3月の初め、札幌を訪れた際に、大好きな北海道大学のキャンパスを散歩しようと出かけました。キャンパス内はどんな季節も異なった表情で美しく、散歩コースには最適。今回は雪まつり後で人も少なく、静かな雰囲気を楽しむことができました。
快晴の空、そしてまだ残る真っ白な雪景色が広がり、寒さも忘れて歩き続けると、緑の屋根に白い木壁の古い建物。以前もこの前を通ったことがありましたが、今回は軒先の看板の「テイスティング」の文字に目が留まり、思わず足を止めました。そして、吸い込まれるようにその扉を開けました。
その建物は、1901年に建てられた北大最古の木造建築で、かつては旧札幌農学校の昆虫学及び養蚕学教室として使用されていました。2000年には国の有形文化財に登録され、現在は北海道大学ワイン教育研究センターとして活用されています。柔らかな光が差し込む空間は心地よく、外壁にあしらわれた美しいモチーフや天井の意匠が、歴史を物語るような趣を醸し出しています。さらに、隣接するワイン貯蔵庫は、元々昆虫の標本を保管するスペースだったというのですから、驚きました。
美しい天井やモチーフ、右下は貯蔵庫
そんな歴史的な建物の一角にある「北大ワインテイスティング・ラボ」では、2024年9月から一般向けに有料試飲を開始しました。ここでは、常時12種類の北海道産ワインを楽しむことができます。3か月ごとにラインナップが入れ替わり、北海道独自の品種や、北大が醸造に関わったワインも登場します。
試飲のシステムはシンプルで、1,500円で3種のワインが試飲できます。キャッシュレス決済で3枚のコインを受け取り、ショーケースの中から選んだワインのボトルの前の蛇口にグラスをセット、ボタンを押せばワインが注がれるという仕組みです。
3枚のコインで12種類の中から気になるワインをセレクト
室内には北海道のワイナリー地図が掲げられており、スタッフの方がワインの説明をしてくださいました。北海道には71か所のワイナリーがあり(2025年3月時点)、特に最近は余市周辺にワイナリーが集中しているそうです。温暖化の影響で北海道でのワイン造りがより適した環境になってきているのだとか。それに加えて、最近は農家や醸造家の方々も互いに切磋琢磨し、ワインの品質が着実に向上しているそうです。
北海道にもワイナリーが続々と誕生している
興味深い話も伺いました。北海道では、冬の厳しい寒さからブドウを守るために、あえて木を斜めに植え、積もった雪の下で越冬させるのだそうです。近年は、寒冷地に適した品種も開発されており、十勝地方で開発された山葡萄由来の「山幸(やまさち)」や「清舞(きよまい)」は北海道独自のワイン用葡萄の品種です。
ソムリエの資格を持つスタッフの方に色々と質問してみよう
「山幸」は山葡萄特有の力強い味わいが特徴。一方、「清舞」は比較的穏やかな味わいですが、温暖化の影響か近年は力強さが増してきているそうです。
今回試飲したワインの中で印象深かったのは、「ツヴァイゲルトレーベ」と先出の「山幸」の赤ワイン。ツヴァイゲルトレーベは滑らかで穏やかな味わいが特徴で、まろやかで飲みやすく、一方、山幸は渋みがしっかりと感じられ、野生的な特徴が感じられる力強い味わいでした。
ワインを味わいながら、北海道ワインの可能性の広がりに胸が躍ります。ほろ酔い気分で建物を後にしながら、この土地ならではのワイン文化がさらに発展していくことを期待せずにはいられません。
北海道大学ワイン教育研究センター
北大ワインテイスティング・ラボ
〒060-0809
北海道札幌市北区北9条西8丁目3 旧昆虫学及養蚕教室
https://winecluster.org/archives/11593/
写真・文/yOU(河﨑夕子)