第37回 大人の自由なひとり旅を満喫する「星のや京都」(京都府・嵐山)

思い立ったら気軽に楽しめるひとり旅。なかでもさまざまな魅力に彩られた古都・京都はひとり旅の人気ディスティネーション。今回ご案内するのは、そんな大人の自由なひとり旅にぴったりの「星のや京都」です。

「水辺の私邸」で思いのままのひとり旅を!

「星のや京都」は、京都の中でも有数の観光地・嵐山の景観保護区の中に佇む宿。たくさんの人が行き交う渡月橋のたもとに立つ「星のや京都 舟待合」でチェックインしてから、専用の小舟で大堰川を遡ります。渡月橋の喧騒から離れるにつれ、次第に聞こえてくるのは小舟の静かなエンジン音と水の音だけに。目の前には雄大な嵐峡の景色がだんだんと迫ってきます。このわずか15分の舟旅が、日常から非日常へと切り替わる装置となっているかのようです。

 

桟橋に降り立ち、一本道を進むと、ゲストを出迎えるため、おりんや波紋音(はもん)などといった珍しい楽器の演奏が行われていました。異国を訪れたかのような、でもどこか懐かしい透明感のある音色が、日常を離れた時の流れを感じさせます。「水辺の私邸」をコンセプトにした宿でどんな滞在ができるのか期待に胸が膨らみます。

この日は天候不順のため、和室パブリックで演奏されていましたが、いつもは「水の庭」で奏でられています。

開業から10年を迎えた「星のや京都」。大堰川に沿って平行に延びる敷地内には、南禅寺などを手掛ける「植彌加藤造園」の職人が手を入れ育ててきた庭園が広がります。「ライブラリーラウンジ」の前にある「水の庭」は、2本の滝が流れ落ちる動的な庭。対照的に「奥の庭」は、瓦と白石を敷き詰めて枯山水を模した静的な庭で、シャクナゲ、カタクリ、夏椿など、四季折々の自然が感じられる場所です。

「ライブラリーラウンジ」の前にある憩いの場所。夏の夜にはここで納涼床も設えられ、演奏会や納涼BARも催されるそう。

瓦で描いた水の流れは、大堰川に流れ込むイメージで造られている「奥の庭」。


嵐山の自然を望むリバービューの客室

5タイプ25室ある客室はすべてリバービュー。今回、私は「月橋」という広い特別室に滞在しました。畳ソファが置かれた和室からも、窓辺にベンチソファを設えたベッドルームからも雄大な嵐峡の景色を望みます。嵐山の自然の中に身をゆだね、静かな時間を過ごしていると心が洗われていくようです。

歴史ある建物に調和する畳ソファ。腰掛けると、ちょうど正座した時の目線になるように作られています。

いつまでも寛いでいたくなるベンチソファのあるベッドルーム。

京都の豪商・角倉了以が別邸を構えたという歴史ある土地にあり、数寄屋風の建物が風情ある佇まいですが、室内に入って驚いたのは和の空間にベッドやソファなどのモダンなインテリアが調和していること。和室のもつ伝統美と現代人が快適に過ごすための機能性やデザインが見事に融合しています。

真鍮製の枠組みを使った「三浦照明」の灯りは、レトロモダンな風合いを感じます。

寝室の壁には「京からかみ丸二」の手刷りの京唐紙。光の加減で「波につぼつぼ」という文様が浮かび上がります。

黒を基調にしたスタイリッシュな浴室。機能性に優れながらも、ヒバを使った木製の湯ぶねを採用。

また、ひとり旅に「月橋」は広すぎるという方には「水の音」という客室がおすすめです。

キングサイズベッドと窓辺のベンチソファ、ライティングデスクを備え、プライベートな時間を満喫できます。

 

心穏やかに過ごせるパブリックスペース

ひとり旅といっても客室にこもってばかりではつまらないですよね。「星のや京都」には、自分のペースでゆったり過ごせるパブリックスペースが充実しています。「ライブラリーラウンジ」には、京都の書店「恵文社」のセレクトによる書籍が並ぶほか、飲み物やお茶菓子などが置かれており、コーヒーやお茶などをいただきながら、のんびり読書を楽しめます。毎朝8~10時には「水辺のおめざ」として温かいおやつも用意されます。「ライブラリーラウンジ」から川の方に出ると、そこには大堰川を愛でる特等席「空中茶室」が! 春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と嵐山の美しい景色を堪能できます。

ゆったりとしたソファで寛ぎの時間の過ごせるライブラリーラウンジ。

空中茶室は大堰川を見下ろす開放的なスペース。

「Salon&Bar蔵」は、その名の通り、蔵として使われていた建物で、木のぬくもりを感じる空間が広がります。15~18時にはウェルカムドリンクとオリジナルスイーツがふるまわれ、21~23時半にはバータイムとなり、翌朝10~12時にはコーヒーが用意されるなど、時間帯に合わせて提供されるサービスが変わるので、何度訪ねても楽しみが尽きません。

天井の高い開放的な空間ながら、古い梁や磨き込んだフローリングの床が落ち着いた雰囲気を醸しだしています。

ウェルカムスイーツには、京都の老舗「亀屋良長」とコラボしたオリジナルの和菓子「烏羽玉(うばたま)」と
スパークリングワインを!

 

季節を映した五味自在の会席料理

「星のや京都」の魅力のひとつが、ダイニングでいただく会席料理です。国内外で研鑽を積んだ総料理長の久保田一郎さんが腕をふるう、「五味自在(ごみじざい)」をコンセプトとした料理は、日本各地の旬の食材を用いた伝統的な日本料理の枠にとらわれず、世界の味や文化のエッセンスを取り入れたもの。私が訪れたのは3月上旬だったので、雛祭りや桜など春にちなんだ献立が用意されていました。

コースの始まりは食前酒から。今回は伏見の蔵元の「稼ぎ頭」。日本酒とはいえ、フルーティで白ワインのような味わいに近い感じで、「五味自在」の世界観を表わしているようです。


先附の「春貝の錦和え」は赤貝、タイラギ、ミル貝などを使った美しい一品。白い泡はレモンの香りで、爽やかに仕上げられています。


「春爛漫の肴核」と銘打たれた八寸は、春菜寄せや馬鈴薯ファルス、鱚押し寿司など、春らしい彩りの料理が盛り付けられています。

向附の「変わり造里小春仕立て」は、桜の葉の塩漬けで半日〆た桜鯛のお造り。食べた後に口の中に桜の風味が残り、春を感じさせます。昆布だしと桜の葉のジュレが添えられているのも新鮮。


椀物の「桃花餅白味噌仕立て」は見るからに春らしい一品で、中にはひね鶏のミンチ、フカヒレ、クワイなどが入り、滋味深い味わいでした。


焼物には「鰆菜種焼き」。脂がほどよくのった鰆がとてもおいしかったです。この日は長崎の鰆ということでしたが、日によって変わるとのこと。


「牛フィレ炭火焼きと旬野菜含メ煮」。鹿児島産の黒毛和牛をキプロスの塩やダルマ種のワサビでいただきます。存在感ある器は、料理長が1年かけて作ったという京備前のオリジナル。


ご飯は「筍飯」です。京都のタケノコは4月ぐらいから出始めるとのことで、今夜は鹿児島産。幽庵焼きのアナゴが入り、木の芽も香しいです。さすがにここまで来るとおなかいっぱいで完食はできませんでした。


デザートには桜のモンブランとふきのとうのアイス。このあとさらにイチゴとリンゴのコンポートが出されました。

最初から最後まで春らしさ満載の会席料理。今回はカウンターでいただいたので、料理長自らが丁寧にお料理を説明くださいました。ひとり旅の食事もこうして会話をしながらだと、美味しく楽しく味わえますね。説明を聞いていると、どのお料理もたいへん手間暇が掛けられていることが理解できます。手の込んだお料理でおなかも心も満たされた旅の一夜となりました。



そして朝食は景色を眺めながら楽しんでもらえるようにと、客室にセッティングされます。おすすめは季節の野菜がたっぷり入った朝鍋。九条ネギや白菜、水菜など昆布の旨みたっぷりの出汁に少しつけて、シャキシャキとした歯ごたえを楽しみました。

自分を見つめるひとり旅にぴったりのアクティビティ

ここからは「星のや京都」で体験したひとり旅にぴったりのアクティビティをご紹介します。

*朝のお勤め


ぐっすりと眠った翌日、早起きして大徳寺の塔頭「瑞峯院」で行われる「朝のお勤め」に参加しました。瑞峯院は、1535年(天文4年)に創建され、キリシタン大名・大友宗麟の菩提寺として知られています。ご住職と一緒に読経し、その後お抹茶をいただきました。京都のお寺と聞いただけで敷居の高さを感じてしまいましたが、瑞峯院のご住職はとてもやさしく、お抹茶をいただきながら、いろいろお話しをしてくださいます。またいつでも寄ってくださいと言われ、あたたかな気持ちになりました。

本堂、唐門、表門が国の重要文化財に指定される瑞峯院。

読経の後にはお庭を見学。枯山水の名園として知られる「独坐庭」(写真・下)とキリシタン大名・大友宗麟の菩提寺らしく、石組を十字架の形に配した「閑眠庭」が見られます。

  • 期間:通年(除外日あり)
  • 所要時間: 約2時間半
  • 料金:12,750円(税・サービス料10%別)

 

*水辺の深呼吸

「朝のお勤め」から宿に戻って参加したのが「奥の庭」で毎日開催される「水辺の深呼吸」です。朝の爽やかな空気のなか、日の光を浴びながらスタッフの指導のもと深呼吸やストレッチをしました。スッキリと体が目覚めるようでした。

  • 日時:毎日8:30~9:00
  • 料金:無料

 

*聞香入門


和室パブリックで開催される「聞香入門」。まずは香道の歴史を学び、それから実際の道具を使って香りを聞く体験をします。香りを「聞く」というのは、心を傾け、集中することからそのように言うそう。香炭の入った香炉の灰を山型に整え、香木に炭の熱を伝え、香りを嗅ぐという一連の所作を教えていただいたのですが、先生の作るように香炉の灰づくりが上手にはできず、同じ伽羅香木を使っているにもかかわらず、あまり香りが立ってきませんでした。先生の香炉をお借りして香りを楽しみました。難しいですね。でも普段なかなかできない京都らしい体験ができてよかったです。

  • 期間:通年
  • 時間:10:30~11:10
  • 料金:2,800円 / 1名様(税・サービス料10%別)

 

ほかにも狂言師の指導のもと、全身を使って笑い、疲れやストレスを吹き飛ばす「新緑の青空狂言」や、北山杉の蚊帳の中で瞑想する「水辺の夜坐」など、今後も季節に応じたアクティビティが予定されています。乞うご期待!

「新緑の青空狂言」で晴れやかな気持ちに!

 

奥嵐山の美しい自然に囲まれ、ひとり静かに過ごすのもよし、自分と向きあうアクティビティを体験するのもよし。いずれにしても1泊2日の「星のや京都」の滞在は、新たな活力を得る体験になるのは間違いないでしょう。心身ともに開放され、リセットする大人のひとり旅、いかがでしょうか。

 

星のや京都

京都府京都市西京区嵐山元録山町11-2

TEL0570-073-066(星のや総合予約)

料金:106,000円~(11泊あたり、食事別、税・サービス料10%別)、夕食20,000円(税・サービス料10%別)、朝鍋朝食3,800円(税・サービス料10%別)

http://hoshinoya.com

(取材・文 山本 厚子)

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