第90回 出雲エリア界めぐり [前編] 灯台と紺碧の海と。開業したての「界 出雲」で爽快なパノラマに出会う(島根県・出雲市)

2022年11月16日、島根の日本海を望む地に「界 出雲」が誕生し、さらに同じ日、玉造温泉にある「界 玉造」もリニューアルオープンしました。海辺の湯と山あいの名湯、立地も趣も異にする2つの界をめぐる2泊3日の旅は、開業したての「界 出雲」からはじまります。

半島の先、日御碕に佇む絶景自慢の温泉旅館
「界 出雲」を訪れたのは、2022年11月18日。ちょうど出雲大社では、八百萬の神々が集い、縁結びの神議り(はかり)が執り行われる神在祭の最中。参拝客でにぎわう参道を過ぎ、日本海に沿って続く爽快なワインディングロードをひた走ることおよそ15分。島根半島の最西端にある日御碕に佇む宿にたどり着きます。

コンセプトは「灯台と水平線を望む、お詣り支度の宿」。宿の西側には、白亜の日御碕灯台が青空に向かってすっと立ち、歩いて5分ほどのところには、朱色の社殿も雅やかな日御碕神社が鎮座しています。
館内に足を踏み入れると、エントランスは2階まで吹き抜けになっており、一面の大きな窓越しに、灯台と松林を借景とした庭園を望めます。ご当地の伝統工芸を館内の意匠に取り入れ、常にその味わいを感じられるのが、「界」滞在の魅力の一つ。もちろん「界 出雲」でも島根の工芸品が館内の各所にさりげなく散りばめられています。

例えば、エントランス。訪れるゲストが真っ先に目にするフロント横の壁面には、砂鉄から鉄を取り出す伝統の技法「たたら製鉄」により生み出された玉鋼と、ノロ(鉄屑)を用いたモチーフが。日本海に沈む夕日を表現しています。ノロは、玉鋼を作る際に、釜の粘土に砂鉄が反応してできるのだそう。日本刀の原料として玉鋼が輝く一方、捨てられる運命ながら、製鉄の過程で必ず生まれるノロにも光を当てる。伝統工芸の表裏を感じられる作品です。

玉鋼とノロを用いた夕日のアートワークを作成した鍛冶工房弘光は、たたら製鉄の流れをくむ伝統技法を継承する工房。

エントランスから奥へ進むと、「ご当地楽広場」が広がります。その中央に長く伸びるベンチにも注目です。ベンチの表面を覆うのは、深みのある赤色が美しい「石州瓦(せきしゅうがわら)」。防水性に優れ、硬く塩害にも強いこの瓦は、愛知の三州瓦・兵庫の淡路瓦と並び「日本三大瓦」と称されています。独特の色合いは、来待石で作られた釉薬を用い、1300度以上の高温で焼成することで生まれます。生産地である島根県西部の石見地域では、石州瓦の町並みが見られるのだとか。石州瓦のベンチに腰掛けて、石見の家並みに思いを馳せるのも楽しいひと時です。

石州瓦は「亀谷窯業」の作で、同様に客室ルームサインも製作しています。

パブリックスペースで、客室で、移り変わる海景色を眺めて
トラベルライブラリー「かわたれテラス」は、2階フロアの奥、館内で最も開けた景色を楽しめる場所にあります。

「かわたれテラス」のカウンター席から望む朝焼け
ソファーが置かれ、ゆったり過ごせる室内。テラスには、海に面したカウンター席が設けられています。コーヒーや紅茶などのドリンクを片手に、刻々と移り変わる海と光が織りなす風景を堪能したり、ライブラリーに並ぶ地域の歴史や文化にまつわる書籍で読書を楽しんだり、思い思いにくつろぎの時を過ごせます。
こちらのテラス、いつ訪れても美しい眺望を楽しめるのですが、特に日の出前の時間帯の景色がおすすめ。「たそがれ時」に対し、明け方の薄暗い時刻を示す「かわたれ時」が名前の由来になっている通り、まだ朝日が昇りきらない早朝、地平線に隠れた朝日が半島の稜線を橙色に染め上げていく景色に神々しさを覚えます。ちょっと早起きして眺めたい風光です。

「かわたれテラス」の入り口に飾られたライトも、鍛冶工房弘光の作。テラスからは、天気に恵まれれば、隠岐島の島影も望めます。ライブラリーに用意されているカップ&ソーサーは雲南市にある「白磁工房」のもの。

大浴場は1階フロア奥にあり、トラベルライブラリーとほぼ同じ位置。露天風呂につかりながら見えるのは、遮るものがない大パノラマ!夜は満天の星が輝きます。
湯船に注がれる「出雲ひのみさき温泉」の泉質は、ナトリウム-塩化物強塩温泉。塩分をたっぷり含んでいることから、お清めの塩に見立て、出雲大社や日御碕神社にお参りする前の“みそぎの湯”として浴びるのに最適な湯といえます。
効能は神経痛や筋肉痛、冷え性、疲労回復など。さらりとした肌ざわりの湯に肩までとっぷりつかれば、湯上がりも湯冷めしにくく、体が芯まで温まっているのが分かります。寒さが増すこれからの季節、特にうれしいお湯です。

露天風呂には、通常の湯船と浅めの寝湯が並びます。

大浴場には、泉温約30度の源泉をかけ流す湯船と、加温した温泉が注がれる湯船が並び、交互入浴もおすすめ。

「出雲ひのみさき温泉」についてや、温泉の効果的な入浴方法を学べる「温泉いろは」は、ご当地楽広場にて毎日16時に開催しています。

「界 出雲」では、回廊を挟んだ西側と東側に客室があります。西側なら白亜の日御碕灯台が、東側なら日本海を一望でき、さらに東西で意匠が異なります。
今回滞在したのは、海側のお部屋。中央のデスクで空間がゆるく仕切られ、窓際側にソファーコーナーが設けられています。ベッドコーナーのヘッドボードに飾られているのは、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている石州和紙のアートワークで、東側のお部屋らしく、日の出の時の水平線をイメージしています。ソファーには草木染めのクッションが並び、朝日の穏やかなパワーを彷彿とさせる設えになっています。

茶器は石見焼窯元「石州嶋田窯」のもの、クッションは「結工房」の草木染めです。

灯台側のお部屋も気になりますよね!日御碕灯台と夕日を望めるお部屋は、辺りをオレンジ色に染める夕日をより鮮やかに感じられるよう、補色効果のある藍色でまとめられています。ヘッドボードのアートワークやクッションなど、全く異なる雰囲気で、灯台側・海側いずれの客室も魅力的です。

ソファーに並ぶクッションやアートワークを制作したのは江戸時代創業の「天野紺屋」。海側のお部屋とまた一味異なり、大胆な印象。(写真提供:星野リゾート)

篝火の焚かれた舞台で、神楽を楽しむ「ご当地楽」

各地の伝統芸能・工芸などをご紹介する、界名物の「ご当地楽」。毎晩21時15分から「ご当地楽広場」のテラスにある舞台にて披露されます。
「界 出雲」の演目は、「石見神楽」の「鹿島(国譲り)」。天上の国から遣わされた使いが、出雲国を治める大国主命へ国を譲るように迫り、天上の神と地上の神の間で国をかけての戦いが繰り広げられます。演じるのは、「石見神楽」の神楽師より指導を受けた「界 出雲」のスタッフたち。神々の戦いのシーンでは、右に左に目まぐるしく立ち回り、さらに衣装の早変わりも披露。出雲大社の起源を描いた物語の結末はもちろん、スタッフの熱演にも注目です。

神楽は篝火が焚かれたご当地楽広場の舞台にて上演。きらびやかな衣装は全て職人の手作業によるもの。

「石見神楽」を満喫した翌日は、「現代湯治体操」でスッキリお目覚め

昨晩、神楽を演じた舞台が、朝7時からは「現代湯治体操」の舞台へ。朝日を受けて、体操で体を目覚めさせましょう。
「界 出雲」オリジナルの体操は、出雲神話をイメージしたもので、神々が稲佐の浜から上陸し、出雲大社へと向かう様子をストレッチにしています。
日本海の荒波に身体を慣らす様子をイメージして、大の字状に開いた身体を左右にゆらゆら揺らす動きや、足を左右に大きく開き、弁天島を探して体を左右にひねる動き、荒波をかき分けて前進する動きと、ストレッチはどれも独創的。実際やってみると、思いの外ハードです。ストレッチに合わせた呼吸法も説明してくれるので、自宅でも試したくなります。

笑顔で対応してくださいましたが、普段運動していない体には想像以上にキツイ!無理のない範囲内で実践しましょう。

出雲大社をガイドとめぐり、オリジナルの「神饌朝食」を味わうプランも
「神饌」とは、神様に献上する食事のこと。12月よりスタートしたプランでは、この神饌の要素を取り入れたオリジナルの「神饌朝食」を味わい、出雲大社をガイドの案内でめぐることができます。
「神饌朝食」では、神様にその土地でとれる一番良い食材を献上するという慣しに従い、素焼きの器には玄米、白米、餅、川魚、野菜、海藻、果物など、旬の土地の食材が盛り付けられます。三方の上に整えられたこれらの料理は、食べる順番に決まりはありませんが、最後に御神酒で締めくくるのが良いだそう。この神饌朝食に加え、通常の朝食も用意されるので、ボリューム満点です。

写真左が「神饌朝食」。この日は、玄米、白米、餅、鰙、海士の塩、ラディッシュ、合鴨、しじみ佃煮、めかぶ酢、鶏照り焼き、柿、さらに日本酒というお品書き。素材そのものの味わいを堪能します。

開運をイメージした器も楽しみな「季節の会席料理」の夕食
各地の「界」を訪れる度、どんな器をまとって料理が登場するのかワクワクします。
「界 出雲」の夕食「季節の会席料理」は、出雲大社が近いという土地柄にちなみ、テーマは「開運」です。

先付け「出雲そばの薯蕷寄せ」は打ち出の小槌をかたどった器に、八寸・お造り・酢の物を盛り付けた「宝楽盛り」は、縁結びをイメージしています。

ごはんは出雲大社の大しめ縄をイメージしたオリジナルの土鍋で炊かれます。この日は「生姜と三つ葉の土鍋ごはん」。パカっとフタを開けると、湯気と共に生姜と三つ葉の香りがほのかに漂います。三つ葉の爽やかさと、生姜の風味が相まって箸が進みます。

この日の甘味は「ぶどう神話」(島根ワイナリー)といちじくのサバラン仕立て。器は宍道湖のほとりにある袖師窯の作品で、朝食で供される香の物が入った小さな壺も袖師窯のものです。

出雲のいいモノに出会える場所

客室の茶器、夕食の器など、館内で島根の窯元の作品に触れているうちに、その魅力の虜に。エントランスにあるショップでは、客室の茶器やライブラリーで使用しているカップ&ソーサーを買い求めることができます。陶器の他にも、お菓子やお茶など島根の食も並びます。

開業したばかりの「界 出雲」は、館内にいながらにして出雲の雄大な景色をたっぷり楽しめます。宿の周辺には日御碕灯台や日御碕神社へと続く散策路もあり、散歩コースにも事欠きません。オーシャンビューを心ゆくまで堪能した翌日、今度は山あいの名湯、玉造温泉へ向かいます。

→出雲の界めぐり[後編]へ

【界 出雲】
電話: 050-3134-8092(界 予約センター)
料金:1泊25,000円〜(2名1室利用の1名あたり、税・サ込、夕・朝食付き)
URL: https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiizumo/

取材・文/川崎久子

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