ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

アール・デコ様式を今に伝える優美な美術館

東京には魅力的な美術館が数多くあります。常設展示が素晴らしかったり、興味深い企画展を開催していたり、自然豊かな場所に位置していたりと、美術館によってさまざまな魅力にあふれています。プライベートでも美術館や博物館を訪れることが多い私が好きな美術館のひとつが、白金にある東京都庭園美術館です。

 

 朝香宮家がかつて暮らした邸宅美術館

目黒駅から歩いて約7分、東京都庭園美術館は1933年(昭和8)、朝香宮邸(朝香宮殿下は久邇宮朝彦親王の第八王子、妃殿下は明治天皇の第八皇女)として建てられた建物です。チケット売場のある正面入口から、ゆるやかにカーブしたアプローチの先に美術館が建ちます。私自身、美術館とそこで開催されている企画展を訪れる期待感にあふれながらこのアプローチをいつも歩いています。現実の世界から、アートの世界へと入っていくストーリー性があるのです。

 20170309-teien01.jpg東京都庭園美術館 本館 正面外観

朝香宮邸は、朝香宮夫妻が1925年に開催されたパリのアール・デコ博覧会を観賞した際に影響を受け、そのエッセンスを凝縮させて、構想から完成まで約8年の歳月を費やした日仏合作のアール・デコ様式の邸宅です。アール・デコは、それまで主流だった優美なアール・ヌーヴォー様式とは異なり、20世紀前半に生まれたモダンな装飾様式、幾何学的でリズミカルなスタイルが特徴です。

20170309-teien02.jpg東京都庭園美術館 本館 大食堂

 東京都庭園美術館 本館 第一階段20170309-teien03.jpg

ルネ・ラリックらによる美しい意匠の数々

20170309-teien04.jpgアール・ヌーヴォーとアール・デコの2つの様式で当時の人々を魅了した宝飾とガラスの工芸家には、ルネ・ラリックがいます。オリエント急行や豪華客船のノルマンディー号などの室内装飾が有名です。
東京都庭園美術館の玄関に一歩足を踏み入れると、優美な
4体の立体的な女性像が私たち訪問者を迎えてくれます。これらのガラスレリーフの扉の美しい女性像もルネ・ラリックによるものです。床に敷き詰められた幾何学紋様の天然石のモザイクもお見逃しなく。


暗くなると、日中とはまた異なる美しさを見せる女性像


館内の展示室は、応接室や客室、大食堂、寝室など、かつての邸宅をほぼそのまま生かした造りになっています。それぞれの部屋はアール・デコ様式の幾何学的でありながらどこかあたたかみを感じる意匠が印象的です。

20170309-teien05.jpg東京都庭園美術館 本館 大客室

20170309-teien07.jpg左)東京都庭園美術館 本館 大客室 シャンデリア《ブカレスト》 ルネ・ラリック作 
右)東京都庭園美術館 本館 第一階段踊り場照明

例えば、南の庭園に面した大客室。植物の葉を機械の歯車のようにギザギザなデザインに仕立てたルネ・ラリックによる《ブカレスト》と名付けられたシャンデリア。また、扉に目を向ければ、マックス・アングラン作の花をモチーフにした幾何学模様の優美でモダンなエッチングガラス扉が目に入ります。
ほかにも、大食堂
のラリックの《パイナップルとザクロ》のシャンデリア、20170309-teien06.jpg波に千鳥の文様や青海波などの日本の伝統的な文様がアール・デコ風にアレンジされたラジエーターカバー、部屋ごとに異なるデザインの照明、白と黒の市松模様の大理石が敷き詰められたベランダなど、多彩な素材を用いて造られた室内空間を鑑賞できます。

アール・デコ様式を随所に取り入れた東京都庭園美術館は、邸宅自体が貴重な最高の芸術品といえます。 

左)東京都庭園美術館 本館 大客室 エッチング・ガラス扉、タンパン
右)東京都庭園美術館 本館 大食堂 シャンデリア《パイナップルとザクロ》 ルネ・ラリック作

 

豊かな色彩と透明な黒「七宝」に魅了される

現在、東京都庭園美術館では、企画展『並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑
-透明な黒の感性』を開催中です(201749日まで)。明治時代、輸出用美術工芸品として人気だった七宝。有線七宝により、繊細で細密な鳳凰や唐草、花鳥風月などの文様を施し、大変活躍した七宝家・並河靖之の初期から晩年の作品を紹介しています。

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左)並河靖之 菊御紋章藤文大花瓶 並河靖之七宝記念館蔵
右)並河靖之 菊唐草文細首小花瓶 並河靖之七宝記念館蔵

また、並河作品以外にも、四谷の赤坂離宮の「花鳥の間」に飾られている七宝レリーフで知られる濤川惣助の花瓶のほか、デザイン見本の下絵、海外の博物館が所蔵する貴重な作品も展示されています。
私も早速プライベートで訪れましたが、七宝は、下賜品や外国への贈り物としても求められ、皇室や宮内省も重要な顧客だったため、菊の御紋の入った七宝も多く展示されているのも興味深かったです。

20170309-teien09.jpg七宝はどうやって作るの?よくわからない・・・という方は、先に新館へ行ってみてもいいかもしれません。新館では、有線七宝の制作工程の映像を見られます。七宝がどれほどの技術が結集した一級の工芸品であるかを把握してから展覧会を鑑賞すれば、より理解が深まるかと思います。
また、先着
50台で単眼鏡を無料で借りられますので(要身分証)、作品の細部までじっくりと鑑賞してみてください。私は美術館訪問の際は「MY単眼鏡」を持参していますが、単眼鏡から覗くとまた違った世界がそこに広がっているのがわかるはずですよ!

 並河靖之 部分 菊紋付蝶松唐草模様花瓶 一対 泉涌寺


ミュージアムカフェで美術館の余韻にひたる

20170309-teien10.jpgそして最後、東京都庭園美術館のお楽しみがティータイムです。新館にある、カフェ・ド・パレはガラス張りの空間で、とっても贅沢にひとりひとつのシフォンケーキを頂けるのです。誰もが一度は憧れたことのあるはずのワンホールのシフォンケーキ!
オリジナルと季節限定品がありますので、ぜひ味わってくださいね。

 

ほうじ茶&キャラメルシフォン(税込850円)

なお、東京都庭園美術館はバリアフリー機能強化工事のため、2017410日〜11月中旬(予定)まで全面休館になります。また、シフォンケーキもリニューアル前までの限定品の予定です。ぜひこの機会に素晴らしい七宝と、アール・デコの優美な邸宅を訪れてみてください。

東京都庭園美術館20170309-teien11.jpg

http://www.teien-art-museum.ne.jp/
『並河靖之七宝展 明治七宝の誘惑
-透明な黒の感性
201749日(日)まで開催中

東京都庭園美術館 本館 正面玄関

文:塩見有紀子

カフェやレストランのある美術館を紹介する『素敵な時間を楽しむ カフェのある美術館』(世界文化社/2017年3月5日発行)が発売中です。

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人気アートブログ「青い日記帳」の管理人Tak(タケ)さん監修の美術館ガイドです。わたし塩見も1/3ほど取材・執筆を担当しました。残念ながらリニューアルされる東京都庭園美術館は掲載されていませんが、カフェ好きの方も美術館好きの方もとても楽しめる一冊だと思います。書店やネット通販で探してみてくださいね!

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