ホテルでの存在がどのくらい環境に負荷をかけるのか?
ゲストとしてホテルを利用する限り、自分の滞在が環境にどれほどの負荷をかけているかなんて、まず考えないですよね。しかし、世界遺産に登録された稀有な大自然の中にある、インフラに乏しい離島のホテルにとっては重要な課題です。ゲストには快適に過ごしていただきつつも、どうしたら環境負荷を減らせるか。それが「日本初のエコツーリズムリゾート」を目指す「西表島ホテル by 星野リゾート」の、エコロジカルなホテル運営の目的です。具体的にどんな取り組みを行なっているのかご紹介しましょう。
プラスチックゴミ削減への取り組み
環境にかける負荷のうち、とりわけ大きな問題がゴミです。ホテル運営では、レストランから出る生ゴミや割れ物などの陶器ゴミ、そしてペットボトルやアメニティ、歯ブラシ等のプラスチックゴミなど、一般家庭の比にならないレベルで日夜ゴミが生まれます。特に焼却できないゴミの最終処分場は八重山全体で石垣島にひとつしかないという現状では、ホテルとしてゴミの総量を低減することは重要な課題です。
チェックイン時にボトルをレンタルでき、ゲストラウンジでいつでも給水できます
そこで、2021年の世界自然遺産登録を契機に、それまで緩やかに進めてきたプラスチックゴミ対策について、大きな舵を切ります。客室でのペットボトルウォーターサービスの廃止に加え、ショップや自動販売機でのペットボトル飲料の販売を取りやめ、さらに客室のアメニティの設置も完全に廃止。プラスチック製品の提供を極限まで減らしたのです。とはいえそれではゲストに不便が生じます。代わりに館内ゲストラウンジにウォーターサーバー(利用無料)を設置し、ゲストにはマイボトル持参を推奨、お持ちでない方にはレンタルボトルサービスを開始しました。
ゲストラウンジにはウォータサーバー以外にもコーヒ、紅茶、さんぴん茶などを用意。24時間無料で利用可能
実際に始めた時のゲストの反応はどうだったのでしょうか?
総支配人の細川さんにお聞きすると、最初は戸惑いやご懸念の意見をかなりいただいたとのこと。リピーターであれば、大好きなホテルでの滞在が今までとは違うものになってしまうのかしら、というご不安は尚更でしょう。
お話を伺った細川総支配人。2021年の世界遺産登録直前に総支配人に任命。
「やり甲斐しかなかったですね」と当時を振り返ってくださいました
しかし、実際にレンタルボトルを使っていただくと、「こっちの方が楽」「新しい感覚で良かった」「自宅でも使いたい」などの声が多く、次第に浸透。今ではマイナスのコメントはほぼ無くなったといいます。アメニティに関しても、6割くらいのゲストが持参してくださっているとのこと。半数を超える方が前向きな気持ちで旅を楽しみながら、プラスチックゴミ削減に参画しているのはとても素晴らしいことです。
洗剤がいらないスマートランドリーの導入
「西表島ホテル by 星野リゾート」では、2021年より宿泊を2連泊からの受付に切り替えました。となると必然的に1ゲストあたりの水の使用量が増え、排水が増えることになります。特に、海・川・山でのネイチャーアクティビティが盛んな西表島では、1泊につき平均1回はランドリーを使用するため、ランドリー排水の対策も必須です。離島では下水設備のインフラが整っておらず、生活排水はホテル独自の浄化槽を通して、海に放流して問題のないレベルまで浄化しています。しかし浄化槽の状態確認やメンテナンスは各施設に委ねられていることから、できる限り負荷を減らすことが望まれます。
ということで2022年2月からホテル業界で初めて、洗剤を使わずにアルカリイオン電解水のみで洗い上げる、洗剤レスのスマートランドリーを導入しました。合成界面活性剤や香料が残らず、アレルゲンフリーな上に排水もクリーンな、環境にも人にも優しいランドリーです。しかも、スマートフォンでのキャッシュレス決済や空き状況の確認、メールアドレスを登録すれば洗濯・乾燥の完了メールも届く便利さ!
旅先での洗濯ってどうしても煩わしさが伴いますし、いつもと違う洗剤を使うことで香りや風合いの違いに違和感を感じることもありますが、スマートランドリーならそんな心理的負荷も減らしてくれます。ゲストにも環境にもWinWinなスマートさが嬉しいですよね。
環境に優しいオールインワンソープの採用
プラスチックゴミ削減のところで客室アメニティの廃止について触れましたが、歯ブラシやクシ、髭剃りなどの1WAY(使い捨て)アメニティだけでなく、ボディソープ、シャンプー、トリートメントといったインバスアメニティの廃止にも踏み切りました。微生物分解によって浄化槽処理を行う仕組みを考慮し、分解されやすく毒性の低い洗浄成分のアメニティ1種に絞ることで、負荷を大幅に軽減することができると考えたからです。そこで、敏感肌コスメブランドの「OSAJI(オサジ)」と共同プロジェクトを発足し、排水負荷が少なく肌に優しいオールインワンソープを開発しました。
「OSAJI」のオールインワンソープとコスメのシリーズ。いずれもオーガニックにこだわった製品です
正直なところ、顔も体も髪もオールインワンってどうなんだろう、と半信半疑だった私。普段から髪のきしみが気になっているので、洗い上がりが気になっていたのですが…。実際に使ってみると、泡立ちもよく洗い上がりの指通りも滑らか。香りもとても良くて、リラックス効果もありました。顔もつっぱり感がなくしっとりとして、オールOK。しかもクレンジング・ローション・ジェルもあり、シリーズで使えてリゾートホテルとしての上質感も味わえました。
「以前はローションなどのコスメ類は置いていなかったんです。しかし、2泊以上からの連泊を基本とした分、ゲストの旅行準備は増えることになります。少しでもお荷物が減るように、コスメをご用意することにしました。ペットボトルやバスアメニティの削減というホテルの取り組みにご理解いただいているゲストの皆様に、快適性、利便性という形で還元できたらと考えています」(細川総支配人)
苦言をいただいた時は丁寧にご説明し、ホテルの取り組みにご理解いただくよう努めています、
と話す細川総支配人。頼もしいです
確かにある程度の宿泊数の旅行準備となると、歯ブラシなどのアメニティを持参することよりも、トラベルキットを事前に購入したり、化粧水などを小瓶に詰め替えたりする方が煩わしかったりします。そうして準備したものが島の環境に負荷をかけるのだとしたら、エコロジカルな取り組みに協力した方が、西表島らしい滞在を楽しめそうです。
「オールインワンソープは使い慣れない」というお声をいただくこともあるそうですが、そうしたゲストの気持に配慮しつつも、西表島という離島ならではの特性への理解と負荷低減の意識を持っていただくためにはどうすれば良いのか、これからも「西表島ホテル by 星野リゾート」の挑戦は続きます。
***
私が西表島を訪れるのは今回が3回目でした。リゾートホテル時代の2016年、緩やかにエコに取り組んでいた2021年、そしてエコツーリズムリゾートを目指して進む2025年と、時節に合わせて変化し続けるホテルは、常に柔軟でワクワクに満ちています。
さまざまな課題は、アクティビティや施策を通してゲストにも共有され、我々は島の自然環境を保護するだけでなく、自然環境に対して考えるきっかけを得ることができます。SDGsという言葉が一般的になったからこそ、なんとなく知っている気になっていたエコについて、その取り組みにちょっとずつ加担することで意識の中に浸透していくことを実感できる滞在が、「西表島ホテル by 星野リゾート」の醍醐味かもしれません。次はどんな学びをみせてくれるか、これからも目が離せません。
「西表島ホテル by 星野リゾート」 https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/iriomote/
→こちらの記事もご覧ください
第128回 黒糖好きなら冬に行くのが正解!「西表島ホテル by 星野リゾート」で黒糖の魅力をたっぷり味わう滞在を(沖縄県・西表島)
取材・文/多田みのり









