あなたも「近代化遺産」萌え! by 関屋淳子

第42回 ウイスキーが、お好きでしょ? ジャパニーズ・ウイスキー101年目の奇跡 (北海道・宮城・京都)

ニッカウヰスキー余市蒸溜所

スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、そして日本。世界5大ウイスキーと言われる産地です。本場スコットランドでは15世紀には王族に愛飲されていたウイスキー。日本では大正12年(1923)、サントリー創業者の鳥井信治郎が、京都府大山崎の天王山山麓に山崎蒸溜所の建設に着手し、本格モルトウイスキー造りを目指したことから、ウイスキーの歴史が始まりました。つまり今年で101年目。

山崎蒸溜所の初代所長は、のちにニッカウヰスキーを興した竹鶴政孝です。単身スコットランドに渡り、ウイスキー製造の技術を学びました。NHK連続テレビ小説「マッサン」のモデルとして知られる方です。

ジャパニーズ・ウイスキーは今や世界中で引っ張りだこ。たった100年で世界を魅了するウイスキーを造るとは、日本人の真面目で繊細な仕事と優れた味覚には本当に唸らされます。そして今やクラフトウイスキーが花盛り。ウイスキー蒸溜所は国内で90ヶ所を超えると言います。

サントリー山崎蒸溜所のポットスチル

ウイスキーは原料の大麦をモルトにし、糖化させて麦汁を作ります。これを発酵させ、蒸溜へ。ポットスチルというモルトウイスキー造りの単式蒸溜機を見たことがある方もいるのではないでしょうか。蒸溜したてのスピリッツ(ニューポット)はまだ透明なままです。これを樽の中でじっくり寝かせる熟成を経て、琥珀色に変化していくのです。

竹鶴政孝は、スコットランドで学んだウイスキーの製造について竹鶴ノートと呼ばれる2冊のノートに克明に書き記しました。これがジャパニーズ・ウイスキーの礎になったのです。竹鶴ノートそのものが大いなる近代化産業遺産と言えるのです。

サントリーの山崎蒸溜所がある大山崎は、桂川・宇治川・木津川の水温の異なる三川が合流するため、霧が発生しほどよい湿度が生まれます。さらにその清流は千利休が茶室『待庵』で茶を点てたほどの良質な水という、ウイスキー造りに最適な条件がそろっています。

サントリー山崎蒸溜所では湿潤な環境でウイスキーが造られる

また竹鶴政孝が昭和9年(1934)に造った北海道・余市の蒸溜所は、余市川と美しい山々に囲まれています。スコットランドに似ている気候と、青々と茂る緑のなかにヨーロッパの城郭のような正門やシンボルであるキルン塔、石造りの旧事務所などがあり、一部は重要文化財になっています。竹鶴はその後、宮城県に宮城峡蒸溜所を開設、建物は周りの自然を損なわないように煉瓦風に統一されています。

ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所のポットスチル

チャ―リングという樽の内部を焼き付ける作業(通常非公開・ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所)

先人の情熱とその技術を伝え重ねた100年、ジャパニーズ・ウイスキーの奇跡はこれからも続いていくことでしょう。

 

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