
世界中から愛されるリゾートアイランド、バリ島。ビーチリゾートだけではなく、信仰や伝統文化が根付き、神々の住む島とも称されます。なかでもウブドはバリの文化・芸術の中心地で、豊かな自然と文化が融合しています。2017年に開業した星のやバリは、「星のや」ブランドの海外第1号。ウブドの市街から車で30分ほど、ングラ・ライ国際空港からは2時間30分ほどかかります。遠い……と感じてしまいますが、じつはこの遠さがとても大切だと、滞在中に深く深く実感します。

バリの伝統的な門をくぐるとオープンエアのロビースペースが現われます。施設は聖なる川・プクリサン川が流れる渓谷の上に位置。平坦な場所にはヴィラタイプの客室が並び、深い渓谷に面する場所にはデッキウォークが張り巡らされ、パブリックゾーンや施設を象徴するカフェ・ガゼボが点在します。

密林に埋もれるようなカフェ・ガゼボ。急峻な谷を覗き込むような造りは自然の中に浮かんでいるような感覚にもなります。朝は森の向こうから朝陽が立ち上がり、昼は吹き抜ける風が心地良く、夜は静謐な時間の流れの中で鳥や虫の声に敏感になります。それにしても圧倒的な自然環境です。この土地の力を感じるためならば、空港からの長い移動はけっして苦ではないと、誰もが思うはずです。
もちろん、このカフェ・ガゼボを楽しむためのアクティビティも揃っています。
まずは朝食。アタ製のバスケットが運ばれ、ピクニックスタイルで楽しみます。盛りだくさんのフルーツとチキンのサンバルやクロケット、ポテトサラダなど、そしてローカル食のブブール・インジン。黒米を使ったお粥でココナッツミルクや黒糖で甘じょっぱい味付けになっています。地元では農作業の前にパパっと食べるそう。

またウコンやタマリンドなどを使ったインドネシアの健康ドリンク、ジャムウも体に沁み渡ります。

ランチ代わりでは、チャミラン ガゼボ(アフタヌーンティー)が楽しめます。手毬寿司やミニサンドイッチなどのセイボリー、糯米で作る伝統的なお菓子やスコーン、チョコレートムースなど。お茶は紅茶やハーブティー、緑茶など5種類から選びます。

もちろんカフェメニューやかき氷などもあり、夜は1日1組限定で空中ガゼボディナーも楽しめます。取材時は、ダイニングでのディナーのあと、モクテルでまったり。柔らかい光が灯る夜の雰囲気もとても気に入りました。

バリと日本が調和する客室
客室はすべてヴィラタイプで3種類。大きく3つのブロックに分かれ、それぞれのヴィラは川を模したプール沿いに並びます。人・自然・神との調和を重んじるバリの建築、そして水は重要なランドスケープの要素で、敷地内に豊かな川が流れるように、ヴィラという家々をプールが結び、ヴィラのテラスから直接プールにダイブすることができ、プールから上がればテラスのガゼボでひとやすみ。

客室内はバリと日本のいいとこどり。ベッドのヘッドボードには見事な木のカーヴィング(彫刻)。芸術の村であるウブドらしい、職人技が見て取れます。バティック(ろうけつ染め)のランプシェードや彫像はバリらしく、そうかと思うと部屋を囲むテラスは縁側のようであり、浴室には嬉しいことに深いバスタブも用意されています。

パブリックスペースにはストレッチができるヨガガゼボのほか、ライブラリーやスパなどが並びます。さらにバリの家々には家寺があるように、この施設にもお寺があり祈りの場となっています。
左:ヨガガゼボで朝のストレッチ 右:ライブラリー
美と生活に触れるアクティビティ
星野リゾートといえば、良質で考え抜かれたアクティビティが揃うことで知られています。もちろん星のやバリでもしかり。今回はチャナンづくりとバティックのふたつの手仕事を体験。
チャナンは、神様へのお供え物。毎日のお祈りに欠かせないもので、基本は女性がつくるものだそうです。毎日100個つくる家もあるとか。昨今は市場で既製品が売られています。
チャナンは村々のお寺はもちろん、道路や店舗にも供えられているので、どこでも目にすることができます。外だけではなく家のなかでは玄関や家寺など、とにかくあらゆるところに捧げられています。星のやバリの敷地内でもロビーや川の近くにも。神々への感謝と祈りが込められています。しかも神だけではなく悪霊にも悪いことをしないようにと、地面に捧げられるのです。
チャナンづくりはまずヤシの葉で四角の土台を作ります。葉に切り込みを入れ、細い竹製の針で留めます。お供えは土に還るように自然のものを使うのが基本だそう。その中に色の異なる花を飾ります。色は東西南北を表し、最後に細く切ったパンダンの葉を乗せます。

そして敷地内のお寺に供えます。線香に火をつけ、聖水をかけ。毎日行うことで心が整うといいます。ゲストもサロン(腰布)とスレンダン(腰紐)を巻いて同様にお供えします。

次はスタッフの指導のもと、オリジナルのバティックづくり。バティックは模様の部分を蝋で描き固めて色が付かないようにし、全体に染色を施すろうけつ染めです。絵柄を選び、熱々の蝋を入れた筆で素早く描いていきます。これがなかなか難しく、ぼたぼたと垂れてしまったり、薄くなってしまったり。厚く蝋を盛り上げないと色を乗せた際に滲んでしまいます。
次に好みの色を塗り体験終了。その後乾かしてから蝋を取り除きます。

手描きならではの味わい?があるかと。

また、リゾートには欠かせないスパも体験。スパ棟は、なんと施設のある谷の上からスロープカーで下った中腹にあります。より緑が濃厚になり自然のエネルギーをもらえるような空間。バリニーズのトリートメントで癒しの時間の始まりです。

伝統と技術が交差するディナー
窓のない開放的なダイニングでいただくディナーはコース料理とアラカルトが用意されています。コースディナーはバリならではの食材やスパイスを用い、現代的な手法で仕上げた料理。

構成は前菜・スープ・リゾット・野菜・魚・牛肉・デザート2品。前菜は鶏の香草蒸し焼きのファルスやサーモンタルタル、ラムのサテーなど5品。それぞれの組み合わせがユニークです。スープはフレッシュ感ある帆立のコンフィにトマトとスイカの透明なスープ。

次のリゾットはとても気に入った一品。3種類の米を使ったリゾットと、しっかり焼き上げたスパイシーなダック。バリの伝統農法を象徴するような、米とアヒルの組み合わせ。アヒルを田んぼに放つことで自然の力を活かしたアヒル農法はよく知られるところです。

たっぷりの温野菜(野菜が立ってる!)はガドガド(ピーナツソースをかけたサラダ)で。魚料理はスズキに味が近いバランミ(たぶんバラマンディ)をとびっことドラゴンフルーツのチャツネで。肉料理はバナナの葉でじっくり焼き上げたビーフをパプリカチリソース・グレービーソース・ハーブオイルで。


デザートはパッションフルーツとマンゴーのシャーベット。緑のソースが気になり、名前を聞いたところロロチュムチュムという生薬。ちょっと複雑なテイスト。ハーバルドリンクとして親しまれているそうです。そしてバリ産のチョコレートを目の前で盛り付けて一品に。密度の高いチョコレートでした。

馴染みのない食材や味わい、それがまったく違和感なく繊細で美しく昇華された料理となって目の前に次々と。満足感の高いディナーでした。
ダイニングでは朝食も昼食も提供しています。朝食ではインドネシアン・ジャパニーズ・アメリカンの3種類のセットのほか、アラカルトもあり、お馴染みのナシゴレンもこんなにお洒落でした。

密林が心と体を包み込む星のやバリ、この立地は唯一無二。喧噪や煩雑や邪気から解放される、ほんとうのリトリート空間がありました。バリはほかの国とは異なる空気がある、特にウブドはスピリチュアルな土地とよく言われますが、それは神を身近に感じる人々の篤い信仰がもたらす気配かもしれません。
今回はちょっと駆け足の取材になりましたが、できれば長期滞在し、「知られざるウブドに出逢う」のコンセプトをもっと深く求めたいと思いました。

取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)







