トコトコ東北 by 川崎久子

列車で行く Vol.30 岩手・新花巻駅からレンタカー  GO KAMAISHI! ラグビーW杯でにぎわった釜石の2019年にオープンしたスポットへ

新花巻駅からレンタカーを借り出すとき、スタッフの方が「釜石方面に行くなら、東和ICから乗れば高速無料だよ」と教えてくれました。2019年3月9日に花巻と釜石を結ぶ釜石道が全線開通。東和から釜石JCTまでは68.1kmほどあり、1時間強で行くことができます。これまでは2時間弱かかっていたので、大幅短縮です。釜石道はさらにその先の宮古〜気仙沼間を結ぶ三陸道ともつながっており、内陸から沿岸地域への車でのアクセスが格段便利になりました。


鵜住居復興スタジアムのパノラマ写真

「みなとオアシス釜石」のメインスポット
みなとオアシスとは、国土交通省のHPによると、“地域住民の交流や観光の振興を通じた地域の活性化に資する「みなと」を核としたまちづくりを促進するため、住民参加による地域振興の取り組みが継続的に行われる施設”のことで、国土交通省港湾局長が登録したもの、だそう。東北では青森の八戸港や福島の小名浜港など18の登録があります。
2019年4月13日に釜石港を望む地に誕生した「魚河岸テラス」は、“魚のまち釜石”をPRする商業施設で、9月に釜石港周辺一帯がみなとオアシスに登録された際に、その代表施設になりました。2階建の施設の展望デッキからは、コンテナを船に積み込むための大型クレーンが立つ桟橋など、クールな港湾のパノラマを一望できます。近年、釜石港はコンテナ貨物の取扱量が激増しており、2018年度はなんと前年度の倍の取扱量を記録。運が良ければ大型船が停泊する風景も望めるかもしれません(私が訪れた時は、あいにく船はおりませんでしたが)。

展望デッキはこの建物の2階にあたり、そのまま飲食店があるフロアに入ることができます。食堂・寿司・地中海料理・カフェバーとタイプの異なる4店は、すべて地元からの出店。店舗は港に面しているので、海を眺めつつ食事ができます。海を眺めていたら口が海鮮の気分になったので(笑)、フロアの最奥にある「ヒカリ食堂」にお邪魔しました。
“食堂”と聞くと、つい渋い店構えを想像してしまいますが、ヒカリ食堂はシンプルモダンなインテリアでまとめられ、オシャレな店内。施設の角に位置するお店なので、2面が大きな窓になっており、開放感たっぷり。通常だと店内に向かって配置されがちなカウンター席ですが、この店では窓に面しているので、おひとり様でも気持ち良く食事ができます。暖かい日ならテラス席も気持ちがよさそう!この日は風もなく穏やかな陽気だったので、テラスでビール片手に食事を満喫している人もいました。釜石を中心に、岩手の食材を使用した料理が味わえる食堂ということで、メニューを開くと食材のマップが。米・魚介・野菜・肉、果ては醤油や水に至るまで、どこのモノを使用しているか一目瞭然。お酒も、日本酒、ビール、焼酎を取り揃えており、もちろんこちらも岩手産です。さすが、北海道に次ぐ面積を誇る岩手県、食材の宝庫です。

この日のマグロ丼。写真右はメニューに描かれた食材についての岩手県のマップ

ランチは、海鮮をはじめとした丼もの、さばの味噌煮などの定食、肉系のワンプレートメニューと多岐にわたりますが、私はこの日限定6食限定だった「釜石 欣栄丸さんのマグロ丼」一択(口が海鮮丼を求めていたので)。ほどなく運ばれてきたマグロ丼は、小鉢とともに丸いウッドプレートに載せられ、見た目もオシャレです。つやつやとしたマグロは、肉厚の切り身で食べ応え十分。地元の藤勇醸造の醤油はほんのり甘みを感じられ、マグロとの相性も抜群でした。

この魚河岸テラスの1階は、魚連が運営するショップもあります。缶詰などの魚介の加工品はお土産にぴったりです。

魚河岸テラス

 

 

ラグビーワールドカップで注目された鵜住居へ
2019年一番といっても過言でないほど、大きな感動をくれたラグビーワールドカップ。「one team」が流行語に選ばれたのは記憶に新しいところ。スポーツが得意ではない私ですが、報道される選手の人柄にほだされ、見事にラグビーのにわかファンになりました。
釜石会場として話題になった鵜住居復興スタジアムが立つのは、東日本大震災以前、釜石市立釜石東中学校と鵜住居小学校があった場所です。訪れた時はワールドカップ開催中だったので、スタジアムのそばへ行くことができませんでしたが、駐車場近くの高台からならスタジアムの中がちょっとだけ見えるよと、警備員さんが教えてくれました(本当にちょっとだよ、とかなり強調も)。展望台へのぼってみると、スタンドや緑の芝生がちらりと見えます。スタンドの向こうには、高々とそびえるコンクリートの防潮堤が。海はコンクリートの壁に阻まれてみることができません。

写真だとスタジアムと一体化して見えますが、奥に防潮堤がそびえています

この鵜住居復興スタジアムの近くに誕生した「うのすまい・トモス」は、釜石における東日本大震災の「出来事」や教訓などを紹介するいのちをつなぐ未来館、釜石祈りのパーク、ショップや食堂が入った鵜の郷交流館からなります。三陸鉄道鵜住居駅に隣接し、3月23日のリアス線(*)全線運行開始に合わせてオープンしました。名称の「トモス」には、「復興の明かりを灯す」「共に」「友」の意味が込められています。

小・中学生が発災時、どう避難したかを時間軸とともに紹介しているコーナー

いのちをつなぐ未来館の展示室では、発災当時の子ども達の軌跡を紹介しています。小・中学校の校舎と海岸までの距離は、ほんの500mしかありませんでした。この学校に在籍した児童・生徒およそ570名は、発災時、迅速に避難を開始。こんなにも海の近く校舎があったにもかかわらず、海抜11mにも及んだ津波から全員が無事に生き延びました。このことは当初、「釜石の奇跡」と呼ばれていました。
いのちをつなぐ未来館で最も印象に残ったのが、「釜石の奇跡」は偶然に助かった“奇跡”ではなく、日頃の訓練の賜物であったということ。三陸地方で言い伝えられる「命てんでんこ」という言葉は、津波がきたら“てんでバラバラ”でも逃げなさいという意味だそう。徹底した防災教育と古くからの教えが子ども達の無事に繋がりました。「釜石の奇跡」は今、「釜石の出来事」と呼ばれています。施設を後にし、日々の備えの大切さを改めて考え直そうと気持ちを新たにしました。

釜石の名物をラグビーボウルに描いたモニュメント。
奥にちらっと見える白い建物が釜石市民体育館です


新しい釜石市立釜石東中学校と鵜住居小学校の校舎は、トモスを見下ろす高い台に立ち、地域の防災拠点としての役割も担っています。2019年12月には、トモスの敷地の隣に釜石市民体育館もオープンしました。東日本大震災から8年の時が過ぎ、復興への道を進む釜石市の「今」をお届けしました。

うのすまい・トモス


*三陸鉄道リアス線について


台風19号の被害により、三陸鉄道リアス線の釜石〜津軽石間と田老〜久慈間は現在運休しており、バスによる代替輸送が行われています。田老〜田野畑間は12月28日、陸中山田〜津軽石間は2020年1月16日運行再開予定です。全線運行再開は2020年3月中の予定なので、お出かけの際はご注意ください。

運行状況について詳しくは→三陸鉄道

 

(文・写真 川崎 久子)

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