愛が憎しみに変わった伝説をもとにした釣鐘が、バルーンになって木挽町広場に登場(東京都・東銀座)

安珍と清姫の悲しく恐ろしい恋物語をご存じですか?

平安時代、和歌山の熊野本宮大社を目指していた若い修行僧・安珍が一夜の宿を借ります。安珍にひとめ惚れしたこの家の娘・清姫が、熱い思いを安珍へ伝えます。困った安珍は熊野詣での帰りに寄ると言い残して出立します。ですが、いくら待てども戻らぬ安珍。裏切られたと知った清姫は山を越え、風のごとく安珍を追いかけ、日高川へたどり着きます。そしてここでさらにつれない態度を取った安珍に清姫は怒りを募らせ、大蛇に姿を変えます。そして、清姫は和歌山県の道成寺(どうじょうじ)の釣鐘の中に隠れた安珍を鐘ごと焼き殺し、自身も命を絶つという、叶わぬ恋を恨んだ哀れな話です。

これ以来、大宝元年(701)創建の道成寺は釣鐘の無い寺となったそうです。

私が女性なこともあって、清姫に理由を語ることもなく約束を破った安珍ひどい!とつい清姫に同情してしまう面もあるのですが・・。かといって、一方的に恋慕したあげくに焼き殺すのはどうかと思います(苦笑)。

この悲劇的な伝説は、能楽(つい最近、後日談が長瀬智也さん主演の連続ドラマでも題材になっていましたね)、文楽<人形浄瑠璃>、歌舞伎、文学、日本画などあらゆる芸術のテーマになり、「道成寺もの」として知られるようになりました。

現在、銀座の歌舞伎座地下2階の木挽町広場において、鐘供養の一環として「釣鐘バルーン」が設置されています(2021年6月6日まで。10:00~18:00)。バルーンのサイズは高さ約3m×直径1.8mで、「鐘供養」「万寿丸」と書き入れられています。

写真提供:公益社団法人和歌山県観光連盟

そして、バルーンの下には道成寺と和歌山県の魅力を紹介した特設コーナーもあります。重要文化財指定の絵巻『道成寺縁起』(室町時代)のコピーも見られますので、安珍と清姫の物語の一部をぜひご覧くださいね。

ちなみに、「万寿丸」という人物は、長く失われていた釣鐘を再鋳して鐘供養を盛大に行った地元の豪族・逸見万寿丸源清重(へんみまんじゅまるみなもとのきよしげ)のことです。令和3年の今年6月25日に生誕700年を迎えます。

道成寺での鐘供養を描いた初代・鳥居清満。メトロポリタン美術館蔵

来年1月になりますが、安珍と清姫の物語をシネマ歌舞伎で見られます。シネマ歌舞伎とは、歌舞伎の舞台を収録して映画館の大スクリーンで上映するもの。道成寺での鐘供養を題材にした『京鹿子娘五人道成寺』が2本立てで上映予定です。人間国宝である女形最高峰の坂東玉三郎をはじめ、中村七之助や中村児太郎のほか、5人の俳優の美しさに酔いしれる作品ですので、ぜひご覧くださいね。

そして、いずれ和歌山の道成寺も訪れてみてください。絵巻の「絵とき説法」を聞くことができます(団体は要予約)。

天音山 道成寺 http://www.dojoji.com/

シネマ歌舞伎 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/tsukiichi/

文/塩見有紀子

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