トコトコ東北 by 川崎久子

列車で行く Vol.29 岩手・新花巻駅からレンタカー 陸前高田の震災を後世に伝える施設を訪ねて

過去の出来事を呼び起こすときに、「それは震災前だった」であるとか、「それは震災後」などと、東日本大震災が起こった年を基準に考えてしまいます。あれから8年以上のときが流れました。被災地の復興が進められるなか、震災を後世に伝える施設も建ち始めています。
私は、福島県浜通り出身。震災直後、福島の沿岸地域に足を運んだとき、見知った場所のあまりの変わりように言葉を失ったことを覚えています。学生時代、毎日使った駅は痕跡しかなく、プラットホームだった場所から海が近くに見えます。こんなに海が近かったかなと、記憶を手繰り寄せました。
震災以降、事あるごとに東北へ足を運んでいますが、津波により甚大な被害にあった場所へ行くことにはためらいがありました。そんな私の元に、2019年9月22日に陸前高田に東日本大震災津波伝承館ができたという情報が。ちょうど岩手方面へ行く予定があったので、この機会に沿岸地域へ足を運んでみることにしました。

 

陸前高田・東日本大震災津波伝承館
そして、奇跡の一本松

それは、ニューヨークのグラウンドゼロを訪れたときと同じ衝撃でした。以前の風景は分からない。けれど、そこに立っていただろう建物や人の生活を想像させる痕跡が残った空間。
陸前高田ICから沿岸へ向かうと、新しい商店も立っていましたが、海に近づくほどに平らな土地が目立ちます。看板を追って辿り着いた東日本大震災津波伝承館は、海に並行して細長く延びる四角いシンプルな建物。「いわてTSUNAMIメモリアル」の愛称がついています。
9月にオープンしたばかりの真新しい館内は、「歴史をひもとく」「事実を知る」「教訓を学ぶ」「復興を共に進める」の4つのゾーンに分かれており、パネルに加え、映像を用いた展示物を各所に配置。定時ではじまるガイダンスシアターでは発災当時の映像が流れ、被災した消防車両や橋の一部などがメインホールに並んでいます。発災当時やその後の暮らしなど個人の証言を冊子にまとめたコーナーは、自由に閲覧できるようになっていました。


3月11日当時の東北地方整備局災害対策室を移設・再現したコーナーでは、国や自治体がどう動いていたのか、関係者の証言映像も交えて紹介されていました。内陸と沿岸地域を結ぶ道路のどれを優先して通行できるようするか、東日本の地図上で優先される道路は赤いラインで示され、まるで櫛のようになっています。どうしても個々人に起こったことに目が行きがちですが、人々の暮らしを成り立たせるために必要なインフラをどう守り、復旧させるか。その困難と重要性についても改めて考えさせられました。
「命を守り、海と大地とともに生きる」
すべての展示を総括するこのことば。海や大地は人に恵みを与える一方で災害ももたらします。自然とともに生きるためにはどうすればいいのか。伝承館を訪れることで、そのヒントや答えが見つけられるかもしれません。


しとしとと降り続いていた雨が、伝承館をでる頃にはすっかりやみ、雲の間から爽やかな青空が覗いていました。施設からまっすぐ延びる遊歩道を歩き、堤防の上にある展望所へ。

そこからはじめて広田湾を望むことができます。展望所の中央には祭壇が配され、凪いだ海に向かって花が手向けられていました。ここは海の美しさを感じる場所であるとともに、祈りの場所なのだと改めて実感しました。

堤防沿いの道をさらに進み、奇跡の一本松へ。

震災前、ここには高田松原が広がり、夏になると砂浜は多くの海水浴客で賑わったそう。一本松へ向かう道すがら、「小さい頃、泳ぎに来たけど覚える?」と語り合う家族連れや、「ユースホステルに泊まったなぁ」と話すライダーとすれ違いました。

7万本もの松が生い茂っていた林は、ほぼすべてが流され、耐え残った松は一本。その向こうに津波で被災したユースホステルの建物が建っています。この奇跡の一本松も塩害で枯れてしまいましたが、2013年7月に復興のシンボルとして保存整備されました。

奇跡の一本松をあとにする際、「気仙小学校へ2.8km」の看板があることに気づきました。何かがあったときは自分の足が頼み。防災グッズを備蓄することも大切ですが、災害時はそれなりの体力も必要です。避難場所を促す看板から日頃の運動不足を思わずにはいられませんでした。

東日本大震災津波伝承館は高田松原津波復興記念公園内にあり、奇跡の一本松や陸前高田ユースホステルのほか、道の駅高田松原タピック45が震災遺構として残されています。また、釜石方面へと向かう国道45号線沿いに立つ下宿定住促進住宅も震災遺構です。
伝承館には新しい道の駅陸前高田を併設。買い物や食事ができるようになっています。

3月11日について思い出し、気持ちをあらたにするために、訪れてみてはいかがでしょうか。

 

(文・写真 川崎 久子)

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