱいに開けるようになっているので、サーリネンによる美しいデザイン案や写真を思う存分見られます。また、ロビーで上映されている映像も必見。サーリネン設計の建築や建物を色鮮やかな4K映像で見られますよ。

左上左下:中はもちろんカバーも背表紙も美しい図録
右上右下:ミュージアムショップにて

サーリネンとフィンランドの美しい建築展
会期:開催中~9月20日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00(8月6日、9月3日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:水曜日、8月10~13日 
観覧料:一般 800円/65歳以上 700円/大学生 600円/中高生 400円/小学生以下無料(日時指定予約を推奨)
https://panasonic.co.jp/ls/museum/

10月9日(土)~12月19日(日)まで開催予定の「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」も楽しみです!
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/211009/

※すべての写真はプレス内覧会にて撮影
取材・文:塩見有紀子

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